昨年、「お寺の掲示板大賞」が様々なメディアで取り上げられ話題となったり、「みうらじゅん賞」の受賞などで、今にわかに注目を集めている「公益財団法人 仏教伝道協会」。彼岸寺でも何度か「仏教伝道協会」(以下BDK)が主催するシンポジウムなどのご紹介をしてまいりましたが、「一体BDKとはどんな団体なのか、何をしているのか、いまひとつよくわからない……」という方も多いのではないでしょうか。実は私もその一人……ということで、今回突撃レポートを敢行してみました!
BDKがあるのは、東京港区、田町駅の近く。付近には慶應義塾大学の三田キャンパスや、NEC本社ビルがあるなど、田舎に住んでいる私からすると「まさに都会……!」といった街の中に、ひっそりと「仏教伝道センタービル」と冠するビルが建っていました。
恐る恐る中に入り、エレベータに乗りオフィスがある6階へ。入り口で受付をすると、職員の方が対応してくださいました。そこは想像していた以上にごく普通のオフィス。仏教感はほとんど感じられません。お話を伺う前に少し見学を、ということで、まずは別の階にある大きな会議室を案内してもらうことになりました。案内いただいた大会議室では、BDKが毎年贈呈している「仏教伝道協会文化賞」の授賞式にも使われているのだとか。
去年はみうらじゅん氏が「仏教伝道協会文化賞 沼田奨励賞」を受賞されたことでも記憶に新しい同賞。他にも近年では釈徹宗氏や『苦海浄土』の著者・石牟礼道子さんが受賞されるなど、仏教の研究者のみならず、仏教の精神や文化に寄与された方や団体に贈られており、仏教界の発展につながる賞として知られています。
その大会議室には、なんとご本尊も安置されていました。さすが、仏教伝道協会の名は伊達ではありません。「南無帰依仏・法・僧」と「三帰依文」が書かれたご本尊は初めて見ましたが、宗派にとらわれることなく、仏教そのものを大切にしていこうとする想いがそこに表されているように感じられました。
●世界に広がるBDK!
公益財団法人として様々な活動を展開しているBDKですが、その事業の一番の軸となっているのはやはり『仏教聖典』の普及です。『仏教聖典』は、誰もが仏教の教えに触れられるようにと、様々な経典のエッセンスを抽出して現代語として編集されたもの。ホテルに聖書が置いてあるように、『仏教聖典』もホテルなどに設置されているのをご存知の方もおられるかもしれません。
また国内だけでなく、世界各国の言葉にも翻訳されるという事業も行われ、世界中のホテルへの設置・普及ということが、BDKの活動の一つとなっているのだとか。なんと現在では46の言語へと翻訳されており、62カ国、930万冊以上が頒布されているそうです。
ホテル数の多いヨーロッパではこれまでも『仏教聖典』が設置されてきましたが、現在は特に、東南アジアの発展に伴い、タイやマレーシアなどのホテルでの設置も増えているとのこと。ただ、やはりどこのホテルでも必ず置いてくれるわけではなく、近年ではホテルの部屋が簡素化され、そもそも引き出しがない客室も増えたことで、設置が難しいケースもあるなど、苦労されている面もお話いただきました。
さらに、海外への『仏教聖典』普及のために、世界各地にも協力機関やお寺などが展開がされています。これにはBDKの母体となる精密測定機器メーカー「株式会社ミツトヨ」との連携もあって実現しているのだとか。「ヨーロッパでなもあみだぶつ」でおなじみの江田さんが、かつて勤めておられたドイツ・デュッセルドルフにある恵光寺も、ヨーロッパでの活動の拠点の一つとのことでした。
さらには全100巻からなる漢訳の『大正新脩大蔵経(たいしょうしんしゅうだいぞうきょう)』の英訳事業も行われています。「一切経」とも呼ばれるこの「大蔵経」は、お釈迦様の教えが書かれた「経」、僧侶の生活規範や戒律が書かれた「律」、そしてそれらをいろんな僧侶が注釈・解釈した「論」からなる、「三蔵」から構成されたもの。それを英訳しようという事業が、BDK創立者の沼田惠範氏によって興され、現在もその英訳作業が続けられているそうです。
その他にも、カリフォルニア大学やハーバード大学、オックスフォード大学にウィーン大学など、欧米の16の名だたる大学で「沼田仏教講座」や講演会、シンポジウムの運営にも携わっていることは、かなり驚きました。講義の内容もかなり専門的なもので、ここから多くの仏教研究者が育っていったであろうことも想像できます。
こうして見てみますと、BDKはかなり海外での日本仏教の普及に力を入れていることがわかってきました。お話を伺いながら、「仏教を世界に」という情熱が、BDKの活動の根幹にあるのだなと感じられました。
●仏教を身近に学ぶために
彼岸寺でもご紹介したことがありますが、BDKでは年に数回のシンポジウムを開催しています。著名な仏教学者や僧侶が登壇することも多いBDKのシンポジウムは、多くの人が様々な角度から仏教を学び親しめるようにという思いを感じ取ることができます。
2019年もすでに2月〜3月にかけて3つのシンポジウムが予定されており、こちらも要チェックです。
http://www.bdk.or.jp/event/symposium.html
また他にも初心者向けの講座を始め、「BDKヨガ講座」や「仏教を英語で学ぶ会」など、様々な学びの場も展開しています。知識としての仏教だけでなく、法話のエッセンスを取り入れたお話を通して仏教に親しめる場を提供することも、BDKの大きな役割の一つであるとしてお話をいただきました。
さらに、さまざまな出版物を出すのも大きな事業の一つ。『仏教聖典』を中心に、『仏教聖典』をよりわかりやすく学ぶための副読本、経典や各宗祖の言葉などを掲載した日めくりカレンダーとその解説本「みちしるべ」など、できるだけわかりやすく、そして親しみやすくというところに心配りがなされています。
さらに新しい取り組みとして、東京のお寺を英語で紹介する観光マップが作られたり、子どものこころを育む絵本作品を募集する「こころの絵本大賞」も行うなど、さまざまな形を通して、仏教に親しめるようにと工夫を凝らして仏教の普及に取り組まれていることには、本当に驚かされるばかりでした。
これらの出版事業で出された本などは、基本的にはあまり書店に並ぶ種類のものではないそうですが、お寺の教化活動のための一つの支援として行われており、お寺の施本などとして活用されているそうです。ただ、近年の出版不況などもあり、硬派な本が売れなくなってきていることなど、苦慮されている面もあるそうですが、いずれは電子書籍などへも進出していければという想いも聞かせていただきました。
個人的には、様々な経典の言葉に親しめる「みちしるべ」シリーズを法話の参考にさせてもらった経験もあり、どんな風にしてそれらが作られてきたかなどの想いを聞かせていただいて、なんだが胸がアツくなる思いがしました。
●BDK最大の謎、お金のヒミツに迫る!
さて、BDK最大の謎、と言えばそう、お金のヒミツ。ここまでBDKが様々な活動に取り組んでいることをご紹介してきましたが、それにはやはりどうしてもお金がかかります。さらには文化賞では賞金も授与されますし、彼岸寺もリニューアルの際にお世話になった助成金、さらには仏教研究者の留学のための奨学金制度など、研究者の育成や仏教発展のための支援を行う上でも、お金は欠かせません。
さらに、BDKでは約20名の職員が勤めておられます。江田さんもそうですし、『英語でブッダ』の著書でもありテレビ朝日で放送された「お坊さんバラエティぶっちゃけ寺」への出演でも知られる大來尚順さんもBDKの職員の一人です。多岐にわたる業務に携わる職員さんを雇う上でもお金のことは大切になるわけですが、それらは一体どのようにして賄われているのか。私だけでなく、気になっている方もおられることだろう、ということでお話を伺ってみました。
すると驚いたことに、BDKの運営に必要な資金のほとんどが「株式会社ミツトヨ」から出されているものなのだとか。BDK自体は公益財団法人という立場ですから、基本的には営利事業を行うことはできません。活動の根幹にある『仏教聖典』は、無償で頒布されていますし、出版物の多くも一般的な書籍に比べてはるかに安い価格で販売されています。シンポジウムなどでの参加費も、イベントの開催にかかる経費を全て賄えるほどでもありません。それらの活動ための多くを資金を援助しているのが、「株式会社ミツトヨ」だったのです!
そもそもBDKの創始者である沼田惠範氏は、「株式会社ミツトヨ」の創業者でもあります。そのルーツは浄土真宗本願寺派のお寺の生まれにあり、20世紀初頭に渡米し、カリフォルニア大バークレー校で学ぶと共に、仏教や日本文化の紹介なども積極的に行ったのだとか。その後帰国し、精密測定機器・マイクロメータの開発事業に着手。日本の産業の精度の高さを支える企業に成長する中で、沼田氏は仏教を世界に広めたいという想いから、私財を投じて仏教伝道協会を創設し、仏教の伝道に力を注いだそうです。
その沼田氏の想いが今もなお受け継がれ、この厳しい時代にあっても、仏教を広める活動がしっかりと支えられていたんですね……まるで朝ドラのテーマになりそうなエピソードに、思わずシビれてしまいました。
●まとめ
仏教伝道協会の謎に迫るレポート、いかがでしたでしょうか?海外での活動など、私も活動の幅広さに驚かされることばかりでしたし、「もっとBDKのこと知ってほしい!」という気持ちになりました。彼岸寺でもまた時々その活動の一端をご紹介することがあるかと思いますが、その時にはぜひ注目していただければと思います。
特に東京近郊の方には、いろいろな学びの場を提供してくださっておりますので、仏教伝道協会のウェブサイトもぜひご覧くださいませ。
最後に、今回の取材にあたり、お忙しい中にもご協力をいただきました増田さん、柳衛さん、そして高橋さん、本当にありがとうございました。厚く御礼申し上げます。