先日、特定非営利活動法人おてらおやつクラブが正職員採用のお知らせを発表されました。「おてらおやつクラブ」は国内の貧困問題を解決を目指す活動として注目されているNPO法人です。この度、二人目の正職員として採用された齋藤明秀さん(京都府亀岡市の光忠寺副住職)ご自身より、今回の転職エピソードをご寄稿いただきました。
ご存知の通り、お寺を取り巻く経済状況は厳しいものがあります。お寺を護っていくため、仏法を伝え続けていくため、多くのお坊さんがお寺以外の場所で、お仕事をしておられます。お坊さんが働く場所としてのNPO法人の可能性や、立ち上げ間もないNPO法人の仕事の現場の様子など、ぜひご一読ください。
皆さん初めまして。3月1日付で「おてらおやつクラブ」事務局職員となりました、齋藤明秀(さいとう みょうしゅう)と申します。1985生まれの34歳。現在、京都府亀岡市にある浄土宗光忠寺の副住職を務めております。
僕は2月末までの約12年間、宗教法人浄土宗(以下:宗務庁)という包括宗教法人の職員として働いていました。包括宗教法人とは宗派に属する寺院や教会などを傘下にもつ宗教法人のことです。宗務庁というところには、属する寺院や僧侶に関わる登録・認証やその情報管理、僧侶の養成や研修、また教義や活動の広報、出版事業などの仕事があります。
僕自身は入庁から6年間は主に僧侶や寺族(住職夫人等)に対する研修事業の企画運営、その後約6年間は法人内部の経理や財産管理、資産運用などの仕事をしていました。
今回はそんな僕がおてらおやつクラブに転職した理由をお話しします。
佛教大学で浄土宗僧侶としての資格を取得後、特にやりたいこともなかった僕は、ただ生活のために働かなければとの思いで就活、運よく拾ってもらったのが宗務庁でした。最初に配属されたのは教学局という部署。そこで僕は僧侶対象研修会の企画運営をする間、さまざまな人に出会います。僧侶としての法話や作法の専門家、亡くなりゆく人や残された遺族の悲しみに寄り添い続ける僧侶、ホームレスの方々に衣食住を提供するだけでなく社会復帰まで支援する牧師、事情があって学ぶことができない子どもたちにお寺という学びの場を提供する僧侶など。
そのようなさまざまさまざまな方々に出会い時間が経つにつれ、自分自身の僧侶としての生き方に疑問や違和感をおぼえるようになります。ただ寺や自分の生活を維持するために外で働くだけならばそもそも僧侶である必要があるのか、そもそも寺院や僧侶の目的・ミッション・存在意義ってなんだろう、地域社会や檀信徒から期待され、求められる姿とは如何なるものか。何を実践し、何を伝えていく存在であるべきなのか。
もちろん僧侶としてまずはじめに大切なことは当たり前のことを当たり前にすること。即ち日々の法務(お寺の仕事)をきちんと実践し、属する宗派の教えを自ら信じ弘め伝えていくことだと思います。ではその前提のうえで社会に対して自分ができることとは何か。
数年前、私は属する宗派の機関紙や業界紙(宗教業界専門の新聞)の記事をきっかけに「おてらおやつクラブ」の存在を知ることになります。ここ日本で起こっている見えにくいけれど深刻な貧困という社会課題に対し、「お寺のある」と「社会のない」をつなげるという慈悲の実践活動。お寺という環境を活かしたその活動内容と支援の枠組み、組織の目的とミッションの明確さを知るうちに、気が付けばおやつクラブホームページの採用案内を食い入るように見ている自分がいました。ここで社会課題解決に資する仕事がしたい。今までの経験をもとにこの組織に貢献したい。
しかし実際には葛藤もありました。妻と子ども2人がいる僕は、宗務庁で定年まで働いていれば生活のことは何も考えなくていい。ここで自分のわがままを出さなくても・・・。そこで宗務庁で2年間勤務し、僕の仕事姿を見てきた経験をもつ妻に転職の相談をしました。すると一言。
生活というものはその気になれば何とかなる。好きなことをすればいい。でも勘違いするな。おそらく『おやつクラブ』のメンバーの中では、あなたが宗務庁で得た知識や能力レベルなんてものはたかが知れているし、有給で働きたいとは厚かましいにも程がある。まずはボランティアから始め、査定を受けるのが筋である。
返す言葉もなく、この一言で一度は挫折したものの、運命的な出会いがあります。
昨年10月、たまたま代表理事の松島さんを含めた数人でご飯を頂く機会がありました。それまで存在は知っていたものの、ほとんど面識のなかった松島さん。それまでの経緯をお話しすると、「一度安養寺に来てみませんか」。
僕は12月から週1、2回ペースで有給休暇を取得し、安養寺へ。そこで目にしたのは、理事、職員をはじめとしたメンバー皆さんがそれぞれの環境でそれぞれの得意分野、能力を活かし、真剣に課題解決に向けて尽力する姿。そして驚いたのは働き方。メンバーの多くが安養寺のある奈良から離れた場所からのリモートワーク。限られた時間と人員で最高のパフォーマンスを発揮するために工夫が凝らされた、宗務庁とは比にならないほど最先端の職場だったのです。
もうひとつ、業務に対して「隠し事」や「陰口」が全くないこと。事業を継続していく中、特に賛同寺院や支援団体、支援を希望される方が増加し、事業規模が急速に大きくなっている現在、当然オペレーションの改善、ミスや問題、またその解決策や判断にともなう意見の食い違いなども起こってきます。それをそれぞれの中でうやむやにすることなく、リモートワークのツールを使いながら、「みんなの前」で議論し、何が本質的な問題なのか、その業務の目的は何なのか、どのような方法が効率的且つミスを未然に防ぐことができるのかまで掘り下げ、言うべきことを隠すことなく真剣に改善に努める皆さん姿を見て、さらにここで働きたいという意欲が高まりました。
1月、理事会などの必要手続き、決裁の後、従前から相談していた妻に「正式に3月からおてらおやつクラブで働くことになった」旨を伝えます。するとまた一言。
ただ働くという意識ではなく、携わる皆さんの生き方や思考を学び、組織に貢献できるようしっかり努力しなさい。
現在、優しい妻の理解、そして何よりも理事をはじめとした事務局メンバー皆さんの理解により、おやつクラブで働くことができる有難さを実感しています。
僕はこれから主に法人事務などを担当することになります。僕に課せられた使命。それはこの活動が安定的に継続できるよう、法人としての運営基盤のさらなる強化、そしてその先には支援を必要とする少しでも多くのご家庭に「仏さまの慈悲」をお届けすることだと思っています。
まだまだ未熟者ですが、精いっぱい頑張ります。皆さん、何卒よろしくお願いします!
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