【レポート】ソーシャル・キャピタルとしてのお寺や僧侶の価値を探る「てらつな」in北海道

はじめまして、玉置真依(たまき・しんえ)です。普段は北海道の仁木町という田舎町にあります、高野山真言宗のお寺、仁玄寺(にんげんじ)で副住職をしております。この度は、今年から仲間と始めた北海道の超宗派のお坊さんによる研修会「てらつな」について、ご報告をさせていただければと思いました。

●「てらつな」とは

正式には「てらつな~ソーシャル・キャピタルとしての“僧侶のつながり”~」といいます。ソーシャル・キャピタルとは、「人と知り合う、つながること自体が、その人自身の生きる力になる」という考え方のこと。研修会の副題にしては、かなり長くなってしまいましたが、「この自主研修会を繰り返すことで、いずれ参加者のあいだに有意義な『つながり』が生み出せたらいいな」という事務局の願いを込めています。

こういった想いに対しては、有り難いことに『人口減少社会と寺院~ソーシャル・キャピタルの視座から~』(法蔵館、2016年)や月刊住職の連載でおなじみ、北海道大学大学院の櫻井義秀先生から全面的なご協力をいただくことができ、5月20日、北海道大学・百年記念館にて第1回「てらつな」を開催させていただきました。それでは、私たちの目指すものが少しでも伝わったらいいなあと思いながら、当日の様子を報告させていただきますね。

●ウェルビーイングと仏教

まずは櫻井先生から、「しあわせと宗教-日常の中にある臨床」と題し、最新のウェルビーイング研究の調査結果を踏まえたご講演をいただきました。ウェルビーイング、直訳すれば「良く生きること」になるでしょうか、客観的な制度と主観的な満足度の両方を含めた「しあわせ」の概念とのこと。 櫻井先生たちは、これまでは明らかにされていなかった「宗教がどの程度、日本人のしあわせに寄与しているか」を調べるべく、社会調査を行ったそうです。
 
(以下、1時間ほどのご講演を玉置の文責において大胆に要約させていただきます。調査やデータ分析の全体像については、ぜひ『宗教とウェルビーイング しあわせの宗教社会学』(北海道大学出版会、2019年)の本文をお読みいただければと思います。)

調査結果から、日本には「自分は宗教団体に所属している(自分は信仰を持っている)」と考える人は少ないけれど、神や仏の存在を信じている人はそれぞれ6割程度いることなどがわかりました。

更に、たとえば「『現在の私があるのは先祖のおかげである』という意識を持っている人の方が、主観的な幸福感が高い」ということ、また「社会的に孤立感を深めている人ほど、幸福感が下がる」傾向にあることも確認できました。

こういった調査結果から見えて来たのは、たとえば葬儀や法事で、先祖から自分へと続く「命のつながり」を実感し、家族や親族とのつながりを確認する。地域のお祭りに参加して、町内の人たちとのつながりを確認する。あるいは、檀家さんが集まって掃除するとかおしゃべりする。こういった、ともすれば、「こんなものは旧習だ」と煙たがられそうなものが、実は日本人の幸福感を根底で支えていたという事実です。

つまり、特定の教団への所属意識というよりは、慣習的な面で、間違いなく宗教は日本の人々の幸せに寄与してきたし、地域社会において、寺院が果たしてきた役割は大きかったと言えるでしょう。

ただ現代は、人口減少・少子高齢化や経済格差が進むなど、家族の在り方が根本的に変化する時代であり、私たちの人間関係は縮小傾向にあります。そのなかで、人々の幸せに寄与する機能をどう残していくのかが、お坊さんの知恵の出しどころなのではないでしょうか。
 
…という、お坊さんへのエールのようなご講演でした。

●お寺の知恵の出しどころ

その後、質疑応答と休憩を挟んでから、なるべく宗派ごちゃまぜの小グループをつくり、話し合いをしました。まずは「変わりゆく時代のなかで、人々の幸福感を増やしていくために、お寺に出来る工夫って何だろう?」ということ。櫻井先生のご講演での「知恵の出しどころ」と提示いただいた部分ですね。例えばあるグループでは、お寺カフェや断食リトリート、社協さんの取り組みへの参加など、それぞれがお寺で試みている工夫を聞きあうなかで、改めて「人とつながる」「自分の心を見つめる」ことの重要性が見えてきたそうです。

もう1つは、「今日ここに集った私たちで何かやってみたいこと、出来そうなことはありますか?」というもの。「てらつな」の今後の参考にできればと思い、聞かせてもらいました。上のグループでは、北海道の風土・地域性を発揮して何かできないだろうか、お寺にネガティヴ(よくない)な印象を持つ方もいらっしゃるようなので、なにかポジティヴな印象をもってもらえるような楽しいイベントがあってもいいのではないか、そんな話も出たようです。

参加者アンケートでは、櫻井先生のご講演の反響ももちろんのこと、グループワークも大変好評でした。理由として、宗派の立場を離れつつ、お寺をどうするかという共通点について新鮮な会話が出来たことを挙げる方が多く、主催者として有り難い限りでした。

●おわりに

駆け足での報告になりましたが、「てらつな」が目指すものや第1回研修会の様子、伝わりましたでしょうか?

北海道は広いので、お坊さんが1か所に集まること自体、他の都府県よりも難しいように思います。それでも、超宗派のお坊さんだから学べることや協力し合えることは、きっと色々あるなぁと思うのです。

今後も今回の櫻井先生のように、お坊さんやお寺の取り組みについて、お坊さんとは違った角度から見つめている方にお話を伺い、参加者同士で活発な意見交換をするなかで、改めて自身やお寺の良さ・特色に気付き直したり、新しいアイデアが生まれて来たりするような学びの場を開いていきたいと思っています。

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