【レポート】「阿弥陀プラットフォーム」って何?? 家入一真×松本紹圭「親鸞とインターネット」に行ってみた!


昨年11月頃、「CAMPFIRE」などを立ち上げたIT起業家 家入一真さんと、「未来の住職塾」塾長 松本紹圭さんによるTwitter上でのこのやりとりを目にして、私は頭の中が「?」でいっぱいになりました。

「親鸞がインターネット。これは一体どういうことなのだろうか?」と。

親鸞聖人を開祖とする浄土真宗の僧侶であり、そして「インターネット寺院・彼岸寺」の代表を務める人間としては「この真意を直接確かめなければならない!」という謎の使命感に駆られ、数年ぶりの上京を決意しました。

今回のイベント「親鸞とインターネット」は、家入さんが主宰する「やさしいかくめいラボ」が中心となって実現しました。イベントの詳細は明かされていなかったにも関わらず、松本さんが主宰する「未来の仏教ラボ」に関わるお坊さんも全国から(遠い方は長崎や鹿児島から!)参加するなど、会場となった神谷町・光明寺の本堂はワクワクとした期待に満ち溢れていました。

宗教・仏教を巡る今と家入さんの活動

まずトークの口火を切ったのは松本さん。今回の「親鸞とインターネット」が開かれた経緯から、現在の世界で見られる宗教、そして仏教を取り巻く状況について話してくれました。

まずは彼岸寺の連載『ひじりでいこう』でも話題となった「Post-religion」も紹介。お寺のメンバーになることを前提とするあり方ではなく、個人として緩やかに関わりながら、より良い生き方へと変えていくための道、仏道としての仏教が求められていることや、「お寺は二階建て」といった、日本のお寺の現状とこれからの展望や課題について共有しました。

そして家入さんにバトンタッチ。家入さんは今、最初に家入さんの現状について、「CAMPFIRE」などのITサービスの企業・経営のほか、「現在の駆け込み寺」をコンセプトにしたシェアハウス「リバ邸」の展開もされています。家入さんの活動のテーマのひとつは「居場所をつくる」こと。今回のイベント開催の中心となった「やさしいかくめいラボ」も、家入さんがひらく10代、20代の人たちの新しいコミュニティで、家入さんの活動のテーマである「居場所」を作る試みとして始まったそうです。

「居場所をつくる」というテーマの背景には、家入さんの原体験が大きく関係しているそうです。いじめをきっかけに学校に行けなくなり、対人恐怖症のようになってしまったこと、部屋から出ないような10代を過ごしたという家入さん。自分の行き場所、居場所を失ってしまった中で唯一の救いであり社会の接点となったのがインターネットだったそうです。

今でこそ、いつでもどこでも常時接続が当たり前のインターネットですが、当時はまだ誰もがアクセスできるものではなく、社会から隔離された世界となっていました。そのため、インターネットの世界は既存の社会で生きづらさを感じている人たちにとっての一つの聖域のような場所・機能も果たしていました。

その後、「社会に馴染めないなら自ら起業するしかない」と起業家の道を選んだ家入さん。会社経営も軌道に乗る中で、「10代の頃に、こういう場所があったなら行きたかったな」と思えるような、そして既存の社会の仕組みからこぼれ落ちる人たちが安心して集まれるような「居場所」を作りたいと活動を続けておられるそうです。

親鸞とインターネット

そんななかで仏教、そして親鸞と出会われた家入さんは、独学で学びながら「親鸞はヤバい」と感じたそうです。そして学べば学ぶほど「この人は存在自体がインターネット」だと思うようになったのだとか。

家入さんは「インターネット」というものの本質を「民主化すること」と言います。例えばクラウドファンディングは、金融という一部の機関や投資家が扱っていたものを、共感をベースとして小口でお金を集めることができるようにするサービス。これは一種の権威と化していた金融を、インターネットというテクノロジーを通して人々の手に戻す、民主化することにつながっています。

あるいは、これまで芸能人やアーティストのような一部の人に限られてきた〈表現すること〉が、誰でもがスマホなど使って世界に自分から表現し、発信できるようになったこと。これもまた、インターネットによってもたらされた民主化の例として挙げられました。このように限られた人しかアクセスできなかったものが、身近になる、個人の手に取り戻すことが民主化であり、それこそがインターネットの本質であると家入さんは話します。

そしてまさにそれを体現したのが親鸞という人物であるというのが、家入さんの考えでした。松本さんはそれを「救いの民主化」と表現。当時、貴族や一種のエリートとも言える僧侶だけにアクセスが限られてた仏教を、人々の手に戻したのが親鸞という人物だと家入さんは評価します。

仏教はそもそも別け隔てなく、誰にでも開かれた救いの道であったはずのものが、一部の特権階級の人たちしかアクセスできなくなっていました。それを民主化したのが親鸞であり、それはまさにインターネット的存在であった――「親鸞ほどインターネットを体現している人はいない」と家入さんが表現されたのは、そのような意味合いがあったのです。

条件のない救い・阿弥陀プラットフォーム

家入さんの話を受けて、松本さんは、親鸞の思想についてを解説。阿弥陀仏という仏による救いは「◯◯したから救われる」というような条件付きの救いではなく、条件のない救いであると説明します。「◯◯したから」という条件がある世界は、私たちの日常にあるファンタジーと何ら変わりません。「努力したから」「我慢しているのに」など私たちは条件付きの世界に生きているからこそ苦しむのであり、私がただここにこうして在ることだけに自信が持てず、価値を見い出せず、罪悪感を感じてしまうことにも繋がってしまいます。そうであってはいけないと、私がここに存在していいんだという条件を満たさなければならないと考えてしまい、それが、家入さんのおっしゃるような居場所のなさ、生きづらさにも関わってくると松本さんは語りました。

そのような世界にある私たちに対して、条件付きではない、あなたそのままで大丈夫という世界観を提示したことが、親鸞という人物の大きな功績でした。家入さんは「親鸞の仏教(大乗仏教や浄土真宗)はプラットフォーム的」と表現します。家入さん自身も誰もが活動・活躍できる場作り、プラットフォームを中心としたビジネスを手がけてこられ、親鸞の仏教にもプラットフォーム的な「やさしさ」を感じられたとお話されました。

松本さんは、法然そして親鸞が明らかにした、「誰一人取り残される人がないプラットフォーム」を「阿弥陀プラットフォーム」と表現。その「阿弥陀プラットフォーム」の上に実は今私たちが立っている。それは素晴らしい土台だけれど、自分自身がそこに立っていることに気づかなければ意味がない。自分のこととしてそれを受け止めていくことの大切さを、親鸞が教えてくれたと語りました。

「阿弥陀プラットフォーム」という二人の対談を通して生まれた新しい言葉は、家入さんにとっても、参加者にもかなり刺さった様子が感じられ、まさに今回の「親鸞とインターネット」の大きなハイライトの瞬間だったと言えるでしょう。

宗教の未来はどうなるか?

イベントの後半ではグループディスカッションの時間も設けられました。お坊さんと学生・社会人が入り交じり、少しずつ異なる角度から宗教の未来というものを話し合う時間、とても有意義でした。

私が参加したグループでは、これからのお寺のあり方として、「アジール(避難所・聖域)としての位置づけ」「人と人とが繋がれる場としてのお寺が求められていくのではないか」「地域に根づいた歴史を持つお寺だからこそのコミュニティを作ることができるのではないか」といった、お寺のこれからの可能性についての意見がありました。

また別のグループでは、「新しいテクノロジーが生まれても、苦の種類が変わることがあっても無くなることがなければ、必ず宗教は必要とされるだろう」という見通しや、神秘体験が技術によって現実化する可能性など、宗教とテクノロジー(relitech・レリテック)についての意見が出されました。

お寺の未来を考える時、「地方の人口減少」などネガティブ要素に目が向きがちですが、若い人たちの中から「宗教」そして「お寺」に対する希望のような声が聞こえてきたことは、僧侶としてとても嬉しく感じられました。

さいごに

「親鸞とインターネット」というまるで水と油のようなタイトルのイベントを知った時には、「一体どのようなことが語られるのだろう?」かと、私自身、見当もつきませんでした。しかし、想像した以上の納得感があったように思います。特に「彼岸寺」もお坊さんや仏教を大切にする人たちの活動の場、つまり「プラットフォーム」ということが一つのキーワードとなっていたこともあり、家入さんの活動とも通じる部分があるのではないかと、お話を伺いながら考えていました。

また仏教の持つ「誰一人漏らさない」という大きな慈悲が、生きづらさを抱える人達にとっての一つの希望となり得ること、お寺がその「居場所」の機能を果たすことができる可能性に、改めて気づかされた思いがします。

もちろん、今回の対談は「私が仏と成る」という仏教本来の目的とは違った視点に立っていることは間違いありません。しかし、既存の仕組みからこぼれ落ちる人のための「居場所」を作るという家入さんの活動も、「誰一人漏らさない」という仏の慈悲の心も、その理念とするところは近しくあるようにも感じられました。それは、人の抱える苦悩に寄り添い、それをなんとかしたいとする「やさしさ」に他なりません。

これからのお寺のあり方を考える上でも、たくさんの学びがあったこのイベント。皆様にもその雰囲気が少しでも伝われば幸いです。

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日下 賢裕

不思議なご縁で彼岸寺の代表を務めています。念仏推しのお坊さんです。