「テイクアウト弥彦」で日本全国の“小さな経済圏”を守りたい——地域に根ざすお寺・お坊さんこそできること。

はじめまして。新潟県の弥彦村にある法圓寺というお寺で僧侶として勤めている梨本雄哉と申します。いま「テイクアウト弥彦」というアプリライクなwebサービスにおける地域リーダーを仰せつかって活動しております。どうぞよろしくお願い致します。

小さな村・弥彦村での、コロナ前後の自坊の取り込み

田園地帯から見上げた弥彦山

弥彦村は人口8000人に満たない小さな村。農業と観光業が盛んです。農業分野では【やひこむすめ】というブランド枝豆や弥彦山麓の盆地で育てられているブドウが代表的な農産物として位置づけられています。また観光の面では越後一宮の彌彦神社があって、その神社を中心とした観光業により村の自営が図られてきました。

そんな弥彦村にある自坊へ、5年ほど前に入寺しました。法務を勤める傍ら、地域と自坊とのご縁を結びたいという想いから、地元講師による「お寺DEヨガ」というヨガ教室や「お寺DEタッチ」という親子の触れ合いリトミック教室、行政と地域住人とを巻き込んで「お寺DE縁結び」という婚活イベントを主催してきました。

令和元年に開催した「お寺DE縁結び」

今年度に入り、各種イベントを動かそうとしていたところに新型コロナウィルスの感染拡大が起こってきました。新型コロナウィルス対策として、弥彦村でも自粛の日々がはじまりました。

拙寺への影響も大きく、毎日の法務のみに収まらず、先に述べた地域イベント(「お寺DEヨガ」「お寺DEタッチ」「お寺DE縁結び」)はすべてを中止にせざるを得ず、外の景色は変わっていないのに、自分を取り巻く環境だけがゆっくりスローモーションで流れているような感覚、僧侶としての無力感や得体の知られぬ焦燥感におぼれ、悶々と過ごしていました。

地元仕出し屋の危機から、テイクアウトマップへ

そういう期間がしばらく続くうち、徐々にではありますが、村内事業者の窮状が聞こえてくるようになりました。

従来型の通夜および葬儀式や法事の勤めがままならず、困っていたのは我々僧侶のみではありませんでした。わたしの身の回りにおける最たる例が村の仕出し屋さん。普段お世話になっている「仕出し屋さんに恩返ししたい」という思いが最初の動機でした。地域ネットワークを通して知った、その仕出し屋さんがテイクアウト弁当を始めたこと、テイクアウトの広報に課題があること。諸々の経緯を踏まえ「長野県塩尻で導入されたテイクアウトマップを弥彦村でも導入できないか」と武智勝哉さんに相談しました。

テイクアウトマップ製作者の武智勝哉さんとは、温泉組合主催の地域づくり勉強会(やひこ縁舎)の席で知り合った講師のご紹介により知り合うことができていました。コンサルタント業を営み「お寺が日常と溶け込んで在る世界」を目指されている武智さん。本来は4月に弥彦村へ遊びに来てもらう予定でしたが、この騒動により延期、「テイクアウト弥彦」の提案もビデオ会議上でした。快くわたしの気持ちを汲んでくださって、プロジェクトが起こることになりました。

2週間足らずで、地域でのサービス開始に至れた経緯

わたし一人の力で広報を行う自信はありませんでした。そこで、地域の方々の協力を仰ぐことにしました。

その仲間探しの最中、「弥彦村商工会がテイクアウト情報を収集している」との噂を聞き、即時に商工会へ向かいました。商工会側にも「この情勢のなか新たな取り組みに着手したい」とのお考えがあり、商工会員の顔つなぎや掲載店舗集めまでご協力頂戴するなど、リリースに向けた力強い後押しをいただきました。

さらに、独自チラシ制作や新聞折り込み等による配布、地域における「テイクアウト弥彦」の啓発活動までもしていだたけて、結果として、武智さんとの初めての話し合いから2週間足らずでサービス開始することができました。

生活圏が拡張する現在。地域の関係性を俯瞰して把握でき、地域の組織や人材のハブになりうる【お寺の僧侶】という存在はきわめて稀有です。「あの人が一緒に動いてくれそう」「顔つなぎであればこの人がよいかな」というような最小限の動きで、即効性ある効果を生み出せたのは、日々僧侶として地域で勤めている賜物があったように思われます。仕組みをお作りになるコンサルタントやIT屋さんだけでは、これほどスムーズなリリースは叶わなかったのではないでしょうか。

全国各地のお寺・お坊さんに主導してほしい想い

わたしが「テイクアウト弥彦」の趣旨説明に伺った時、いつもはスマートな印象の社長が、無精ひげを生やし、見るからにやつれてらっしゃいました。「テイクアウト弥彦」のことを伝えたら、ひと回り歳上の旅館経営者であるその社長がその目に涙を浮かべながら「お寺さま、ありがとうございます」と言葉をかけてくださいました。

いま、その方こそ自発的に地域のために動いておられるキーパーソンです。社長自らが地域課題に責任持って取り組む姿を生み出しています。企画を掲げた当初はごう慢さや恩着せがましさがあるのではと内心に少し抵抗感もありましたが、社長の姿、地域が躍動する姿を見せ始めている光景に、「わたしが動いてみた効果はあったかもしれない」と嬉しさがこみ上げました。

活動の最中に「どうしてこの活動をしているのだろう」と何回か自問して考えていましたが、その根っこにあるものはわたしが僧侶であることと無関係ではないかもしれません。お寺は地域に支えられて在るという認知。その地域における危機は、その地域のお寺における危機です。その危機を察知し、ほんとうに困っているひと達の声を聴くのがお坊さんであるはずだし、そういうひとに手を指し伸ばそうとできるのがお坊さんであるはずです。

いまこそわたし達のような立場の者が、地域という小単位経済圏を守る担い手として、存在を発揮する時であるように考えています。

どこかの地域のお坊さんがこの取り組みを受け取って一歩動き出せば、手も伸ばせず声さえあげられない事業者さまを救うきっかけになるかもしれません。

思わぬコロナ危機であるから、お寺のためのみではなく、お寺も内包されている地域のため、村内経済圏のひとの助けになりたい、“小さな経済圏”を守りたい——全国各地に点在する地域に根ざすお寺・お坊さんこそ成せることだろうと確信しているのです。

「テイクアウト弥彦」のテイクアウトマップのテンプレートは、どの地域の誰でも無料で作れるよう公開されています。皆さんの応援とご協力をどうぞよろしくお願いいたします。

「テイクアウト弥彦」について

「日本全国の“小さな経済圏”を守りたい」がテーマで、目ざすは全国500市町村のアプリの展開。このため、最短1日で真似すれば作れるアプリテンプレートを無料で公開しているほか、その運用・プロモーションノウハウなどの全ても、noteで無料記事として公開している。

https://www.week.co.jp/localnews/ee17bc6e9b5a9270abb2151f797db59f/

※「テイクアウト弥彦」ユーザー数は増加傾向にあります。
5/23:963名 → 5/24:1005名 → 5/25:1033名 → 5/26:1054名 → 5/27:1110名 → 5/28:1182名 → 5/29:1213名 → 5/30:1226名

「テイクアウト弥彦」はこちら:
https://www.thin.run/takeoutmapjapan/niigata/yahiko
テイクアウトマップのテンプレートや導入方法はこちら(note):
https://note.com/katsuyasan/m/md057f718d412

執筆者プロフィール

梨本雄哉:
新潟県 弥彦村 真宗佛光寺派 法圓寺 当院 龍谷大学大学院真宗学専攻の修士号を得て自坊に帰る。コロナウィルスの騒動に遇い、地域の小さな経済圏を守るため「テイクアウト弥彦」というアプリライクなwebページの立ち上げ、地域や行政を巻き込んだ地方創生を射程に捉えながら、お寺や僧侶の存在意義を問い続けている。

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