はじめまして。「僧侶の働き方研究所」の水野綾子と申します。
本日は、私たちが取り組んでいる、若手僧侶を対象に調査した研究冊子『僧侶のキャリア白書』について紹介させていただきます。
『僧侶のキャリア白書』では、宗派を横断して約100名の若手僧侶(主に20〜40歳)にキャリアや働き方についてのアンケート調査を実施しました。僧侶の働き方の現状や考え方、環境を明らかにすることを通じて、個人や業界として「僧侶の働き方」を考える機会をつくりたいと考えています。現在、2025年2月の完成に向けてクラウドファンディングで支援を募っております。
「お坊さんの働き方」を考えるきっかけに!冊子『僧侶のキャリア白書』を製作したい
https://camp-fire.jp/projects/790007/view
そもそもなぜ『僧侶のキャリア白書』を手がけるに至ったのか。私自身のキャリアや「僧侶の働き方研究所」について、また「僧侶とキャリア」についてなどを、簡単にお話ししたいと思います。
ファッション誌の編集者時代、29歳の時に僧侶を目指す
伊豆半島の入り口に位置し、温泉地として知られる熱海。海や山、自然に囲まれたお寺で三姉妹の長女として生まれました。幼少期〜20代前半はお寺を継ぐ気はまったくなかったものの、住職(父親)の体調不良やいろいろなきっかけから「よーし、私がお寺を継ごう」と決意。地元熱海に家族でUターンしました。
僧侶になろうと決めた当時、私は出版社でファッション誌の編集をしていました。仕事自体は好きだったものの、ファッション誌の編集としては「やり切った」という感覚があったことと、地元に戻ることやお寺を継ぐことを考えた時に「何か別の経験を積みたい」と、ちょうど声をかけていただいたベンチャー企業の立ち上げに参画しました。
その後も、都内企業の採用戦略や組織開発、地元熱海の企業と首都圏人材を“複業”でつなぐ事業推進などに取り組んできました。最初のキャリアは編集者でしたが(今も広い意味で編集者だと思っていますが)、いつの間にか個人側と組織側の両面から「働き方」に向き合うことが多くなっていました。
そうした中、ある時から当事者(僧侶)として「お寺の“中の人”の働き方ってどうなっているんだろう?」という疑問が湧き始めました。
不透明な時代に踏ん張りつづけるために。自分と向き合う大事さ
社会は大きく変わり、“これまで通り”が通用しない時代に突入しました。それは、お寺業界も例外ではありません。
「これをすれば正解」というものもありません。お寺が何ができるのか、どういう役割を担うのか。仏教の本質を抽出しながら、各お寺の背景や文脈、加えて地域特性なども鑑みて、独寺のあり方を追求していく必要があります。
でもそれって、大変ですよね。課題や困難も多いはずです。時には心が折れそうになる時もあるはずです。そうした状況下でお寺のあり方を考え続ける上でも、僧侶自身が「自分がどうありたいか」と向き合い続けることが大事ではないか。そう思い、2021年から僧侶向けのキャリアスクール「TERA WORK SCHOOL」の運営を始めました。
TERA WORK SCHOOLは、宗派横断で若手僧侶たちが集まり、僧侶自身が「どう生きたいのか、働きたいのか」と向き合いながら、お寺と向き合う。そんな伴走型のオンラインキャリアスクール(全4回)です。先輩僧侶や米国シアトルで長くリーダーシップ研修を担ってきた方が講師となり、独自(独寺)の方向性を見つけていきます。
過去の参加者の中には、
・僧侶という肩書きの存在感が大きく、苦しむケース
・漠然と今後のキャリアに思い悩むケース
・多角的に寺院運営をしてきたが、一度立ち止まって考えたくなったというケース
など、いろんな背景や思いの僧侶がいました。
スクールを運営する中で、若手僧侶が抱える悩みに触れ、「人の悩みや相談に“乗る側”のお坊さんですが、実はお坊さんも働き方や生き方に悩んでいる」と実感します。
僧侶の働き方は、どうなってる?
実際、「僧侶の働き方」はどうなっているのでしょうか。
仏教を伝えていくこと。そして、それにより人がよりよく生きられるようになることが僧侶の大事な役割です。ですが時代の変化に伴い、伝え方や人への寄り添い方はひとつではなくなりました。
同じように、キャリアの重ね方にも正解はなく、僧侶も例外ではありません。ですが、働く環境の特性も相まって、お寺業界における働き方の多様化は全体的にあまり進んでいないというのが現状です。
「実はお坊さんも働き方や生き方に悩んでいる」
私たちが直面したこの事実に対して、個人はもちろん、お寺業界全体として「僧侶の働き方」を考える機会をつくりたい。僧侶の働き方をよりよくしていきたい。そうした思いから、今年「僧侶の働き方研究所」を立ち上げ、実態を調査研究した冊子を出そうと決めました。
「僧侶」は肩書き? 仕事? 生き方?
そもそも、「キャリア」という言葉に耳馴染みはありますか? キャリアとは、ビジネスシーンで使われる機会が多く、仕事や経歴、就職、出世(キャリアアップ)というようなイメージを持つ人もいるかもしれません。
ですが、厚生労働省が提唱しているキャリアの概念(厚生労働省『キャリア形成を支援する労働市場政策研究会』報告書)の中には、「時間的持続性ないしは継続性を持った概念」として定義されており、本来キャリアとは、働くことに関わる「継続的なプロセス(過程)」と、働くことにまつわる「生き方」そのものを指します。
ここで僧侶のみなさんに質問です。「僧侶」とはなんだと思いますか?
肩書きなのか、仕事なのか。さまざまな考え方や捉え方があると思いますが、私たちは「生き方」だと考えています。それ故、僧侶にこそ「キャリア」という概念は重要だと感じていますし、僧侶というキャリア(働き方・生き方)は多様であっていい、あって欲しいと思っています。
僧侶や仏教は、一人ひとりがよりよく生きるために寄り添うような存在です。一方で、僧侶自身はよりよく働き、生きているのでしょうか。
個人として考えるだけではなく、個人の周りにある業界、団体、組織も向き合う時期にきています。本冊子を起点に、「僧侶の働き方」についての議論が広くなされるようになって欲しいですし、僧侶の働き方を支援する機会づくりに取り組みたいと考えています。
現在、クラウドファンディングで『僧侶のキャリア白書』製作の支援を募っています。私たちの取り組みへの支援、そして、ともに僧侶の働き方について考え動いていく仲間が増えたら嬉しいです。
『僧侶のキャリア白書』を発行するにあたり、クラウドファンディングで支援を募っています。
「お坊さんの働き方」を考えるきっかけに!冊子『僧侶のキャリア白書』を製作したい
https://camp-fire.jp/projects/790007/view
〈冊子の構成(予定)〉
・お寺業界の現状、働き方の現状についての考察
・時代の変化と「僧侶の働き方」
・調査方法について、アンケートの分析結果
・「キャリアの満足度」とは何か?満足度についての考察や相関性
・若手僧侶へのヒアリングインタビュー
・考察と提示
・ゲストによるCOLUMN
合計64頁、簡易製本予定。内容や装丁は一部変更になる可能性もあります。
寄稿者プロフィール
水野綾子(みずの・あやこ)
「僧侶の働き方研究所」代表。僧侶、編集者。
1985年生まれ。出版社勤務、ベンチャーの立ち上げなどを経て独立。正解がない時代に各寺(各自)がお寺のあり方を考え、僧侶が自身のキャリアと向き合える場づくりを目指し、2021年に僧侶向けのキャリアスクール「TERA WORK SCHOOL」を立ち上げる。同年に得度。2024年に仲間とともに「僧侶の働き方研究所」を設立。現在、僧侶のキャリアや働き方の調査研究冊子『僧侶のキャリア白書』を発行すべく、クラウドファンディングに挑戦中。