お坊さんが電力小売事業に参入!?これは僧侶の金儲けなのか?

先日Twitterを見ているとトレンドワードに気になる言葉が2つ並んでいました。一つは「京都の僧侶らの会社」、もう一つは「電力小売り事業」という言葉。「電力小売り事業」は「なぜ今さらトレンドに?」という感じがあって気になったのですが、もう一方の「京都の僧侶らの会社」はさっぱりわからず、まずは、と開いてみると「京都の僧侶らの会社 電力小売り事業に参入へ 檀家減少が背景に」という見出し。気になったキーワードが実は連続したものであるという展開にびっくり。

そしてこのニュースはNHKのニュースで取り上げられたようで、Twitterでもトレンドに入るほどの盛り上がりをみせておりました。その理由の一つは事業のネーミング。「TERA Energy(テラエナジー)」というお寺と一兆倍を表す接頭語「テラ」とをかけ合わせたような名付け方に、面白さを感じた方々が取り上げたようです。

その一方で、やはり批判的な意見も目立ちました。僧侶が電力販売の事業に乗り出すというのは、どういうことなのか。仏法を広めることが僧侶の役割であるにもかかわらず、寺檀関係を利用した金儲けではないのか。あるいは、檀家減少は僧侶の怠慢に原因があるのであって、まずは反省ではないかという意見、過疎によってお寺に来る人がいなくなるということは、そのお寺は役割を終えたということであって、存続させるべきなのはお寺ではないのでは?結局食い扶持のためでは?というような意見がありました。

私も正直「なぜ電力小売り事業に?」という疑問や、「どうやら本願寺派のお坊さんがはじめようとしているらしいが、一体誰が/どこが主体となってやろうとしているんだ」などなど、わからないことだらけで、首を傾げずにはおれませんでした。批判的な意見が多くなるのも、仕方がない案件だと感じられました。

その批判が集まる大きな理由には、やはりお坊さんがお坊さんとしての本分である、仏教を伝えるということではなくて、商売のようなことをしようとしていることにあるのでしょう。

もう一つの批判される理由は、そこまでしてお寺を護る必要があるのか?という点でしょう。諸行無常の教えを誰よりも聞いているであろうはずの僧侶が、本当に護るべき教えである仏法よりも、寺という形あるものにとらわれてしまっているのではないか、という意見です。

しかしその反面、これまでもお坊さんが先生やサラリーマンをしたりして兼業によってお寺を維持してきているという事実もあります。あるいは保育園や幼稚園、介護施設などを経営しながら、お寺を継続してきているお寺もあります。それらのことはOKでも、電力小売り事業のような形をとって、お寺を維持しようというのは良くないと感じられるのは、どうしてなのでしょうか?

もちろん、保育園や介護施設は、なんとなく仏教の教えとも地続きであるような印象がありますし、電力小売り事業ではあまりに仏教とかけ離れている感じというのは否めません。しかしそのようなイメージのみで線引きを行ってしまうのも「お坊さんだからかくあるべき」ということにとらわれ過ぎてしまっているのかもしれません。(この「彼岸寺」もかつては「金持ち坊主の道楽」と批判されたことがあったとか。)

また、そこまでしてお寺を護持しなければいけないのか、過疎の地域などのお寺が無くなるのは、その地域で必要がなくなるからで、無理に護る必要もないのでは、という意見も、確かに間違いではありません。しかし、地域のお寺の門徒・檀家という関係は、共に仏教の教えを聞いていくという言わば一種の「サンガ」です。お寺離れは僧侶の怠慢、ということは、完全に否定できるものではありませんが、これまで少なからずお寺では法座が勤まり、仏法に出会う場が開かれてきました。地域の人達がお寺を支え、そしてお寺を通して仏教に出会って来たからこそ、長期間に渡ってお寺が存続してきたのです。過疎になり、人が少なくなってきて「お寺を続けていくのはこれからは難しそうだから、もう無理です。これも諸行無常、一抜けた」というように簡単に投げ出せるようなものではない、というのが、お寺にいる人間としての気持ちではないでしょうか。

けれど当然、人が少なくなれば、お寺の金銭的な支えもなくなっていきます。この彼岸寺でも、松本紹圭が「ポスト宗教」にまつわるブログの中で、お寺の新しい経済システムを考えていかなければいけないということを語っていました。しかし実際に、そのような新しいシステムを創造し、定着・持続させるということは並大抵なことではなく、いまだそのようなシステムは産声を上げてはいません。

そんな現状の中にあって、これまでは門徒さんや檀家さんといったサンガの支えによってお寺が維持されてきたけれど、それだけでは厳しい時代を迎えている。それならば、僧侶が手を取り合ってお寺を維持していくシステムを生み出せないか、として生まれてきたのがこの「TERA Energy」なのではないでしょうか。電力小売り事業という方法に関してや、結局門徒さん・檀家さん頼みでは?などの賛否もあろうかと思いますが、これまでお寺とお寺、僧侶と僧侶が支え合うというシステムがなかったことを考えると、画期的とも言えるのではないでしょうか。

また、報道を見ただけではわからなかったことですが、この事業に携わられている方は本願寺派の僧侶で、これまで自死問題などに積極的に取り組んでこられたお坊さんでした。また電気の買い取り先も太陽光やバイオマス発電などの電力を供給する会社から、ということだそうです。そのようなところを見ましても、単なる坊主の金儲け、ということではなく、仏法と地続きの、きちんとした想いやねらいというものがあるのではないでしょうか。

災害支援などに関わられている本願寺派の僧侶・釈香茜さんは、「災害で避難された方々を支援してると、電気によって苦しみが生まれてることがわかるので、その意味をお坊さんが変えていくということに、とても感動をおぼえました。仏法の灯火がそこを行き交うようなイメージを、私は持ちます。仏法を、インフラにする。というと過大評価すぎるでしょうか」「ひかりといのちをシェアするという発想は、浄土真宗の教えともマッチするのでは?」ということをおっしゃっておられました。

ともあれ、こちらの件は本来ならば10月25日に発表されるはずのことだったようで、取材もなしに取り上げられた断片的な情報だったとか。10月25日には正式な記者会見もあるそうですので、どのような想いからこのような事業を始めるに至ったのか、注目したいところですね。

TERA Energy:https://www.tera-energy.com/

不思議なご縁で彼岸寺の代表を務めています。念仏推しのお坊さんです。