『お坊さん便』を利用する人の背景とは?

前回、わたしたちのサービスの基本的な考え方について誤解をいただきやすいご質問を引きながらお伝えをしてきましたが、その中で少し触れた通り、わたしたちのお客さまは菩提寺がない方々であり、多くのお寺が日常的に接点をお持ちになっている檀家さま=菩提寺をお持ちの方とはさまざまな角度で異なる方々です。そこで、次はわたしたちのお客さまについて詳しくお話をしてみたいと思います。

「菩提寺がない」のはどうして?

まず、菩提寺がないということは一体どういうことなのでしょうか。それは大抵の場合、具体的にはお寺が管理する土地にお墓を持っていないということを意味します。では、なぜお寺にお墓がないのでしょうか。ここにポイントがあります。

お寺にお墓がない、という状況が起きる理由の一つは、お墓を相続する立場にない、ということです。民法上、お墓の承継者は「慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。」とされていますが、現状として実際の相続の場面では長男優先で考える家庭が多いでしょう。すると例えば地方在住で多くの兄弟がいる家庭に生まれ、その人が三男だとしたら、本家のお墓は長男が相続するため、いつかは分家として自分は別のお墓を建てるということになります。

その上で日本の人口動態を振り返ってみると、大正・昭和初期や終戦直後、高度成長期など出生率が上がり子どもの数が増えた時期がありました。人口が増え、その子どもたちが成人すると、地元で仕事がまかないきれないため、職を求めて他の地域、とりわけ首都圏などの都市部に働きに出るという現象が発生します。

移動するのは特に、家を継ぐ長男ではない次男、三男などが多く、加えて次第に女性の権利が確立されていく中で女性たちもその流れに含まれていきます。こうして街に働きに出た子どもたちは、仕事を得るとそのまま都市部に定住します。すると、お墓を持たない人たちが都会に集まっている、という状態が現れるわけです。

都市部に移住した第一世代となるこの人々は、結婚をし、子どもができて、家を買い、家族を作ります。すると必然的に子どもたちも、都市部で育ち、学び、就職します。その後、子どもは独り立ちして親元を離れ、しばらくしてパートナーを得て結婚し、別の家庭を築いて、同じ都市圏内の別の場所にマイホームを買ったり、親の家を二世帯住宅に建て替えたりします。そして、親は定年を迎え、少しずつ体が衰え、子どもたちは介護をするようになり、そしてお別れを迎えます…。

さて、きっとすでにお分かりのように、この「子どもたち」こそがわたしたちのお客さまなのです。わたしたちのお客さまは50代、60代が中心で、その多くは都市部にお住まいです。年齢を考えるとまだご両親の少なくともどちらかがご存命で、かつご両親が同じ都市圏内にいらっしゃる比率も高くなっています。

ご利用のきっかけとしては、ご両親のお葬式やご法事のためにご依頼いただくことが多く、親戚や兄弟などがある程度いるので、たとえお寺とのご縁がなかったとしても、家族の行事としての法事法要に価値を見出していらっしゃいます。また、都市部にお住まいで特定のお寺にも行かないため、ご自宅での法要をご希望されるケースが多くなっています。このような背景や情報を踏まえると、お寺とのご縁がなく、お寺との接点に対して不安を抱きやすい背景がお分かりになるかもしれません。ある意味、菩提寺の有無はその方やご家族の人生の一部を写した鏡でもあるのです。

『お坊さん便』のご利用シーン

こうしたお客さまは一体どういうきっかけで『お坊さん便』をご利用になってくださるのでしょうか。一つ目は、菩提寺がない方特有のお寺を頼る際の不安感や実体験に基づくものです。

多くの人にとって、お葬式は突如降り掛かってきた大切な方とのお別れという悲劇に付随的に起きる行事です。ですから、望んだわけではないが突然必要になったから、というきっかけで行うお坊さんの手配にあたって、いきなり全く接点のなかったお寺との永続的なお付き合いを固く心に決める、というのはなかなか難しいものです。

にもかかわらず、急にお葬式の場面がやってきたので、近くのお寺を頼ろうと問い合わせてみたら「檀家にならなければお葬式はできない」と言われてしまうことも。結果として、仕方なく1回ごとで大丈夫だからと『お坊さん便』にご連絡いただいた、といったお客さまもいらっしゃいます。ですから、わたしたちはお客さまにとって「1回ごとにお考えになっても大丈夫ですよ」という仕組みは重要だと考えているのです。

二つ目は、驚かれるかもしれませんが、満中陰法要(四十九日)の際に初めてご利用になる方が多いのです。なぜ四十九日からご利用になる方がいらっしゃるのか? その理由の一つは、お葬式を無宗教で執り行った場合、仏事を行わないとお葬式後のご供養がなくなってしまうためです。

ご供養行事としてのご法事は、いわゆるグリーフ(悲嘆)ケアの役割を担っています。大切な方が亡くなったという重い事実を受け止め、再び気持ちを取り直すのは誰にとっても大変負担のかかることで、多くの方にとってお葬式の場面だけで消化しきれるようなものではありません。

そこで、初七日、四十九日、一周忌、三回忌、七回忌と徐々に日数間隔を開けながら親族が集まってご法事を行い、故人を偲び、あわせて思い出を語りあったり、他愛もない近況を語りあう。また、お坊さんという第三者に心のうちを相談したり、新しい視点を与えていただく。そういったプロセスを経る中で、だんだんと心のケアを行っていく。きっとご法事は、仏教行事であると同時に、先人の知恵が詰まった一つのグリーフケアの仕組みでもあるのだろうと思います。

ですから、たとえ無宗教形式でお葬式を行ったとしても、その後にグリーフケアとしてのご供養を求めて僧侶手配サービスを頼っていただく、ということが起きてくるわけです。

三つ目として、「お葬式の際のお坊さんに満足できなかったから連絡した」という理由でのお問い合わせもしばしばいただきます。詳しくお話を伺いますと、大抵の場合「お葬式は仏式で行ったのだけれど、どこからともなく突然お坊さんがやってきて、手短に投げやりな読経をしていった。法話なども特になく、挨拶程度しかしなかったので感じが良いとは言えなかった」ということだそうです。

つまり、お葬式のお坊さんの印象が良くないので、どうしても法事をお願いしたいとは思えなくて、他の手段を求めてわたしたちを頼っていただくということなのです。大変残念なことではありますが、しばしばいただく依頼理由でもあります。

こうした思いをされる方を増やさないように、『お坊さん便』では、必ず事前にご挨拶をすることや、しっかりとご法話をすることなどをルールにさせていただくなど、「次こそはもっと満足のいくご供養をしていただきたい」という思いで、信頼のできるお坊さんをご紹介しようと日々心がけております。

今回は、『お坊さん便』のお客さまが、どういった理由でわたしたちを頼っていただくのか、その背景についてご紹介してみました。菩提寺がない方は、なかなかお寺のみなさまが通常お付き合いされている場面に現れにくい種類の人々です。ですから、意外とこうした層がいる事自体に、お寺のみなさまの十分な注意が向けられていなかったのかもしれません。

結果として、少しおこがましいかもしれませんが、わたしたちは従来のお寺の仕組みからこぼれてしまった人々の手助けをさせていただいている、そんな部分もあるかもしれないと思っています。

さて次回は、一方の『お坊さん便』にご協力いただいているお坊さんはどのようなみなさまなのかについてもご紹介をしてみたいと思います。

小野敬明

お葬式、ご供養などの前後に起きるライフエンディングのさまざまな問題を解決しようと取り組んでいるベンチャー企業『株式会社よりそう』において、広報、およびお坊さん手配事業を担当しています。