遠くの有名寺より近くの地元寺

未来の住職塾が2021年度で10年目に入る。旧プログラムが7期で一区切りし、NEXTへ進化してからの3期目を迎えるので、通算でいうと10期目ということになる。10年一区切りというが、2012年にスタートした時にはまさか10年も続けられるなんて、想像したくてもできなかったこと。今日まで長年一緒にやってきた戦友の松崎香織さんと遠藤卓也さん、そしてNEXTの講師をしてくださっている木村共宏さんに心から感謝したい。これまで関わってくれた塾生や講師ほか、数えきれないほどの人々にも、感謝申し上げたい。

10年間を振り返る記事を書くと、1冊の本になるくらいの分量になりそうなので、ここでは未来の住職塾に起きている最近の顕著な変化について触れたいと思う。それも、中身じゃなくて(中身についてもコロナに伴う完全オンライン化など語れることはたくさんあるのだけど)、今日話してみたいのは、外とのご縁の変化。タイミングというものがあるのだろうか、ここへ来て急に、一般企業からのアプローチが増えてきている。

もっとも、これまでだってお寺と「一般企業」との接点がなかったわけではない。仏壇仏具店、法衣店、石材店、葬儀社、生花店、業界誌出版社・・・お寺の境内で「かめやまローソク」と書かれたベンチを見かけたことのある人も多いと思う(多くはないか)。これらの業種の企業はれっきとした一般営利企業だ。とはいえ、お寺のかなり近くにある事業者であることも間違いない。お坊さんの青年会活動などで発行している冊子のスポンサーとして定番の企業群でもある。そのような「お寺周辺事業者」とのコラボレーションは、未来の住職塾においてもこれまでなかったわけではない。

しかし、昨年末から今年にかけての流れは、今までとちょっと違う。お寺周辺の事業者ではなく、事業規模も上場企業クラスの企業から、立て続けに積極的なアプローチをいただくようになった。

それも、未来の住職塾が非営利事業であり、規模は小さくとも塾生の中には出身校のように大切にしてくれている人もいることを認識した上で、それを踏まえて寄付的な支援や事業連携を提案くださるのが、本当にありがたい。新年度の未来の住職塾NEXTからは、企業から提供されるものを含めた奨学金の恩恵を受ける人の数が大幅に増え、今までよりも受講しやすくなる。興味のある方は、ウェブサイトをよく見てみてください。

ビジネス経験豊富でファンドレイザーでもある松崎香織さんがそのような企業からの寄付や支援を受ける枠組みを作ってくれているおかげで、企業との連携の受け入れも整ってきた。塾生とのコミュニケーションを担う遠藤卓也さんは一昨年の著書『お寺という場のつくりかた』を弾みに『月刊住職』でも連載執筆をするようになって、事例の蓄積が進んでいる。塾のNEXTプログラムでメイン講師を引き受けていただいている木村共宏さんは、本業とするビジネス・コンサルティング事業の幅を広げつつ、お寺理解をさらに深めていて心強い。

数年前から、未来の住職塾が「お寺内コミュニティづくりの第一フェーズ」から「お寺と社会の架け橋となる第二フェーズ」へと移行することを話してきたけど、的を目がけて綿密にコトを進めていくまでもなく、気づけば的からやってくる形。そういう時は、うまくいくし、だいたい方向が間違っていないことを示す、良き前兆であることが多い。

だがなぜ、そうした一般企業がお寺に興味を持つのだろうか。話を聞いていると、確かに「いまだ手付かずの神社仏閣業界に自社の商品やサービスを提供したい」という算盤もあるのだが、どうやら動機はそれだけではなさそう。目先の算盤以上に、自社のビジネスの転換のきっかけやイノベーションの種を探すため、緩やかにお寺や僧侶とつながりたいという、長期視点の深い動機が見え隠れする。ロングタームの関わりを通じて相手に価値をもたらすことは、お寺の真骨頂。それを個人だけでなく法人にも求められることは、望むところだ。


さて、そんな企業との会話の中でも「コロナでお寺の変化が数年早まった」話題はよく出てくる。それに関して、もちろんこれまでの延長線上で単純にお寺離れの速度が早まったというのも大きいのだけど、「変化の方向が変わった」部分もいくつかあるのではないか。

風に乗って聞こえてくる話と自分の肌感覚から浮かんできた完全なる仮説だけれど、「参拝する神社仏閣のローカル化」というのは多分確実にあるだろうと思う。長距離の旅や密な旅が避けられるようになった結果、参拝する神社仏閣の平均距離が短くなった。フードマイレージならぬ「参拝マイレージ」。本論とは関係ないけど、参るマイレージで、参レージというダジャレは、仏教界で定番となっていたりする。

例えば初詣にしても、毎年恒例、元日には電車で1時間かけて成田山新勝寺へ参拝していた人が、コロナを機にそれを取りやめ、徒歩で行ける近所の神社に切り替えたというような、参拝マイレージ短縮の例は、おそらく逆の例よりも圧倒的に大いに違いない。冠婚葬祭にしても、コロナのために簡素化・小規模化がますます進んでおり、「遠くのブランド社寺より近くの地元社寺」の流れは必然だ。
この、「コロナによる参拝マイレージ短縮」は、どのような影響をもたらすか。Quartzというメディアに出ていた「コロナによる消費者の地元食材人気の高まり」と同じように、おそらくローカル神社仏閣には工夫次第で追い風になるのではないか。マスメディアとタッグを組んだ有名神社仏閣一人勝ちのトレンドが、ウィルスによってひっくり返されるのはなんとも興味深い。

コロナの影響で、あらゆるものが地元志向になっている。宗教が「地域の拠り所」の役割を取り戻す絶好のチャンス。6月から始まる未来の住職塾R-3では、このチャンスを寺社がどのように活かしていくか?についても議論があるだろう。今からとても楽しみだ。

6月に開講する「未来の住職塾NEXT R-3」の願書受付がはじまり、早速お申し込みもいただいてます。未来の住職塾NEXTの学びの内容について詳しく知ることの出来るオンライン説明会を、3月5日(金)13時より開催!


掃除ひじり。良き習慣づくりの道場、お寺でお坊さんと一緒にお参り・掃除・お話から一日を始めるテンプルモーニング。noteマガジン「松本紹圭の方丈庵」・ポッドキャスト「テンプルモーニングラジオ」・満月と新月の夜に開くオンライン対話の会「Temple」 #未来の住職塾 #postreligion #templemorning https://twitter.com/shoukeim https://note.com/shoukei/m/m695592d963b1