【ラヂヲ体操と朝参り】~月に一度のリセット。もみじ通り突き当たりのお寺へ/宇都宮・光琳寺

「人も集まらないし、もう朝参りをやめようと思う」
ご住職から告げられたひと言が、お寺に人を呼び寄せるきっかけになりました。
月に一度の「ラヂヲ体操」——。
とにかく体験させてもらおう!
Temple Morningの仲間たちが前夜からの「前乗り」で、宇都宮「もみじ通りのお寺」へ集合です。

こんにちは。東京の神谷町にある浄土真宗のお寺・光明寺で、平日の早朝、月に2回ほど僧侶の松本紹圭さんが開催する「Temple Morning(テンプル・モーニング)」に皆勤賞で参加しています。
「一般人」のユミです。

2020年2月14日(金)で開催63回目となった「お寺の朝掃除の会」光明寺のTemple Morning。毎回20名前後の方々にご参加いただくようになり、全国で実施してくださるお寺も増え、「お掃除巡礼」や「Temple Morning事務局WEBサイト」の開設、「ごえんさんエキスポ」への出展など、去年はたくさんの仲間と一緒に活動の輪を少しずつ広げることができました。

そんな輪の中で噂になっていた「月に一度のラヂヲ体操の会」が盛り上がっている、というお寺。

お掃除はやってない…という情報は見ないふりをして、2020年2月1日(土)折りたたみ竹箒を担いだ仲間とともに、栃木県宇都宮市の「浄土宗 光琳寺」に乗り込んでみたのです。

 
 

 

毎月一日。
曜日に関係なく、必ず月の初日に「朝活・ラヂヲ体操&朝参り」は開かれます。
前夜、東京や埼玉、山梨からやって来たTemple Morning集団総勢7名に「明日の朝は6時20分にお寺集合ですからね。でもみんなが起きられなかったー!っていうオチをちょっと狙ってる」と、笑いながら宇都宮名物の餃子とお酒をぐいぐい勧めてくださる光琳寺 副住職の井上広法(いのうえ・こうぼう)さん。

「6時30分じゃなくて20分です!30分に放送が始まるので。ラジオ体操はいいですよ。子どもの頃からみんな体に刷り込まれてるから、お坊さんが何もしなくても誰でもできる」

そう言ってみんなを煙に巻く広法さんですが、きっかけはお父様であるご住職のひと言でした。

「人も集まらないし、もう朝参りをやめようと思う——そう聞いて何かやってみなければと思いついたのが、ラジオ体操。特に準備もいらないし、ラジオをかけるだけ。それを毎月一日だけやり続けてみたら、だんだんと人が増えてきた。ビジネスパーソンは『仕事のもやもやを、月の初めにリセットできる!』と言ってくれるんです」

「檀信徒でもないし、来て、思い切り体操をするだけなんですが」と、茨城県から毎回参加しているという男性が笑います。

「月末、気持ちがどんなに行き詰まっても、これで『気分転換できる』から大丈夫だと思えるんです」   

 
 

 

翌朝二月朔日。
夜明け直前の一番しんとした空気に寝不足の頭を叩かれながら、むき出しの細腕を編むように差し掛けるもみじのトンネルを抜けると、焚き火と広法さんが手招きしていました。

「一年でいちばん寒い朝に、よくぞいらっしゃいました」

気温はマイナス1度。上着から餃子の残り香がぬけきらないTemple Morningチーム7人、一番乗りです。    

 
  

 

「おはようございます。ラジオ体操の時間です」というラジオの声が境内に響くと、6時半。

同時に広法さんの撞く鐘の音が夜明けを連れてきて、気づけば境内は首からカードを下げた人たちで埋まっていました。そして誰が主導するわけでもないラジオ体操第一と第二は、おかしなくらい自然に体が動くのです。小学生の頃にうけた刷り込みの威力に感嘆しながら最後の深呼吸が終わり見回すと、そこにはたくさんの笑顔が白々と浮かび上がっていました。

 
 

 

「ありがとうございました。それでは伝えたいことがある方、どうぞ」

広法さんの呼びかけに「子ども食堂」や「定年退職の報告とこれからの活動」など資料を手にした人たちの告知が終わり、本堂へうながされたのは6時45分ごろ。低い家並みの続く街は、まだしんとしているのでした。



 

ストーブがカンカンに炊かれた堂内で、参加者がまずやるのは「カードにハンコを押してもらう」こと。ラヂヲ体操参加の証を押してもらって帰る人もいるし、これから始まる「朝参り」だけにやってくる人もいます。そのため、ハンコは「ラヂヲ」と、朝参りが終わると押してもらえる「朝」の二種類。12のマスが埋まれば新しいカードをもらい、何枚かたまれば記念品がもらえるそうなのですが…

「え!もう5枚? 忙しくてまだ用意できてないの。ごめんなさい、今度ね」
常連さんにはあえてあっさりと、慣れていない方には積極的に接することでバランスをとっているという広法さん。土曜日開催でいつもより長い行列が落ち着くまで10分ほどかかっていました。


 

 

いよいよ浄土宗の朝参りが始まります。慣れた様子でみんなが棚から「小さな木魚」を取り出しているのを見ていたTemple Morning事務局の日蓮宗・法源寺 横山瑞法(よこやま・ずいほう)さん。

「ここまで来たら、やりますよ!」

と自分を鼓舞するように木魚をセットしたものの「法華の太鼓」とは勝手が違うようで「裏拍…とりづらい…」と、つぶやいています。

普段、浄土真宗のお寺である光明寺のTemple Morningに参加しているメンバーにとっても、「なーまんだーぶ」ではなく「なむあみだぶ」と言うのがめずらしく、ついていくだけで精一杯。でも「四誓偈」が浄土真宗のお経本にある「重誓偈」と同じだと気づいてからは、ぽくぽくと木魚を叩く肩の力が少し抜け、心地よく終わった読経の後は、広法さんのメリハリが効いた法話へと続きます。
こうして日の出直前、6時半から始まったラヂヲ体操と朝参りの会は、7時40分にお開きとなり、朝参り用のハンコを押しながら「みなさん、声出して喉がかれてるだろうから、アメちゃん食べていってね」と言う広法さんの声に、足元を見れば「南無阿弥陀佛」の文字が入った飴でいっぱいの器が置かれているのでした。


 

 

「お寺の正面から一直線に伸びている『もみじ通り』にクラウドファウンディングでもみじ並木を復活させて、人とお店が戻ってきて。お寺の近くにもパン屋さんができたんです。それも、朝6時半から開くお店。ずいぶん早いんだなと思って聞いてみたら、うちのお寺の鐘が6時半に鳴る。それに合わせてオープンしてるって言うんです。素敵じゃないですか?」

とっても美味しくて大人気だと広法さんオススメのパン屋さんへ、ラヂヲ体操の会が終わってすぐに足を運んでみました。

住宅街の中、小さいけれどシンプルでおしゃれなお店は、焼きたてパンの熱気とわくわくした顔で満ち満ちになっています。

やがてラヂヲ体操の会で見かけた人をどんどん伸びる列の中に見つけた時、初めて訪れた「お寺ともみじ通り」が織りなす時空間と自分がつながったのだ、と気付いたのです。

——お寺の掃除をすることで、自分の居場所を作っているんです。周りからもそして自分からも、ここに居てもいいんだよ、という許可が得られる気がして——と、前の晩、餃子をふるまわれながら広法さんに話した時の、ちょっと不思議そうな顔を思い出しました。

「居場所になる…うーん、考えたことなかったな」

そう、もしかすると「ラヂヲ体操と朝参りの会」は、お寺だけでなく、もみじ通りも含めたこの街につながること——それは「街に参加する」こと、と言い換えてもいいのかもしれません。


 

 

神谷町・光明寺でTemple Morningが始まったばかりの頃、松本紹圭さんと「スタンプカードを作ってみたらどうだろう」と話し合ったことがあります。いっぱいになったら、マイ竹箒とかロゴ入り作務衣をプレゼント!…でもすぐに、それは執着だねと笑い話になったのでした。

「スタンプカードにすると囲い込みや縛りになって、息苦しくなってしまうだろうということでTemple Morningでは作っていないんですよね」と言う松本さんに「なるほど。ラヂヲ体操と朝参りの会では、スタンプカードやってます。これは積み重ねていく、ということが重要だと思うので」と答える広法さん。

参加するごとに自分自身で動ける範囲や深度を確認していくTemple Morningと、地図にマッピングするように場への関わりを濃くしていくラヂヲ体操。縦軸と横軸。

アプローチは違っても、どちらも「またここに来て、同じことをしたい」と思える場所になることに変わりはないのだな、と、焼きたてのパンをふかふかと噛みしめたのでした。


 

 

ところで、掃除です。
Temple Morning御一行さまとしては、ぜひともここでお掃除をしたいのですが、もみじの葉はとっくに散り終わって芽吹くのを待つばかりだし、お寺の中はどこもきれい。

近くには、新しく建てられた「áret(アレット)」というお寺の集会所兼コワーキング兼シェアオフィス施設があって、もちろんそこも塵ひとつない状態だったところに、横山瑞法さんが山梨の自坊から背負ってきた「折りたたみ竹箒」をせっかくだから!と組み立ててもらい、ピカピカのウッドデッキを掃くことにしました。広法さんには内緒で。これは執着でしょうか…。


 

 

2月1日が、週末と重なる!ということで、金曜日の夜にこの「áret」で広法さんと松本さんの対談イベントを開催して、宇都宮の夜を味わい、明朝「朝活・ラヂヲ体操&朝参り」に参加して、そのあとすぐにワークショップ「いのちの積み木」を体験させていただくことになった、今回のTemple Morningスペシャルバージョン。

広法さんはこの日、ご法事が2件、東京への日帰り出張、翌日曜日の恵方巻きワークショップ+映画上映会の準備と、とんでもないハードスケジュールだったのですが、「いのちの積み木をぜひ」というリクエストに応えていただきました。

ご先祖さまと今現在の自分をつないでいるもの、さらに今の自分がどこへつながっていくのか、「縁」を可視化して体感させていただいたと思っています。

そして「血縁」だけでなく、この日、光琳寺の境内でラヂヲ体操を共にし、木魚を叩きながら慣れないお経を読んだという時間と空間も「その場」の「ご縁」で成り立っているのだなと、あらためて実感したのです。

焚き火で使い捨てカイロを温めようとしてみんなの笑いを誘った少年たち、首から下げたカードを見せてくださった女性、パン屋さんがあなたたちでいっぱいになっていたから今日は諦めたよ、と笑って声をかけてくださった男性。

誰一人が欠けても、あの「場」が成り立たず、今にもつながっていなかっただろう「ご縁」に気づくことができる感覚を取り戻す——そんな「リセット」ができる光琳寺の「ラヂヲ体操と朝参り」なのでした。


 

 

お掃除はやってないけどまた違うお寺の朝の活動に参加してみようよ、と今回の「朝活・ラヂヲ体操&朝参り 遠征体験」をオーガナイズしてくださった未来の住職塾 理事・遠藤卓也さん、Temple Morning事務局を立ち上げて、折りたたみ竹箒とともに積極的に動いてくださる南アルプス市 法源寺 住職・横山瑞法さん、神谷町 光明寺でTemple Morningを開催し続けてくださる僧侶・松本紹圭さん、Temple Morningの仲間のみなさま、ありがとうございました。

そしてなにより、こっそり箒を担いで前の晩から乗り込んできた一行を、温かく迎え入れてくださった光琳寺 副住職・井上広法さんとお寺にかかわるみなさま、参加者のみなさま、ご縁をいただき本当にありがとうございました。次に参加するときには、門前で芳ばしい匂いをまき散らしていた、お肉屋さんのから揚げを買い食いしたいと思います。

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光琳寺がクラウドファウンディングを活用して、地元地域の再生を成功させたという経緯については松本紹圭・遠藤卓也 共著「お寺という場のつくりかた(学芸出版社)」に詳しく書かれています。

そしてお掃除を良き習慣とするために、宗派を超えた名僧との対談も交えて新しい視点があることを教えてくれる松本紹圭「こころを磨くSOJIの習慣(ディスカヴァー・トゥエンティワン)」も、きっかけのひとつになるはずです。

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Temple Morningが良い形で広がっていってほしい…そう願い、横山瑞法さん、松本紹圭さん、遠藤卓也さんと昨年「Temple Morning事務局」を立ち上げました。
事務局WEBサイト「templemorning.com」では、全国での開催告知や開催寺のマッピング情報、関連動画・書籍などを随時お知らせしています。
https://www.templemorning.com

サイト内のブログではパブリシティ掲載やイベントの情報、裏話などを公開中です。
https://www.templemorning.com/blog

… 毎月一日 朝活・ラヂヲ体操&朝参り 開催データ …
◉浄土宗 光琳寺【六道の光琳寺】

 https://www.facebook.com/kourinji/
毎月一日 朝6時20分から ラヂヲ体操と朝参り 
(予約不要 どちらかだけの参加も可)
 https://www.facebook.com/asakatsu.kourinji/
○〒320-0862 栃木県 宇都宮市西原1丁目4-12(地図
 JR宇都宮駅からバスで20分または東武宇都宮駅から徒歩13分

自宅兼事務所から東京・神谷町の光明寺まで徒歩1時間30分な、グラフィック・デザイナーです。仏教どころか宗教に関してまったくの「一般人」が、お寺で朝の掃除をする会——Temple Morningのアンバサダー(?)として、ゆるりとレポートします。