死を見つめることで、生がはっきりと見えてくる

ニュースを見ていると、毎日事故や事件で多くの方が亡くなっています。皆さんは「もし自分だったら」と考えたことはありますでしょうか? そんな縁起の悪いことは考えませんか?

 
 1980年代にアメリカのホスピスで開発された「死の体験旅行」というワークショップがあります。もともとは医療従事者向けで、いのちを終えようとしている目の前の患者さんに寄り添うため、病院勤務の牧師さんが開発したのだそうです。ちなみに世界各国の病院には「チャプレン」と呼ばれる宗教者がいて、患者さんの悩み苦しみに対応していますが、日本では残念なことにほとんど広まっていません。
 
 さて、その「死の体験旅行」ですが、まず白・青・ピンク・黄の4色、5枚ずつで計20枚の名刺大のカードに自分の大切なものを書き出していきます。白は物、青は自然、ピンクは行動、黄は人です。これを書き出すだけでも、自分が大切だと思っているものは何なのか、深く考えることになるでしょう。
 
 20枚のカードを書き終えると、進行役がストーリーを語り始めます。参加者はストーリーに耳を傾けながら、時おり指示に従ってカードを捨てていくのです。
 
 最初はそれほど迷わずに捨てていく方が多いのですが、手持ちのカードが少なくなるにしたがい苦渋の決断を迫られます。中には途中から涙を流し、嗚咽をもらす方もいらっしゃいます。
 
 私は僧侶として人を見送る時のため、このプログラムに興味を持ちましたが、一般の方から予想以上の関心を頂きました。その多くが「自分にとって何が本当に大切かを知りたい」という声でした。その声に突き動かされ、ワークショップを開催しています。
 開催してみると、様々な感想や反応を頂きます。
「最後まで残った1枚は予想通りのものだったが、途中の順番が全然違った」
「大切だと思っていたものが簡単に捨てられて、何気なく書いたものが捨てられなかった」
「昨年家族が亡くなったが、看病している時期に受けていれば、もっと寄り添ってあげられたのに…」
「大切な人にもっと優しく、大切にしていきたい」など様々です。
 
 はじめに「そんな縁起の悪いことは考えませんか?」と問いかけましたが、仏教で説く「縁起」とは「原因と条件と結果が関係しあっている」という考え方です。死を考えようが考えまいが、私たちは生まれたからには必ずいのちを終えます。
 
 時にはそこから目を背けずに真摯に向き合うと、思いがけない気づきや発見が得られるのかも知れませんね。
 
 
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●浦上哲也(うらかみ てつや)さん プロフィール
神奈川県横浜市 真宗高田派 倶生山なごみ庵 住職
 
一言自己紹介
横浜市神奈川区で「なごみ庵」という新しいお寺を創っています。また、役者である妻とともに「金子みすゞ ひとり舞台」の上演、「死の体験旅行」ワークショップなど、独自の活動も展開。
あなたもぜひ「なごみ」に来て下さい。

彼岸寺は、仏教とあなたのご縁を結ぶ、インターネット上のお寺です。 誰もが、一人ひとりの仏教をのびのびと語り、共有できる、そんなお寺です。