傷ついた心に耳を傾ける人/NPO法人『HAPPY FORCE』代表 今城良瑞さん

私は、今城良瑞さんのことを、今城さんの著書『ボクらの仏教 人生が楽になるヒント』を通じて知りました。読みやすい文章、わかりやすい話の進め方、行間からにじみでる大阪の人らしい大らかな笑いのセンス。そして「ちょっとでいいから仏教の教えの良さを知ってほしい」という思いが伝わってきました。こんな本を書かれるのはどんなお坊さんなんだろう? と、今城さんのブログを読んでみるとなんだか楽しそうな方で、ぜひいつか『坊主めくり』でお話を伺いたいと思っていました。前編では、なぜ今城さんがお坊さんになったのか、そして現在の活動を始められるまでのお話をご紹介します。

お坊さんに遊んでもらう子供時代

僕はお寺に生まれたわけではないんですよ。ただ、祖父が四天王寺の西門前でうどん屋をしていましたから、小さい頃はよく四天王寺の境内で遊んでいましたね。また、祖父の店にうどんを食べにくるお坊さんたちに遊んでもらっていましたので、子供の頃からお坊さんは身近な存在でしたよ。

お坊さんになろうと思ったのは、大学進学を考えていたときでしたね。僕らが高校生の頃はバブル全盛期で、大人は毎日バカ騒ぎをしていましたし「世に出れば誰でも稼げるんやろ?」と思っていました。だから、社会に出てから役に立つわけでもない学問を学ぶくらいなら、仏教を学ぶほうが根本的に有効なものを学べるような気がしたんです。

高校生の時は、やんちゃしてましたよ(笑)。でも、どんなアホな高校生でもこのまま一生はいけないとわかりますし、体力的な強さが本当の強さではなく、もっとトータルな強さが必要やなと思っていました。お坊さんになれば、年齢を重ねていくごとにずーっと上がっていって、最後に頂点がくるような感じがして魅力的に思えたんです。

どっぷり仏教を学びに高野山へ

僕の実家は浄土真宗やったんですけど、なぜかお墓は高野山にあってね。高野山がどういう場所か知っていましたので、「どっぷり行くなら高野山しかない」と思いました。自分の性格を考えると、京都の大学へ行けば遊ぶだけで終わってしまうとわかっていたのでね(笑)。

大学の勉強はむっちゃ難しかったですよ。はじめのころは「何言ってるのかさっぱりわからへん」と思ってました(笑)。でも、やると決めたなら、お坊さんになるところまで全部やろうと思っていましたし、途中でやめたいと思うことはありませんでした。

高野山大学では、入学してすぐの5月に集団得度があるんです。そのとき、学生課で「師僧はどうする?」と言われまして。ふと、高校の先生にお坊さんがいたことを思い出して「先生、なんか師僧がいるねんて。ええかな?」と電話したんです。そしたら「ええよ」って軽く引き受けてくれまして(笑)。その方が、いま勤めている某本山の長老猊下です。

今考えるとすごいなぁと思いますけどね(笑)。僕は学生のノリで軽く言ってますし、先生も僕の中高生の姿をご存知ですから、こういう感じでいけたんやと思います。

「ちょっと和尚さん」と呼び止められて

修行を終えた後は、高野山にこもった5年間分を遊ぼうと思っていたんですよ。だから、師僧になっていただいた先生に「うちのお寺で働け」と言われたときも、「いやです、僕はプータローやります」って答えまして(笑)。でも、「あほか、お前!」って無理やりつれて来られて今に至っていますけどね。

このお寺は、ここは観光寺院じゃなくてベースが祈願・祈祷の庶民の寺で、とにかく人の出入りが多いんです。相談ごとなんて、仏事のことから個人的な悩みまで、毎日のように飛び込みでいっぱいあるんですよ。伽藍を歩いていただけで、お参りの人にいろいろ話しかけられて1時間経ってた、なんて普通にありますからね。

あるときなんて「和尚さん、給料いくらもろてんの?」と聞かれて、「はあ?」「20万円はもろてんの?」「はぁ、もろてるけどぉ」と話していたら、「実は、うちの子、引きこもっててな……」と。言いたかったのはそこやったんかとひっくり返りそうになりましたね(笑)。大阪のお寺やということもあるのでしょうが、このお寺を歩いている人は思ってることを何でも言うてきはるんですよ。

若いころよりも、歳を取るにしたがって呼び止められる回数が増えてきたように思います。あまり若い人よりも、ある程度歳を取ったお坊さんのほうが相談しやすいのかもしれませんね。

お坊さんの自行は利他とセットのはず

5年間プータローしようと思っていたのにお寺に勤めましたので、「よし、働きながらやったら10年間遊んでやる」と思ってたんです。でも、10年経つ前に遊びつくしてね(笑)。そろそろ本腰入れてお坊さんするぞとなると、僕らがやっているのはあくまで大乗仏教ですから、衆生側を見る時間は絶対に必要やし自行として利他をやらないといけないといけないと思いました。

お坊さんとしては、自行と利他はセットやし、利他という名の自行やと思います。もちろん、加行期間のように、まったくの自行をしなければいけない期間も必要です。でも、利他をするときがまったくゼロではいかんと思うんですよね。

何か現実に即した形で、自行としての利他をできないかと思い始めたときに、影響を受けたのは”夜回り先生”で有名な水谷修さんでした。あの人の言っていることを聞いているとね、全部仏教に置き換えられる気がするんですよ。お寺でいろんな人から相談されていたこともありましたし、僕はつらい思いをしている人を助けることをやろうと思いました。

祈願・祈祷の寺でご利益を求める人に接している僕が、こういう方向に向かうのはひとつの自然な流れやったと思います。ご利益を求めるというのは100%「欲」ですし、祈祷によってその「欲」の手伝いをするんです。でも、その「欲」を求めるに至るプロセスにある不安や不満を考えたときに、僕にできることはないかと探し始めたんですね。

たとえば「お金が入りますように」という願いがあるとして、「どうしてお金が必要なの?」と聞いてみると「DVを受けているから別れて自立したい」ということが根本にあったりします。こういう話を何度も聴いているうちに、祈りを奥深くまで学ぼうとする人もいるでしょうし、祈り以外にも何かできることはないかと考える人もいるでしょう。僕の場合は、たまたま後者だったんです。

何かストレスを与えられたときに、人ってそれぞれに反応の仕方があると思うんです。僕は学生の頃からやりたい放題にむちゃくちゃなことをするタイプやったけど、内側にこもってため込むタイプの人もいます。そのときの気持ちが僕にはわかるから、苦しみを生じさせているストレスを何とかしてあげたいんですよね。

NPO法人『HAPPY FORCE』でも相談をスタート

そしたら、ちょうど2003年に高野山真言宗主催で「心の相談員養成講習会」があることを偶然知って。心理カウンセリングを中心に、さまざまな援助のしかたを学ばせてもらいました。そのときに、スーパーバイザーをしていたある大学の心理学部の教授がひきこもりを専門にされていて、NPO法人を作って取り組みたいとおっしゃっていたんです。2005年にその先生が理事長になって不登校や引きこもりを対象にサポートする『HAPPY FORCE』を設立することになったので、僕も理事として参加しました。

僕にしてみたら、まずは何からでもとっかかりをつけてやっていこうと模索しながらのスタートでした。当初は理事長の指導のもと『HAPPY FORCE』でひきこもりや不登校をしている人の自宅を訪問してカウンセリングをしたり、講演会などの企画をしていたんです。2007年に、初代理事長は大学の仕事が忙しくなって退任されたので、今は僕が理事長を引き継いでいます。

『HAPPY FORCE』の活動を続けるなかで、不登校、引きこもりだけでなく、救いを求める声に対応していくようになり、今は対象を限定せずに「助けてほしい」と言われれば対応するようになっています。お寺で相談を受けると、お寺でできることできないことがありますので、僕もそれに制限を受ける部分があります。でも、NPO法人としての活動であれば自由な状態でやりたいことができるんですね。

『mixi』コミュニティからリアルへ連れ出したい

NPO法人『HAPPY FORCE』をはじめた後、2006年の終わりごろに『mixi』のコミュニティ『言えない心の傷』にも参加しました。『言えない心の傷』は、虐待やレイプ、リストカットなど誰にも言えない心の傷を負った人が集まるコミュニティです。当初は18歳の大学生が管理人で、一人でレスをつけてがんばってたんです。これは大変やなぁ、偉い子やなぁと思って、僕もレスをつけたりするうちに副管理人になってくれと言われたんですね。

その後、管理人が大学を卒業して就職することになったので、管理人を代わってほしいと言われて去年から僕が管理人をしています。最初は少人数のコミュニティだった『言えない心の傷』も、今は2万人の参加者がいます。そんなにたくさんの人が心に傷を負って参加しているって本当はおかしいことですよね。

HAPPY FORCE主催の巡礼ツアーの様子。

コミュニティの書き込みには、深刻な内容のものも少なくありません。僕は、そのひとつひとつに短い文章でレスを返すようにしています。ネットでは「ちゃんと読んでますよ。聴いてますよ」ということがわかればそれでええと思うんです。ネットを利用してはいますけど、僕はネットの中だけでものごとが解決すると思われるのはいやなんです。やっぱり、本当に何かを解決したいなら、現実の世界の中で動いていかないといけないと思います。

最終的な目標としては実際に会って何とかすることですので、『言えない心の傷』のほかに『ネットからリアルへ』というコミュニティも作っています。匿名だからこそ言いやすいというのは、ネットのいい部分やと思います。実際に会って話すとなると、勇気もいるしハードルも高いかもしれません。でも、ネットの中だけで終わらせていても何にもならない。現実の世界に出てきてもらって、僕に会ってもらって縁を深めてもらえれば、相談の内容も深まっていきますしね。もっとたくさんの人に会って話ができればと思っています。

『ボクらの仏教 毎日がラクになるヒント』を書いて

いろんな悩みや苦しみを持つ人に対して、特効薬的なものは何もないんですよね。ただ、ちょっとした考え方や行動の変化が積み重なっていくと、1年先や2年先には何かが変わっていって、いろんなことがいいほうに転がっていくと思うんです。『ボクらの仏教』では、そのきっかけを作るものを書きたかったんですね。

活字離れが進んでいると言われていますし、なるべく文章を簡潔にわかりやすく、面白く読んでもらえるように気をつけて書いたつもりです。やっぱり、今の若い世代にはそうじゃないと無理でしょう。僕も大学で「こんな授業ムリ! 何言ってるかさっぱりわからへん」って思いましたからね(笑)。

もともと、仮のタイトルは「17歳からの仏教入門」やったんです。だから高校生にも読んでもらえるくらいに軽く書いていますし、新幹線の東京−大阪間で読み終われるボリュームです。仏教の入り口、入門書としてはちょうどいい感じので、軽い気持ちで手にとってもらえたらいいと思っています。

自由なお坊さんでありたい

平成17年8月大槻能楽堂にて梅若六郎主演の能楽「空海」に出演

今の僕の悩みは、自由に活動するための時間とお金が足りないことですね。基本的に『mixi』の書き込みは夜中に集中するから睡眠時間が不足しがちですし、『HAPPY FORCE』でのイベントも基本的には持ち出しになります。お寺に勤めるのをやめれば時間はできますけど、お金には困りますしどうすりゃいいんでしょうね(笑)。

実際に、僕みたいな活動をやりたいけど、法務が忙しくて何もできないという人もたくさんおられると思います。僕は、収入源さえ確保できるなら、お寺をやめて一日中相談をやりたいです。お寺がなくてもお坊さんではいられますからね。

ただ、僕が求めているのは自由度やと思うんですよ。自分がやりたいことを自由にやれる環境が一番うれしいので、たとえば一山一寺の住職になって束縛が増えるようなら、それは楽しくないんです。

僕はね、自分が楽しくしていないといけないと思ってるんです。自分が楽しくないのに、コミュニティ(『言えない心の傷』)で、受け答えをしたらダメなんじゃないかと。しかも、僕は絶対的な価値観を「オモロい」に持ってくる大阪人という民族ですからね(笑)。僕の話を聞いていたら「もしかしたらあんな風に楽しそうにできるのかな」と思われるくらいのものを持ち続けていたいです。

坊主めくりアンケート


1)好きな音楽(ミュージシャン)を教えてください。特定のアルバムなどがあれば、そのタイトルもお願いします。

一番新しいところで、「Superfly」。

2)好きな映画があれば教えてください。特に好きなシーンなどがあれば、かんたんな説明をお願いします。

『ファンシーダンス』
長い廊下を、歌を歌いながら雑巾がけをしている本木雅弘に対し、竹中直人が「雑巾が歌うか!」と言い、顔を踏みつけたシーン。
専修学院での掃除の時間に、友人と何度もそのシーンを再現した記憶が。。。

3)影響を受けたと思われる本、好きな本があれば教えてください。

『泣いた赤鬼』

4)好きなスポーツはありますか? またスポーツされることはありますか?

一番好きなのは、「アメリカン・フットボール」
最近、「キックボクシング」をはじめました。

5)好きな料理・食べ物はなんですか?

不精進料理

6)趣味・特技があれば教えてください。

歌うことが好き。ちょこっとだけ、ギターが弾ける。

7)苦手だなぁと思われることはなんですか?

気ぃ悪い奴と、話すこと。
それを我慢すること。

8)旅行してみたい場所、国があれば教えてください。

世界中

9)子供のころの夢、なりたかった職業があれば教えてください。

自衛隊で戦闘機に乗りたかった

10)尊敬している人がいれば教えてください。

お大師さん

11)学生時代のクラブ・サークル活動では何をされていましたか?

アメリカン・フットボール部

12)アルバイトされたことはありますか? あればその内容も教えてください。

道路の舗装工事や住宅の建設現場でのアルバイト。

13)(お坊さんなのに)どうしてもやめられないことがあればこっそり教えてください

最近していないけど、「釣り」。因みに、今までに釣った最大の魚は、ブルーマリン。

14)休みの日はありますか? もしあれば、休みの日はどんな風に過ごされていますか?

子どもの相手。

15)1ヶ月以上の長いお休みが取れたら何をしたいですか?

世界一周

16)座右の銘にしている言葉があれば教えてください。

発心即到

17)前世では何をしていたと思われますか? また生まれ変わったら何になりたいですか?

前世は、???
次は、海賊王になりたい。

18)他のお坊さんに聞いてみたい質問があれば教えてください。(次のインタビューで聞いてみます)

(未回答)

19)前のお坊さんからの質問です。「病気で二度と声が出なくなってもお坊さんを続けますか?」

もちろん。辞める理由にはなりませんから。

プロフィール

今城良瑞さん/いましろりょうずい

1971年3月26日、大阪生まれ。1989年、高野山大学仏教学部密教学科に入学、同年高野山真言宗総本山 金剛峯寺で得度。1993年、高野山専修学院に入学して一年間の修行生活を送り加行。卒業後は大阪の某本山に勤務する。2003年、高野山真言宗主催『心の相談員養成講習会』に参加、心理カウンセリングを中心にさまざまな援助のしかたを学ぶ。2005年、NPO法人『HAPPY FORCE』を設立、理事に就任。2008年からは理事長を務める。『mixi』のコミュニティ『言えない心の傷』『ネットからリアルへ』の管理人として、日々さまざまな思いに向き合いレスコメントをつけている。2008年より保護司も務める。

 

今城さんの活動紹介

NPO法人『HAPPY FORCE
2005年設立。当初は「不登校」「引きこもり」を対象としたサポート・カウンセリング活動を中心としていたが、現在はお坊さんである今城さんを中心にサポート対象を広げている。mixiコミュニティの運営、講演会・イベント等の開催、救いを求める声に応じる相談活動などを行っている。

mixiコミュニティ『言えない心の傷』
虐待、レイプ、リストカット、いじめ、自殺未遂、鬱、PTSD……さまざまな理由で苦しみを抱えた人たちが、ふだんは言いづらくて言えないことを吐き出す場として立ち上げられたコミュニティ。約2万2000人の参加者から、”言えない心の傷”について吐き出される思いが綴られ、その一つひとつに今城さんはレスをつけておられます。(コミュニティの性質上、URLのリンクはしておりません。興味のある方は、mixiにログイン後「コミュニティ検索」で探してみてください。)

mixiコミュニティ『ネットからリアルへ』
『言えない心の傷』の参加者を主な対象に、「モニターだけ見ている生活から現実に連れ出してあげたい」と、今城さんが立ち上げたコミュニティ。『HAPPY FORCE』の主催で、食事会、講演・ワークショップ、お寺参拝、ハイキング……など、さまざまなイベントを開催し、直接顔を合わせて話す場を作ることでリアルに繋がるきっかけづくりをされています。

お坊さん、地域で生きる人、職人さん、企業経営者、研究者など、人の話をありのままに聴くインタビューに取り組むライター。彼岸寺には2009年に参加。お坊さんインタビュー連載「坊主めくり」(2009~2014)他、いろんな記事を書きました。あたらしい言葉で仏教を語る場を開きたいと願い、彼岸寺のリニューアルに参加。著書に『京大的文化事典 自由とカオスの生態系』(フィルムアート社)がある。