世界初!? 駅にお寺を開いた”駅長住職”さん/下里庵 畦田清祐さん

兵庫県加西市を走る小さなローカル線、北条鉄道には駅舎をお堂に見立てた「下里庵」というお寺があります。今回は、駅でありながらお寺という、全国的(世界的にも?)にもユニークな試みをされている、”駅長住職”こと畦田清祐さんにインタビューしました。前編では、畦田さんがお坊さんになることを選ばれるまでの道のりについてお話を伺っています。みなさんは、お父さんが突然出家したらどうしますか?

「お父さんはお坊さんになるから」

私が小学校2年生か3年生のころ、父がお坊さんになったんです。ある日突然「お父さんはお坊さんになるから」と言い出しましてね(笑)。不在の間に私が守るべきことを書いた紙をタンスにピッと貼って、高野山へ1年間行ってしまいました。それまでは普通に建築の会社で働いていたんですけど、父なりに何か理由があったんでしょうね。

父はお寺出身ではないので、高野山を降りてからはずっと大阪の太融寺というお寺に勤めています。長いこと窓口業務をやっていまして、父のファンやという方も何人かおられるようですよ(笑)。供養の申し込みに来た人に塔婆の意味から説明したり、拝むときの心構えなどを教えたりしていると「いつも窓口に座ってはるあのお坊さん、今日もいはるかなぁ」みたいな感じで、だんだん親しくなったりするようです。

家では、ふつうにお父さんいう感じです。ただ頭が坊主なだけでね(笑)。帰ってきて、ご飯食べて、テレビ見て、適当な話をして寝るだけですからね。でも、お寺に行くと家で言わないようなことも言うてますね。お堂を借りて般若心経の会も作っているんですが、集まってきた2〜30人の方々が父のことを「先生、先生」言うてはるんです。家ではしょうもないことしか言うてないのに、お寺ではかっこよく働いてましたよ。

お寺は継げなくても父の意志を継ぎたい

高校生のときに、太融寺で掃除のアルバイトをしたことがあるんですが、父のいる窓口には、悩みごとを抱えた人やその他いろんな人が来られるんやということを知りました。すると、父はその人たちの相談に乗ってみたり、言わばお寺の最前線で戦っているんですね。

父の後ろ姿を見て、人と話をしていろんなことに応えて助けてあげるのがお坊さんの仕事であるならば、これは尊い仕事やと思ってね。父は、私にはお坊さんになれとは言いませんでしたが、たとえお寺は継げなくても父の志は継ごうと思うようになりまして。高校2年生の頃にはお坊さんになろうという考えは固まっていましたね。

そしたら、父から「折り入って話がある」と喫茶店に連れ出されて、「うちはお金のない家やけども、高野山大学やったら行かせてあげられるかもしれん」と言うんです。父親独自の活動の中で出会った人たちが「息子さんが高野山で修行されるなら…」と援助してくださったりもしたようです。高野山やったらなんとか大学へ行けるのかということで、高野山大学一本だけしか受験しませんでした。卒業後は専修学院で一年間みっちり修行をしましたよ。

高野山を降りて転法輪寺に修行へ

北条線のまわりには田園風景が広がっている

私は太融寺の弟子として高野山に入りましたから、修行道場を出たら戻ってきて太融寺に入るのが筋なんです。でも、父が「息子をぜひこのお寺に入れたい」と特別に願い出て、奈良県の五条市にある転法輪寺というお寺に修行へ入りました。

そこでは、窓口でもらった紙に悩み相談の内容などを書いて順番を待っていると、どんな相談事でも引き受けてくれるんです。ものすごく交通の便が悪い場所ですけど、一日20組くらい、多いときは50組くらい相談しに来る人があって、住職・副住職が本堂で朝から晩までかかりっきりになっています。

そこでまた「これがお坊さんのほんまの姿か」と思いましてね。たぶん父親もそういう姿を見せようと思って、僕をそこに放りこんだんやと思いますわ。家の方角や赤ちゃん名付け、健康相談から霊に憑かれた人まで、どんな人でも門前払いはせずに受け入れるんです。

拝んでお祓いするとか、怪しいと感じると人もおられる思います(笑)。でも、あそこにおったら、日々そんなことをしょっちゅう起こりますからねえ。だんだん認めざるを得なくなってきますわ。つきつめていくと、最終的には心の問題ということになると思いますけど、やはり理屈で説明しきれないことはあると思いますよ。

どんな人でもまず受け入れるのがお坊さん

畦田さんが駅長を務める下里庵は下里駅舎のなかにある

父の窓口業務の姿、そして転法輪寺のご住職・副住職を見て、私のお坊さんとしての出発点は「とにかくどんなことを言われても、まずは「はい」と受け止めるという」ことやと思いました。私の力ではどうにもできなくても、「そんなん話にならへん」とは言わずに、とりあえずは聞くというですね。

お大師さんのことやお釈迦さんのことを勉強してきて、現時点でのひとつの結論として、この世の中、宇宙はひとつの「いのち」やと思っていますのでね。お釈迦さんもお大師さんも最終的にそういうことが言いたかったんやないんかなと。この宇宙全体のつながりというものに目を向けておれば、人間も動物もモノも全部つながっていて、どれも切っても切れないということがわかってきます。

それが仏さんのことをやっていくうちの一番大事なことなんやないかと思います。自分と他人は本当に一体であって、私の領域・あなたの領域とバシッと切って、ウチはウチ、ヨソはヨソというのでは仏教のレールから外れているような気がしますね。

人間の体のほとんどは水分です。私だって、死んだら火葬されて水蒸気になって空に上がるんですからね。雨になって降って地面にしみこんで、どっかそのへんの木の栄養分になるかもしれません。今は、”畦田清祐”という人間やと思ってますけど時間がたてば、またまったく別の姿のモノと一緒になっていきますからね。

念願かなって駅にお寺を開く

畦田さんが安全祈願をされた写真が飾られる車両もある

私は、小さいときから鉄道が好きでね。今でいう鉄ヲタと言われるアレですわ(笑)。駅舎でお寺をしたいというのはずっと夢やったんです。だいぶ長い間、イメージしながら毎日念じ続けましたわ。念じればかなうというんですかね。2007年に、この「下里庵」を開くことができたんです。

私には、大勢の信者さんを引っ張っていく力もないし、とりあえず人が集まるところでお寺をしたいと考えました。すると、無条件に人が出入りすると言ったら駅かと思ってね。商店街で相談所を開きましたというお坊さんもいますけど、商店街から建物のなかに入ってもらうにはワンクッションいりますよね。でも、駅には入らないことには電車に乗れませんからね(笑)。

田舎のほうの駅では、業務委託されたパン屋さんや散髪屋さんなんかが切符を売ってたりするんですよ。でもお寺というのは無いなぁと思いまして。お寺であると同時に駅で、お坊さんが切符を売るということを認めてくれへんかなぁと。掃除しますから駅をただで使わせてくださいって言うたらどうなるんやろ、どこに言いに行ったらいいんやろうかと考えていました(笑)。

そしたら、鉄道ファンの友達が北条鉄道のボランティア駅長の話を教えてくれまして。ここは半官半民の第三セクターなので大丈夫かなぁと思っていましたら、社長が変わった人で「おお、いいですね。やりましょう!」とすぐ決まりまして(笑)。

“駅長住職”としての活動をスタート

下里庵のご朱印!? もちろん畦田さん直筆です

はじめは、お寺として住み込んでお勤めして、貯金で生活しながら私の修行のために使いたいと思ったんです。でも、北条鉄道の社員さんに「駅に常駐させてタダ働きをさせてるって思われるとイメージが悪くなるからやめてほしい」といわれましてね(笑)。それで、太融寺に勤めて、忙しいときは転法輪寺にも手伝いに行ったりしながら、休みのときにここに来ることになりました。

一年くらいは、地域の方々をあまりビックリさせないように、ひっそり開けてひっそり閉めて、たまたま人が来たらお茶を出す程度で静かにしてましたね。最近になって、「鉄道ファンの集い」や「お経の勉強会」など、ちょこちょこイベントもはじめています。

ふだんは、一般的に開放してみんなでワーッと遊んでいますので、個人的に深刻な話をするのは難しいですから、お坊さんとじっくり話したい人のために「貸切予約の日」も作っています。場所が不便なのでなかなか来てもらえませんし、私も高い交通費をかけてまで来てくれとはあまり言えませんけども、多いときは10人以上来てくれはりますし、常連さんも増えています。

ここは、私の勝手なきまりごととして、中に入ったら何を言ってもいいということになってるんですよ。ふだん言いたくても、世間体とかで言えないことでもここでは言ってもいい。するとみんなそれぞれ様々な価値観を持っておられるということに気付かされますね。

お経に責任を押し付けるのではなく

下里庵でおつとめをする畦田さん

悩みごとの相談などを受けたときには、仏さんの言葉を別の言い方に置き換えながらお話しています。私自身、ものの考え方がそういうお大師さんやお釈迦さんの教えを通しての思考回路になってきてますから、自然とそれっぽい話になってしまうとは思いますけども。

お経の文句をそっくりそのまま引っぱってきても悩みなんて解決しないと思いますよ。「なんとかというお経にこう書かれているからあなたはこうするべきだ」というような話し方は、もしうまくいかなかったときに責任をお経になすりつけてるみたいな感じですしね。日常生活から物事の考え方をお経と一致させていって、お経を自分の言葉に変換して話さなあかんと思いますね。

だいたい、お釈迦さんの言っていることを、言葉のままで行動に移したら頭おかしい人やと思われますよ(笑)。たとえば、仏教のどの宗派でも出てくる「十善戒」では、一番目に「不殺生戒」がありますよね。でも、肉・魚を食べなければ良いかというと、野菜だって命です。品目で分けたらいいというものでもないと思うんですね。

自分が生きているということは、すなわち他を殺しているという証なんです。つきつめて考えたら誰ひとりとして絶対に守れない戒ですよ。不殺生戒を守るために自分が生きるのをやめるとか言い出したら頭がおかしいと言われてもしょうがない。つい最近まで、私もこのことにはずっと悩み続けていました。お坊さんって、悩みがなくて悟っている人みたいに思われますが、いつも「おかしいなぁ」「えらいこっちゃ」「たいへんや」とか、そんなんばっかりです(笑)。

修行は完成しているわけでなく、ずっと続いていますからお坊さんも完成品やありません。人を導いてどうのこうのって、そんな偉そうなことはできません。話を聞いて「大変でんなぁ」って一緒になって考えることはできても、上に立って「こないしなさい」ってカリスマ和尚みたいなことはようしませんわ。

お寺の境内にミニSL走る日も来る!?

鉄道の本、仏教の本がなかよく並ぶ本棚

「下里庵」はお寺というつもりでも、公共の場ですからあまり布教っぽいことはやめたほうがいいということでしてね。仏さんの話がしづらいという微妙なところもあります。やっぱり、お坊さんとして仏さんの話を堂々とできる場所が欲しいなと思っていましたら、修行道場の同級生が「檀家さんもないお寺やけど良かったら入ってほしい」とお寺を紹介してくれまして。太融寺の師匠の許しも得て、この9月に東大阪市にある額田寺(がくでんじ)という真言宗の小さな派のお寺の住職にならせていただきました。

額田寺には特に珍しいものもありませんので、人を集めるのにどうしたらいいのかなと考えています。境内にミニSLを走らせられないかとか、もう頭のなかは妄想でいっぱいですよ(笑)。境内は広くないし、カーブ曲がりきれるかどうか、お墓の中に突入したらどないしようとか(笑)。鉄道ファンとして、今までコレクションしてきた切符などをお寺に展示しましょうかね? 「全国鉄道交通安全祈祷」なんてイベントもいいかもしれません。

そんな住職の個人的な趣味から親しくなって、だんだん仏教にも興味を持ってもらえたらいいんですけどね。今は、「お釈迦さんも最初は5人に説くことから始まったんや」と自分を励ましていますけど、これからどうなることやら(笑)。なにかいいアイディアがあったら教えてほしいです。

坊主めくりアンケート


1)好きな音楽(ミュージシャン)を教えてください。
「スピッツ」が好きです。歌詞の意味がわかりにくいのが面白いです。

2)好きな映画があれば教えてください。
すみません。映画はほとんど観ません。

3)影響を受けたと思われる本、好きな本があれば教えてください。
手塚治虫の「ブッダ」です。

4)好きなスポーツはありますか? またスポーツされることはありますか?
スポーツは苦手です。でも長距離を歩くのは得意です。

5)好きな料理・食べ物はなんですか?
カレーライスが死ぬほど好きです。

6)趣味・特技があれば教えてください。
鉄道旅行、寺社参拝、滝見物です。

7)苦手だなぁと思われることはなんですか?
流行がまったくわからない。服装がダサいです。

8)旅行してみたい場所、国があれば教えてください。
インドで仏蹟巡拝がしたいです。

9)子供のころの夢、なりたかった職業があれば教えてください。
電車の運転士です。

10)尊敬している人がいれば教えてください。
弘法大師です。

11)学生時代のクラブ・サークル活動では何をされていましたか?
少林寺拳法部でした。

12)アルバイトされたことはありますか? あればその内容も教えてください。
遺跡の発掘調査、寺院の掃除などです。

13)(お坊さんなのに)どうしてもやめられないことがあればこっそり教えてください。
鉄道マニアなことです。鉄道のこととなると興奮して挙動不審になってしまいます。

14)休みの日はありますか? もしあれば、休みの日はどんな風に過ごされていますか?
鉄道に乗りに行くことが多いです。

15)1ヶ月以上の長いお休みが取れたら何をしたいですか?
徒歩で四国八十八ヶ所巡拝をしたいです。

16)座右の銘にしている言葉があれば教えてください。
弘法大師の「仏法遥かにあらず心中にしてすなわち近し」という言葉が好きです。

17)前世では何をしていたと思われますか? また生まれ変わったら何になりたいですか?
前世でもお坊さんじゃないかと思うときがあります。
来世は冒険家になりたいです。

18)他のお坊さんに聞いてみたい質問があれば教えてください
病気で二度と声が出なくなってもお坊さんを続けますか?

19)前のお坊さんからの質問です。「出された食事は全部食べますか?」
基本的に全部食べますが、どうしても苦手なものはコッソリ隠します。

プロフィール

畦田清祐/うねだ・せいゆう
昭和52年生まれ。小学校2年生のときに父が出家。大融寺に勤務する父の背を見て育ち、自らも僧侶の道を志す。2000年、高野山大学卒業後、専修学院で1年間加行。2001〜2005年まで、奈良県五条市の転法輪寺で5年間修行する。大融寺職員として勤めながら、2006年6月より北条鉄道「播磨下里駅」に「下里庵」を開き”駅長住職”に就任。2006年12月15日に「下里庵」落慶法要を行う。2009年9月1日に額田寺住職に就任。

北条鉄道 「播磨下里」駅 「下里庵」 http://www.geocities.jp/ggthq103/furawa2007/
神戸電鉄粟生線、JR加古川線「粟生」駅で北条鉄道に乗り換え。「播磨下里」駅にて下車。本数の少ない路線ですので、時刻表、乗換えルートについては、事前によく確認しておく必要があります。「下里庵」の開扉予定は、下記メールアドレスまで問い合わせてみてください。
連絡先:shimosatoan@yahoo.co.jp

「下里庵」のイベント
現在、「下里庵」で定期的に行われているイベントをご紹介。各月ごとのスケジュールは、shimosatoan@yahoo.co.jp までお気軽に問い合わせてみてください。のんびりローカル線に乗って、小さな旅を楽しむこともできますよ。

自由開放
自由に駅舎内でくつろいでよい日。駅長住職とおしゃべりしてもよし、本を読むもよし。ぼーっと時間を過ごすのもOKです。

お坊さんと話す会
駅長住職と参加者のみなさんで、少しまじめに語り合う会。話したいテーマを持っていっても良いそう。途中入退場自由。

鉄道ファンの集い
鉄道に関する話題で盛り上がる会。「下里庵」に用意されたデジタルフォトフレームで、持ち寄った鉄道写真のデータを鑑賞することも可能。

貸切予約
駅長住職に相談したいことがある人、気の合う仲間だけで話したい人は、貸切予約をすることができます。

下座行
「播磨下里」駅、「下里庵」の清掃をする会。草むしり、仏具磨きなどのお手伝いをします。

杉本 恭子

お坊さん、地域で生きる人、職人さん、企業経営者、研究者など、人の話をありのままに聴くインタビューに取り組むライター。彼岸寺には2009年に参加。お坊さんインタビュー連載「坊主めくり」(2009~2014)他、いろんな記事を書きました。あたらしい言葉で仏教を語る場を開きたいと願い、彼岸寺のリニューアルに参加。著書に『京大的文化事典 自由とカオスの生態系』(フィルムアート社)がある。