ウチのお寺の掲示板には、
『 【あなたのお話 お聴きします】
他の人にとっては些細(ささい)なことでも、
あなたにとっては大きな問題ですから…
ご一緒に考えていけたらと思います。』
という張り紙をしています。本来、お寺はどなたが訪れても構わない場所ですが、檀家じゃないから入っちゃダメなんじゃないか・・・、法事じゃないから行きにくいなぁ・・・と、敷居が高い存在に感じられています。事実、この張り紙をしてから様々な方々が来られるようになりました。
我らが抱える悩みは、お釈迦さま没後2500年経ってもなお、お釈迦さまの教え「四苦八苦」そのものです。老病死苦(病気や老後、死への不安)、愛別離苦や怨憎会苦(家庭や職場、学校での人間関係)、求不得苦(借金や就職難といった経済問題)などを、その方々は日常生活の中で誰にも相談できず苦しみ続けていました。家族や友人には心配を掛けたくないから辛い気持ちを打ち明けられなかった・・・、嫌われたくないから辛さを悟られないように明るく振る舞っていた・・・。縁もゆかりもないお寺なら自分のウワサが広まる心配が無いから、安心して私に吐露されるのでしょう。
相談内容は上記のように様々ですが、一通り話されると皆一様にスッキリした顔になります。私に話したからといって人間関係や借金や病気が解決するわけではありません。でも、悩みを誰にも話せないで独りで抱えていること自体が別な辛さになっているので、その気持ちを誰かに聴いてもらうだけでも気持ちが上向きになります。お寺に相談に来る方々は、何か具体的な解決を依頼しに来るのではなく、「辛くて辛くてたまらない」という気持ちを聴いてほしいのです。誰かが寄り添って自分の話を聴いてくれると、気持ちが癒されて孤独感が和らぎます。そして自尊感情が高まって自分自身の中に力が湧いてきます。そこでようやく問題に立ち向かう気持ちが芽生えるのではないでしょうか。
ご存知かも知れませんが、日本全国の自死(自殺)者の人数は、毎年約3万名です。コンサート会場でも有名な日本武道館2つ分の定員に相当する人数が毎年自死していることになります。それだけの方々が逃げ場所が無く自死を選ばざるを得ないということは、日本全体が負けや弱さを認めない生き辛い社会になってしまい、人々が安心して泣いていられる居場所が奪われている証です。ひと休みを許されず頑張り続けることを強いられる社会だから、死にたくなる人が一向に減らないのでしょう。
あなたがもし辛くなったら、誰かにそのお気持ちを打ち明けてください。生きるのが嫌になるのは、変なことでも特別なことでもなく、実は誰にでもよくあることなのです。でも、なかなか周りに相談しにくいのも確か。そんな時は、ぜひお寺に足を向けてみてください。お坊さんを頼ってみてください。具体的な問題は解決できないかも知れませんが、辛い苦しい気持ちを打ち明けることで、少しは気が楽になるはずです。どうぞ遠慮なさらず寺門を叩いてください。
●和田隆彦(わだ たかひこ)さん プロフィール
広島県広島市 真宗大谷派 超覚寺 住職
教誨師、保護司、精神対話士
一言自己紹介
1997年に30歳で証券会社を退社、親戚のお寺に入るも、紆余曲折を経て2012年住職継職。
「自死・自殺に向き合う僧侶の会」、「自死に向きあう広島僧侶の会」、「自殺防止ネットワーク風」、「いのちに寄り添う会」等で、自殺予防活動に携わる。
広島カープ、サンフレッチェ広島が共に好調で、最近浮き立っております。