聖地の音を録りにいこう!音の巡礼のススメ 〜身延山の場合〜(後編)

以前、彼岸寺でも告知をさせていただいたオンライン連続講座「音の巡礼 山の巡礼 〜身延山編〜」が間もなく 2/17(水) より全3回にわたって開催されます。

私はこの講座を主催する「音の巡礼」というプロジェクトの管理人・遠藤卓也と申します。「聖地の音を聴きながら、聖地について対話する」という一風変わったオンライン講座ですが、実際に使用する音素材の録音のために身延山へ行ってきました。

ひとり聖地に赴き、音を採集するのはまさに「音の巡礼っぽいなあ!」なんて思いながら行ってきたのですが、フィールドレコーダーを携えたひとり旅が予想以上に楽しくて、彼岸寺読者の皆さんにもお勧めします!

※ この記事は 後編 です。前編はこちら

宿坊の朝は早い

朝4:45のアラームの音で起床。昨晩は静かな身延の冬の夜の雰囲気の中で、すぐに寝てしまいました、、、とはいえこの時間の起床はさすがに眠い(笑)しかし朝勤の録音というのも今回の目玉のひとつであったので、とにかく着替えて玄関にいくと、宿坊・端場坊ご住職の林是乾上人が待っていてくれました。

玄関を出ると外はまだ暗い。想像していたほど寒くなく不思議な感じ。足元を懐中電灯で照らしながら、久遠寺の境内を目指します。

すると頭上のほうから聴こえてくる不思議な歌のようなお経。なんとなく郷愁をそそる節回しです。林さんに尋ねると、水行中に唱える水行肝文のお経だそう。

バシャッ バシャッ

確かに、水をかぶっている音がする。

お経のメロディーが独特で、例えばブラジルの音楽家、ミルトン・ナシメントの歌のような、なんとも形容し難いプリミティブなサウダージ感が漂っているよう。あまり寒くない早朝の聖地、しばし立ち止まって耳を傾けたくなります。

朝は身延山のゴールデンタイム

まだ暗い境内。砂利の地面を走って若いお坊さんが鐘楼堂にのぼります。ちょっと遅れてしまったみたいで、あとから先輩のお坊さんも走ってきてピリッとした空気、、、。

無事に鐘の音が鳴ると、眠っていたものたちが起き出すような感覚があります。いよいよ朝勤が始まります。

林上人のご案内で、朝勤が始まる建物の前でマイクを構えます。大勢の若いお坊さんたちが「南無妙法蓮華経」を唱えながら、回廊を伝って本堂へ向かいます。僕は外から行列を追いかけていきます。

ご本堂には数名の信者さんたちが待っています。大きな大きな太鼓の音が打ち鳴らされて、お坊さんたちが入堂。まずは本堂でお勤めがはじまります。

大迫力のお勤めを満喫して外にでると、さっきまで暗かった境内がうっすらと明るくなってきています。次は祖師堂に移ってお経が始まっていますが、お堂の外で聴くお経もまた素晴らしく、朝日を眺めながらしばらく浸ります。マイクには祖師堂からのお経と、外の鳥の声や授与品所のシャッターが開く一日のはじまりの音などがMixされて収録されていきます。

この “あわい” の時間の音がたまりません。

散歩がてら音を探しに行きます。

ちょっと高いところから下の方へマイクを向けると、どこかしらのお堂からのお題目が聴こえてきます。鳥の声や風の音もあります。

日蓮宗のお坊さんになるために修行をする「信行道場(しんぎょうどうじょう)」の入り口。通りかかった時間には、修行の音は聴こえてきませんでした。

そしてお気に入りの場所、日蓮聖人のご廟所へとむかって歩いていきます。

ここはいつきても静か。聖なる空気が漂っていて、特に録る音がない

近くにある日蓮聖人のご草庵跡も静か。

下を流れる川の音を聴いていたら、友人から詩を朗読した音声が届いたので、川の音を背景にしばし友人の朗読を聴いて過ごす。

水の流れる音も録音しました。

山が録音に適しているのは、人工的なノイズが少ないことにあると感じます。家の近所にも自然残る公園はありますが、何かしらの機械や車の音、そして人間の気配が気になるので、あまりマイクを向ける気になりません。しかしここではピュアな自然の音を聴くことができます。

そのあともゆっくり歩きながら、色々な音を採集。身延の住民を悩ませる猿にも遭遇し、猿の声も録れました。

宿坊に戻る頃にはもう8時。朝出たのが5時でしたから、3時間も歩き回って録音していたことになります。あっという間!

そしてこんな完璧な朝食が待っているとは。本当に言うことのない満たされた朝です。

その後、収録は昼まで続きました。

小雨降る中に水行(!)をしていただいたり、端場坊のご本堂で唱題行(前後の瞑想と南無妙法蓮華経のお題目のみをお唱えする修行法)を体験させていただいたり、林上人には大変お世話になり、満足のいく音をたくさん録ることができました。

祈りの音、巡礼の道

商店街でお土産を購入し、バスで帰路につきます。リュックの中のレコーダーにはたくさんの「聖地の音」。綺麗な景色を写真におさめて誰かに見せたくなるように、音を録ったら誰かに聴いてもらいたくなります。

オンライン講座「音の巡礼 山の巡礼」に関する記事の中で、江戸時代に盛んだった「富士講」のことを書きました。

西国三十三ヶ所や四国八十八ヶ所などの巡礼路は今もなお多くの巡礼者を受け入れています。江戸時代に流行った「富士講」では、講という信仰の仲間で共に富士山へ参拝したり、または皆でお金を出し合って代表者を送り出し、代表者は講のみんなのために祈りを捧げて戻ってくるというようなこともあったようです。

聖地・霊地で祈りを捧げ、誰かのためにお守りやお札などの授与品を持ち帰ってくるという文化。もしかしたら「聖地の音」も、祈りをこめたひとつの媒体として機能するかもしれない。

気づけば辺りは雪景色です。白い闇の中を走るバスの中でそんなことを考えていました。

コロナ禍における「巡礼」はどうでしょうか?不安の多い日々を過ごす中で、神仏に祈りたい気持ちを持つ方は増えているでしょう。まさに「富士講」のような祈りのコミュニティが必要な時かもしれません。

2/17(水)より始まるオンラインの連続講座「音の巡礼 山の巡礼 – 身延山編 -」では、そこに集う人たちである種の「講」のような、祈りのコミュニティの種をうみだせたらと、ちょっと思っています。

2021年2月現在において団体旅行は難しいですが、良きタイミングで身延山に集合して一緒に祈ったり、掃除をしたり、音を録ったりできたら楽しそうですよね!

聖地のもつ神秘的な雰囲気に惹かれる方、聖地の音に浸ってみたい方、お経の響きやお坊さんのお話しが好きな方、ただ祈りたい方。どんな方でも気軽に楽しく、聖地への巡礼をゆけるようにお坊さんたちに教えてもらいましょう!

告知|オンライン講座「音の巡礼 山の巡礼 – 身延山編 -」

この企画は「頭で理解する仏教」ではなく「体で感じる仏教」を、オンライン講座として実現できないか?という発想から生まれました。

Withコロナの私たちの暮らしは、Web会議や動画配信サービスなど「視覚」に頼りがちになっています。そこで「聴覚」。敢えて「音」にこだわります。

日本各地には数々の宗教的聖地が存在します。今回取り上げる山梨県の「身延山」もその一つ。日蓮聖人ゆかりのお山として、日蓮宗の総本山・久遠寺が建立されました。豊かな自然と山のいきものたち、そして今もなお多くの人々の祈りの声が山内に鳴り響いています。

聖なる音に溢れた身延山では、私たちの日常生活とはまた違った時間が流れているようにも感じます。そこにいるだけで、安心や平和を感じられる。まさに聖地たる所以だと思います。

聖地の自然の環境音や祈りの声を聴きながら、聖地に詳しいお坊さんガイドと松本紹圭師の対話を通じ、耳で聖地巡礼するというあたらしい体験。それが「音の巡礼 山の巡礼」です。

〔第1回〕2021年2月17日(水)20時〜21時
◎ゲスト:林是乾 師(身延山宿坊 端場坊 住職) 聞き手:松本紹圭師
 テーマ「身延山の四季折々の自然音を聴く」

〔第2回〕2021年2月24日(水)20時〜21時
◎ゲスト:久住謙昭 師(名瀬 妙法寺 住職) 聞き手:松本紹圭師
 テーマ「身延山の人々の営みの音を聴く」

〔第3回〕2021年3月3日(水)20時〜21時
◎対談:林是乾 師 × 久住謙昭 師 × 松本紹圭 師
 テーマ「聖地・身延山の音を巡る対話」

【参加費】
・1回:3,000円
※500円割引コードあり(お申し込みの際に入力してください)
 割引コード : cly43zrj0r48

・全3回通し券:8,500円  
※1,500円割引コードあり(お申し込みの際に入力してください)
 割引コード :7kn1xpuasl0c

★ 各回、見逃し配信も予定しています

【参加申し込み】
Peatixページよりお申し込みください。

遠藤卓也

1980年東京都生まれ。立教大学卒業後、IT企業で働く傍ら2003年より東京・神谷町 光明寺にて「お寺の音楽会 誰そ彼」を主催。10年以上続く活動において、地域に根ざしたお寺の「場づくり」に大きな可能性を感じ、2012年より住職向けのお寺経営塾「未来の住職塾」の運営に携わる。「お寺の広報」をテーマとする講演・研修や、お寺のHP・パンフレット制作などを手がける。また、音楽会やマルシェなどお寺での様々な「場づくり」もサポートする。共著書に『お寺という場のつくりかた(学芸出版社)』。趣味は音楽と妖怪。ビア好き。