前回は、わたしたちのサービスをご利用くださるお客さまがどういった方なのか、利用の背景や抱えている不安などを交えながらご紹介しました。
おそらく、お読みくださっているお寺にかかわるみなさまの中には、「どういうお坊さんが『お坊さん便』を活用しているのだろう」「なぜ『お坊さん便』と提携しているお坊さんがたくさんいるのだろう」といった疑問をお持ちになった方もいらっしゃると思います。
そこで今回は、『お坊さん便』をご活用いただいているお坊さんについて、少しご紹介してみようと思います。
提携するお坊さんの宗派、年齢、地域は?
『お坊さん便』とご提携くださっているお坊さんには、様々なタイプの方がいます。年齢層としましては、40代~50代が全体の約半数を占めています。インターネットを活用したサービスであることから、若いお坊さんが多いのでは、というイメージもあるかもしれません。ですが実際には、お寺や仏教の今後の在り方を見据えた30代前後の若い世代から80代のベテランのご住職まで、年齢を問わず幅広い層のお坊さんにご提携いただいています。
また、提携していただいているお坊さんがお住いの地域については、当初は顧客ニーズの高い都市部に集中していましたが、現在では“僧侶手配サービス”そのものの認知度の向上によって、全国にかなり広がってきています。
最もご提携の数が多い宗派は、浄土真宗系のお坊さんです。もともと日本の仏教宗派の中でも規模が大きい宗派が含まれていることを考えますと、自然なことかもしれません。
次に、真言系の宗派、そして禅系の宗派、日蓮系、浄土宗系、天台系の順になっております。『宗教年鑑』などの統計資料の信者数やお寺の数で見る宗派の大きさとは多少異なる順番なのは興味深いところかもしれません。わたしたち自身もその理由をはっきりとは把握できておりませんが、お寺の分布が都市部か地方中心なのかであったり、所在する地域の特性としてのお寺とのご縁の深さであったり、ご所属のお坊さんの年齢層、宗派ごとのお考えなどによってこうした違いが出ているのかもしれません。
『お坊さん便』と提携する目的は?
さて、次は『お坊さん便』と提携をしていただいているみなさまが、なぜそうしようと決めたのか、どういった思いを持っていらっしゃるのか、ということについてご紹介します。
わたしたちのサービスをご活用いただくことに決めていただいた背景は、お坊さんになった経緯や現在置かれているお立場、お坊さんとして志していること、こうやっていきたいという想いなどの様々な要因によって、それぞれに異なっております。ですので、「一概にこうである」とは申し上げにくいのですが、今回はわたしたちがお話をうかがった中でも印象的な事例を引いてみたいと思います。ただし、それぞれのみなさまのプライバシーを守るため、一部に脚色を加えたり、省略しているところがあります。この点をご理解の上、ご容赦いただけると幸いです。
・過疎地域の寺院の後継ぎのお坊さん
一つ目の例は、ご実家のお寺を継ぐ予定があるお坊さんです。とある地方にある小さな町の出身で、ご実家のお寺で生まれ育ちました。そして都会の仏教系の大学をご卒業されて得度され、お坊さんになりました。ご実家のお寺では、お父様がまだご健在で住職をしておられます。
ただ、お寺の周辺の地域は過疎化が進んでおり、ご法事やお寺の行事はあまり多くはない状況です。ですからお坊さんになったとはいえ、すぐにお寺に入ってフルタイムでお手伝いしなければいけない状況ではありません。そこで、この方は数年間実家のお寺に入ってお坊さんとしての経験を積んだ後、一度お寺を離れて都会で一般企業に就職することにしました。これは見聞を広めるという観点からの選択だったそうです。
とはいえ、将来的にお父様がお亡くなりになったあとはお寺を継ぐつもりなのは変わりませんし、お坊さんとして世の役に立ちたい、という思いは強くお持ちで、特にお葬式やご法事を執り行う役割にやりがいを感じておられました。
そこで、離れた都会に暮らしながらも、土日を使って帰省してご実家のお寺のお葬式やご法事を手伝う生活を続けていらっしゃったそうです。そんな時、『お坊さん便』のことがテレビで紹介されているのを見たそうです。「『お坊さん便』なら、都会に住んだままで仕事と両立しながらお坊さんとしての役割を果たすことができるかもしれない」そのようにお気づきになって、ご提携を決断されました。
つまり、この方は平日は一般企業で働きながら、土日や休日を活用して、ご都合にあわせてご実家のお寺を手伝ったり、『お坊さん便』のご依頼をうけていただいたりしているということになります。一般的なキャリアに例えると、3つのお仕事を両立しながら働いているような状況ですから、「パラレルキャリアなお坊さん」とも呼べるかもしれません。語弊があるかもしれませんが、こうした柔軟な“働き方”ができるのは、僧侶手配サービスをご活用いただく一つのメリットでもあります。
ちなみに、実は民間企業勤めの経験をお持ちのお坊さんには、お客さまからの評判が高い方がしばしばいらっしゃいます。『お坊さん便』のお客さまは普段お寺とのご縁が少ないため、お坊さんがどういう雰囲気であるとか、どうお付き合いすれば良いのかといったことがよくわからず、さまざまな不安をお持ちです。もしかすると民間ご出身の方は、お寺とのご縁が薄い方が安心しやすい振る舞い方や、受け答えの仕方に慣れていらっしゃって、親しみやすい対応ができるのかもしれません。
・開教を目指すお坊さん
二つ目の例は、開教を目指すお坊さんです。こちらもとある地方にお住まいの方で、在家のご出身でした。ただ親戚筋にはお寺があったので、仏教やお寺は身近な存在でした。
小さなころから曲がったことが嫌いで、「人の役に立ちたい」「どうにか困っている人を助けたい」という思いを持っておられたため、高校生くらいになってお坊さんになるという可能性について考えるようになり、最終的に進路をお坊さんに決めたそうです。
親戚筋の知り合いをたどって紹介をしてもらったお寺は、地元でも有名で、観光客が訪れることもある立派な伽藍を持った大寺院でした。何とかお寺に入ることを許されたこの方は、そこに住み込みで見習いお坊さん生活を送ることになりました。
しかし数年後、この方にとって衝撃的な事件が起きます。ある外檀家さんのご家族がお亡くなりになり、お葬式のご依頼にお寺にいらっしゃったのですが、「生活が苦しく、今までのようなお布施を包むのは難しい」と相談されました。すると、お寺のご住職は「それでは受ける訳にはいかない」と断ったのです。
きっとご住職も、大きなお寺を護持している立場としてのご判断であったのでしょう。しかし、「困っている人を助けたい」という思いでお坊さんという道を選んだこの方にとっては、どうしても納得の行かない出来事でした。これをきっかけにお世話になったお寺を離れ、あるべきお坊さんのあり方を求めて、自分のお寺を持つことを目指すことにされました。
その後、さまざまなお寺にお世話になりつつご活動を続ける中で、『お坊さん便』のことを人から聞いたそうです。そして、地元近くのお寺が少ない地域で開教が許される機会に恵まれたタイミングでご提携を決められました。新しいお寺を作っていくということですから、檀信徒はほぼ誰もいない、という状況です。基盤づくりをしていく上で、『お坊さん便』という接点があると心強いだろう、と考えてのことだったそうです。
このように、『お坊さん便』には開教を目指すお坊さんや、開教したばかりのお坊さんもしばしばいらっしゃいます。寺族の生まれではないお坊さん、お寺をお持ちでない方が、お坊さんとして生きることを決めるというのは大変なご決断だと思います。その背景には、お坊さんになることを通じて誰かを助けたいとか、世の役に立ちたいという強い想いや理想をお持ちである場合がとりわけ多いようにわたしたちは感じています。
そうした意欲をお持ちのお坊さんが自分のお寺を築くためは、周囲のお寺とのご縁がない方との接点を作っていきながら布教を進めていったり、お寺を作るためのさまざまな費用を賄う収入も必要となってきます。ですから『お坊さん便』は、こうした開教を目指すお坊さんが基盤を作っていくプロセスを支援するような役割も担わせていただいていると思っています。
・お寺を移転したお坊さん
三つ目の例は、活動拠点を移さざるを得なかったベテランお坊さんです。都市部から遠くはないが、通勤圏内ではないくらいの地域にお住まいで、有名なわけではないけれども、数百年の歴史がある古いお寺の一族のご出身でした。血縁にはお寺関係の人が多く、親族以外でも古い付き合いのお寺やお坊さんがたくさんいる家系でした。
ですから大人になると、自然な流れでお坊さんになり、実家のお寺を継いで住職になりました。一方で、その地域には昔は栄えた炭鉱がありましたが、ある時閉山となり、その後は交通機関の便の悪さも相まって、時代を経るごとに急速に住民が減っていく状況にありました。ですから、継いだ当初は良かったものの、しだいに檀家は減っていき、気づけばお寺の護持が危ぶまれる位になってしまいます。
歴史のあるお寺ですから、立派な伽藍の補修が必要であり、また若い役僧の方も抱えている状態でした。多少の土地はありますが、なにせ人口が減っていく地域のため、活用にも限界があります。そこで、ご住職は決断します。近くの街中に別院を建て、そちらに活動拠点を移し、このお寺を閉じようというのです。そして、新たな活動拠点はお檀家さんのご法事の際にすぐ通える範囲ということもあり、今後のお寺の長期的な発展をみすえた意義を訴えてお檀家さんを説得し、墓地だけを残して伽藍を閉じました。
更に、新しい活動形態に移行したことをきっかけに、第二創業期だということで、若い役僧の方たちだけでなく、昔からお付き合いのあったお坊さんを巻き込んで、チームを組んで新しい活動をやってくことを決められました。その一つが、みんなで『お坊さん便』で檀家でない方のご法事を手がける、ということだったのです。
『お坊さん便』には。ベテランのお坊さんや、何人もお坊さんを抱えていらっしゃる大きなお寺もいらっしゃいます。そうした方がご提携される背景には、上記のような厳しいお寺の護持の問題が関わっているケースもありますし、お寺の経営は問題ないのだけれど、仲間のお坊さんにより多くの機会を提供したいという趣旨でご活用いただくこともあるようです。お寺が能動的に周囲の人口を増やしたり、ご法事の数を増やしていくということは現実的に難しい中で、お寺とのご縁がない方との接点を得られるということを一つの活用価値と捉えていただけているのかもしれません。
加えて機会という観点でいうと、『お坊さん便』のお客さまは、大抵の場合お寺が通常お付き合いのあるお檀家さんよりも多少若い世代で、また伝統的なご供養へのこだわりが薄い方が多くなっています。ですから、通夜が省かれた一日葬や、墓石のない樹木葬といった新しい葬儀供養の形を積極的に取り入れていく傾向にあります。
そうした場面においては、通常行われている仏事のお作法がそのまま通用するとは限りません。読経の時間が短かったり、回数が異なったり、その場にあるものが違ったりするため、仏事を行う上でも工夫が必要となるそうです。こうしたご供養の変化をダイレクトに感じたり、それに向き合って試行錯誤するという機会を得られることも、『お坊さん便』を活用している上でのやりがいだ、というようなお声もいただいています。
さて、今回は『お坊さん便』に対してご協力をいただいているお坊さんのみなさまにはどういった方がいらっしゃるのか、どのような背景や目的で『お坊さん便』を活用しているのか、ということをお伝えしてまいりました。象徴的な方を取り上げたため、少し大げさな印象になってしまったかもしれません(もう少し一般的な経歴の方も多くいらっしゃいます)。ですが、人口自体が減少している日本において、地域に根づいた大寺院でたくさんのお檀家さんがいて、今後も安定した護持ができる確かな見通しがある、というお寺はきっと多くはないと思います。『お坊さん便』が存在できている背景には、こうしたお寺をめぐる環境変化も大きく影響しているのが実情です。
わたしたちとしても、お坊さんがこうした変化を乗り越えるためのお手伝いをしていきたいと思っています。初回にも示したように、日本におけるご供養の形には仏事が欠かせないということはこの先もそうは揺るがないでしょうし、少子高齢化の中で、さまざまな社会問題、そして個人個人の生き方やこころの問題について、もっと仏教の教えやお坊さんという存在が活きる場面は増えていくのではないでしょうか。「ライフエンディングの負を解消したい」というわたしたちの想いを胸に、お坊さんのみなさまと一緒にできることを今後も探っていきたいと思っています。