【5/28 イベントレポート】日常生活でありふれた行為を仏教的視点で見つめ直すー Temple Morning の事例からー

こんにちは。お寺出身で継承をテーマに活動している三浦祥敬です。

今回の記事は5月28日に実施したイベントのレポート第2弾です。

前回のイベントの記事では、さまざまな変化が生じる過渡期に精神的な葛藤や苦痛が増えることについて語り、それらを乗り越える支えの一つとして仏教思想が活かされていくのではないか?ということについて書きました。

今回の記事では、松本紹圭さんの Temple Morning の活動に注目し、引き続きイベントの様子をお伝えします。

Temple Morning をご存知ですか?

イベントの会場でもあった神谷町・光明寺で始まった、朝の時間をお寺で過ごすムーブメントです。お経読み、境内を掃除し、その後にトーク・対話をするというもので、現在は多くのお寺に広がりつつあります。

Temple Morning の様子は Twitterで ハッシュタグ #templemorning で検索したり、Temple Morning のお掃除大使(アンバサダー)を務める山本ユミさんの彼岸寺の特集から見ることができますよ!

誰もがやったことのある掃除。小さな頃から家庭や学校でいつのまにか習慣づいていますよね。お寺を良き習慣の道場と語る松本さんが Temple Morning を行う背景にどのような考えがあるのかを会でお聞きしました。

まず開発(かいほつ)のお話を聞きました。仏教の開発(かいほつ)は内側にもつ仏性がおのずから開かれるという意味を持っています。変えていこうとする、というよりも、変わっていくことがそれぞれの人の中で起こっていくこと、というニュアンスがあります。

さらに開発僧についても紹介いただきました。開発僧として有名なのは、たとえばタイと日本を行き来しながら、瞑想指導をおこなっているタイ・スカトー寺の副住職のプラユキ・ナラテボーさん。日本においても貧困問題の解決を目指した「おてらおやつクラブ」や山梨の「SOCIAL TEMPLE」など、少しずつ社会をよりよく向上させようという仏教的な開発(かいほつ)活動が増えてきています。ここ400年ほど続いているお檀家制度も、開発が豊かに起こっているか?という視点で振り返ってみると、良いかもしれませんね。

人口が減っていくことで、これまで成立してきた経済システムやそれを支えてきた人の役割が変容し、それに伴う内面の変化も起こります。経済的な所得を最大化させていくことを大前提においた持続的発展に振り切るのではなく、心の満足が起こっていく内面の変化も大切にする過渡期に差し掛かっているのではないでしょうか。

2500年続いてきた仏教思想が生き残ってきたことは、いつの時代も、心の満足を求める人がいたということを裏付けていますが、それが21世紀の今現在にその重要性が高まっているのではないかと思います。

次に紹介されたのが僧侶の役割です。

話を聞いていて、ポイントだと思ったのは、「僧侶の役割は、既存の社会と緊密な関係を保ちながら外にいて、なおかつ既存の社会にもインパクトを与える」という点でした。

社会情勢の移り変わりの中で、今こそ僧侶の方々の存在感が増していくと素敵ですね!

特に私は東京にいて、ここではまだまだ経済中心のシステムや物事の見方が支配的に回っているという感覚を常に感じています。そんな時にお寺の空間や僧侶の方々は、貴重な存在だと思いますし、そのポテンシャルがもっと活かされていく未来もやってきてほしいと思いました。

さらに松本さんが紹介されたのは、仏教の3ステップ「戒(かい)・定(じょう)・慧(え)」です。

社会に定着していく過程を経たマインドフルネスですが、戒(かい)・定(じょう)・慧(え)に当てはめるとすると、「定」にあたるとのこと。悟りの果実を得るには、木の幹はとても重要なものです。しかし、それだけではなく、それを支える根っこが大事だと松本さんは語ります。それは戒(かい)です。言い換えると、良き習慣を身につけることです。

誰もがやったことがある掃除を仏教的視点から眺め直す

Temple Morning は、戒(かい)の開発的実践とも言えるでしょう。Temple Morning を通して、掃除をしながら心を見つめる習慣ができて、より健やかに変わっていく人たちもいるのだとか。全国お寺で Temple Morning がジワジワ広がっていっているみたいですので、皆さんも行ってみてくださいね!

Temple Morning には、私の目から見て、いくつも面白いなと思った点があり、対談はそれらについての質問や考察を松本さんに共有しながら進みました。

Temple Morning の健やかな広がり方、心の平安を共有することで生まれる次世代コミュニティのあり方、カルト文化ではなく健やかな文化を作っていくこと、など、多岐にわたる観点で話が広がった対談の具体的な内容は次の投稿でご紹介します。そこに文化を継承していく際に意識したいエッセンスが詰まっていました。

レポート第三弾を、ぜひ気長にお待ちください。



1991年お寺生まれ。京都大学卒。持続可能な世界へのトランジション(移り変わり)をリサーチするインデペンデント・リサーチャー。特に人の内面の世界が移り変わることへの興味から、内的なトランジションをサポートする 1on1 セッションの実施やプログラムの実施、哲学をはじめとした領域とのコラボレーションをおこなう。文化を継いでいく人たちがゆるやかな連帯を紡ぎ、ともに持続可能な継承を探求・実践するコミュニティ「Sustainable Succession Samgha」を運営している。共著に『トランジション 何があっても生きていける方法』(春秋社)。