コラム(3) お粥を食べて10の良いこと

今年の冬は、お腹にくるタチの悪い風邪が流行っています。 皆さんはいかがお過ごしでしょうか? 実はかく言う私も、先日風邪で寝込んでおりまして、食欲が全く湧かなくて大変でした。 ですが、そんな体調でも、お粥ならば食べられてしまうのが不思議です。

風邪を引いた時にしかほとんど口にしないお粥ですが、私にとっては非常になじみ深い食べ物で、永平寺で修行していた2年2ヶ月間、毎朝の食事でこのお粥を食べていました。 因みに、永平寺では お粥 (おかゆ) とは言わず、粥 (しゅく) もしくは、浄粥 (じょうしゅく) と呼んでいます。

曹洞宗の宗祖である道元禅師は、僧堂に赴(おもむ)いて朝食の粥や昼食の飯を頂く作法を 『赴粥飯法(ふしゅくはんぽう)』 という著書に示しました。 その中には、禅宗の寺院における食事作法の根本意義をはじめ、実際の作法についてこと細かに順を追って説明がなされていますが、今回のテーマである ” 粥 ” についても面白い記述が見られます。

粥有十利 (しゅうゆうじり)・・・粥には十の功徳がある。

この ” 粥有十利 ” は、道元禅師自身が 『摩訶僧祇律(まかそうぎりつ)』 という仏典から引用していて、次にあげる十項目を指します。

一、 【色】 体の血つやが良くなり
二、 【力】 気力を増し
三、 【寿】 長命となり
四、 【楽】 食べ過ぎとならず体が安楽
五、【詞清辯】 言葉が清く爽やかになり
六、【宿食除】 前に食べたものが残らず胸やけもせず
七、 【風除】 風邪を引かず
八、 【飢消】 消化よく栄養となって飢えを消し
九、 【渇消】 のどの渇きを止め
十、【大小便調適】 便通も良い

仏の教えの中にお粥について細かく述べられているというのは、何だか不思議なものですが、それだけ ” 粥 ” を食べるということが、仏教者にとって重要な行為なのだと分かります。 そんな粥を永平寺の修行僧が毎朝必ず食べるのは、粥のありがたいパワーによって生かしていただき、身体を整え、その生命の上で仏道修行に励むためです。

食べられる側の存在なくしては、食べる側の存在はあり得ません。 己自身と、目の前の料理との関係をよくよく理解して食べることが、重要なのだと思います。

※ 永平寺のお粥のレシピはこちら

【参考文献】
道元 『典座教訓・赴粥飯法』 全訳注:中村璋八・石川力山・中村信幸 1991 講談社
禅学大辞典編纂所 『禅学大辞典』 1978 大修館書店

 

1977年3月生まれ。広島市街にある曹洞宗八屋山普門寺副住職。 相愛大学非常勤講師。 駒澤大学大学院にて仏教学修士を取得後、仏教を学問する世界から飛び出して実践の場を求め、曹洞宗大本山永平寺にて2年2ヶ月間の修行生活を送る。その後、広島国際大学大学院にて臨床心理修士を取得し、現在臨床心理士としても活動している。 彼岸寺では、2005年より【禅僧の台所 〜オトナの精進料理〜】を展開する。 現在、精進料理のみならず、禅仏教や臨床心理学、仏教マンガに関しても積極的に執筆や講演の活動を行っている。