「そのままでいいんだよ」という言葉をききますと、励ましともとれますが、「そんな自分がいやだから悩んでいるんじゃないか」と言いたくなる時があります。私自身、この言葉を初めて聞いた時、自分の能力のことや人間関係のことで悩んでいた時でした。そんな時に私は「そのままでいい」と言う言葉を聞き、正直言うと「ふざけるな!」と言いたくなりました。
「そのままでいい」と言う言葉はそれだけだと、今置かれている状況に満足するよう促しているだけの、後ろ向きの言葉に聞こえてしまうことがあります。もちろん、「そのままでいい」という言葉はそれ自体とても良い言葉です。ただ、時としてその言葉が人の心を傷つけてしまうことがあります。だからこそ、「あなたはあなたのままでいい」という言葉がとても大きな意味を持ってくるんです。
「本当の自分はこんなもんじゃない」「こんなの私ではない」と思ったことは老若男女問わず、ほとんどの人がもつ感情ではないでしょうか。そんな時に「そのままでいい」と言われてしまうと、「自分はこんなものなのだ」と認めてしまうようでこわいものです。
そんな気持ちになってしまった時、一旦落ち着いて自分自身をしっかりと見つめてあげると、自分の中にあるもやもやしたもの、漠然とした不安が輪郭をもって見えてくることがあります。「あなたはあなたのままでいい」という言葉は、悩んでいるあなた、不安で必死にもがいているあなた。そして、頑張っているあなた。それらすべてを肯定してくれる言葉なのです。
仏教には、あなたがあなたのままで輝ける世界が開かれています。誰も「あなたはあなたのままでいい」と言ってくれなくても、仏様だけはずっと、あなたにそうはたらきかけて下さっています。もちろん、だからといって好き勝手に振る舞っていいということではありません。浄土真宗の開祖であります親鸞聖人は「薬があるからと言って、毒を好むということはあってよいことではない」と戒めていらっしゃいます。「あなたはあなたのままでいい」と言う言葉をとおして、自分自身が認められていく世界と、気付けば毒を好んでしまう自分のすがたを見つめていきたいものです。
最後に、仏教は死んだ後の教えでも、死んだ人のための教えでもありません。今、生きているあなたのための教えです。もし興味があったら色々な仏教のお話を聞いてみて下さい。あなたに合う薬がきっと見つかるはずです。
●小林賢五(こばやし けんご)さん プロフィール
神奈川県 浄土真宗本願寺派 長念寺
一言自己紹介
本願寺派衆徒、龍谷大学実践真宗学研究科修了。
2013年11月本願寺派布教使任用予定。勤式指導所研究生。