100年先もお寺が続いていくために 〜 未来の住職塾NEXT R-6 受講生募集によせて

こんにちは。未来の住職塾NEXT 講師の遠藤卓也です。彼岸寺読者さんにはご存知の方も多いかもしれませんが、「未来の住職塾」というお寺の経営と宗教者のリーダーシップを学んでいただくための塾をやっています。
未来の住職塾は令和6年度で13年目、これまで700名近くの修了生をおくりだしてきました。

講義風景

受講される方は住職だけではありません。これから住職になる予定のお坊さんや、お寺で経営や運営を担う寺族さんもたくさん参加してくださっています。女性の受講生が多いことも特徴的。また「宗教留学生」として、神道・天理教・金光教・黒住教など、仏教寺院と近しい形態の宗教施設を切り盛りされる宗教者の方々にも加わって頂き、宗教・宗派・地域も超えて共に学びあっています。

私自身も各地のお寺を巡り、個別のお悩みなどをお聞きしながら、お寺の現場で具体的なアドバイスをさせていただいています。また、寺院向けの専門誌での執筆や、各宗派からのご依頼で研修講師を務めさせていただくこともあり、全国津々浦々のお寺の現状や、お坊さんたちの悩みを、ごく近くでお聞きする立場にあります

そのような立場から、現在話題となっている「黒石寺 蘇民祭終了」のニュースに際しては、ご住職のお気持ちも、檀家さんたちのお気持ちも、保存会青年部の皆さんのお気持ちも、どの心情にも共感があり、なんとも言い表せない複雑な思いを抱いています。
ニュースの内容についてはたくさん報道がなされているのでここでは割愛しますが、ご参考までにNHKの記事へのリンクをご紹介しておきます。
特にTVのインタビューを受ける黒石寺ご住職のお姿を見て、中止の決断をなさったその真の意味でのリーダーシップに深く感じいった次第です。

祭りの中心を担う関係者の高齢化と担い手不足により、祭りを維持していくことが困難な状況になった」それ以上もそれ以下もない、まっすぐな理由です。しかしあまりにも長い歴史・伝統。そして代々担ってきた檀家さんたちとの関係性。それらを思うと、その決断は「苦渋」の一言では到底言い表すことのできない複雑で難しい決断だったと容易に想像ができます。その複雑さ・難しさを引き受けてメディアのインタビューに立つ黒石寺ご住職のお姿。涙が出ました。

これから「蘇民祭」という宗教行事自体がどうなっていくのか、まだわかりませんが、この行く末に、仏教寺院のこれからの有り様も重ねて見てしまう自分がいます。

と言いますのも「関係者の高齢化と担い手不足により、維持していくことが困難な状況になった」という事象は、お祭りに限らず仏教寺院周辺にてたくさん聞かれる事象だからです。特にコロナ以降の変化は加速度的であると感じます。過疎地においては、お寺そのものを終了せざるを得ないことも以前より起きています。

寺院の運営・経営に関しては、外部環境が大きく作用します。多くの寺院は移転ができません。人の多い場所に「別院」など出張寺院を出すことはありますが、既にある環境(既存の寺院のテリトリー)を変えてしまう可能性があるため、理解を得にくくハードルは高い施策と言えます。多くのお寺が「宗派」の被包括法人ですから、地域内ではなるべくバランスを保つよう求められることも作用しているでしょう。

そのような ”変えにくい” 固有の環境を踏まえた上で、未来の住職塾の受講生の皆さんは「どうすればお寺を続けていけるか?」ということをそれぞれの現場で一生懸命に考えています。今までの住職塾の歴史の中で「どうすればお寺をたためるか?」という問いのもとに門を叩かれた方は今の所、いません。(これから現れるかもしれませんが、その時は一緒により良い方法を考えます。)

黒石寺さんにおける「蘇民祭を終える」という決断についても、ご住職として、檀家総代として「どうすればお寺を続けていけるか?」という観点に立ってのご決断なのだろうと推測します。祭りを続けることに執着し過ぎると、黒石寺の信仰の大切な部分を変えてしまう。そのことが結果的に「黒石寺を続けていくこと」という目的に反目してしまうと考えられたのかもしれません。

どうすればお寺を続けていけるか?その回答は、先に申し上げたような個々のお寺の置かれている環境や、これまでの歴史・経緯によって全く異なるものになるため、それぞれのお寺ごとに検討する必要があります。

未来の住職塾では6回の講義を通じて、計画を立てるために使う考え方(フレームワーク)を学び、自坊の置かれている環境を分析し、具体的なアクションにまで落とし込んでいきます。その結果、それぞれの「お寺の事業計画書」を完成させていきます。

もちろん、どのような計画が正解なのかどうか、それはすぐにはわかりません。ただ、(例えば)100年後にもそのお寺が存在できたとして、その時に周囲にいる人から「祖先がよくやってくれたから今がある」と感謝してもらえるような未来をイメージして、計画をつくり、今できることを実践していきます。それこそが、宗教者としてのリーダーシップであると考えています。

未来の住職塾を始めた当初、「お寺に “経営” を持ち込むとはなにごとだ!」というお声をよくいただきました。しかし最近のお寺のご住職へのとあるアンケートで、最大の関心事は「寺院経営」がダントツだったという話も聞きました。今こそぜひ、多くの方々に、私たちがこれまで大切に磨き上げてきた、学びのプログラムを活用してもらい個々のお寺のマネジメントをより確からしいものにしていただきたいと切に願っています。

講師の木村共宏さんと松本紹圭さん

もう間も無く、3月4日(月)には令和6年度の受講生募集にあたっての「体験講座」も予定しています。東京・神谷町の光明寺にて開催ですが、オンラインで受けていただくことも可能です。

もし、この寄稿文を読んでもし何か共感されたという方は、ぜひとも気軽にご参加してみてください。ご自坊のこれからの100年を一緒に考えましょう!

追記:3月4日(月)の体験講座は終了しましたが、アーカイヴ動画をYouTubeにて公開しました!是非、ご覧ください。


■ 未来の住職塾NEXT 体験講座 アーカイヴ動画

■ 未来の住職塾NEXT R-6(令和6年度)募集要項

https://mirai-j.net/next

2003年より東京・光明寺にて「お寺の音楽会 誰そ彼」を主催。地域に根ざしたお寺の ”場づくり” に大きな可能性を感じ、2012年に仲間たちと「未来の住職塾」を立ち上げる。全国に広がる受講生のネットワークを活かし、各地のお寺さんを訪ねて事例調査・執筆・講演等を行ない、時にお寺の音を録音する。現在、最も力を入れているのは音にフォーカスした新しい巡礼の形「音の巡礼」プロジェクトと、Podcast番組「Temple Morning Radio」の編集・配信。著書『お寺という場のつくりかた(学芸出版社)』、『みんなに喜ばれるお寺33実践集:これからの寺院コンセプト(興山舎)』。