「五観の偈」が誰でも歌える歌に!手を合わせ「いただきます」を歌おう!

皆さん、はじめまして。岩手県一関市にあります、常堅寺というお寺の住職を務めます後藤泰彦(ごとうたいげん)と申します。

私は東日本大震災を経験し、その中で手を合わせ支え合う事や、何もできなくても手を合わせて祈ることの大切さを多くの方々から学びました。そして心の復興活動として設立したのが「一般社団法人てあわせ」です。

「一般社団法人てあわせ」の活動

まずはじめに取り掛かったのが、鎮魂の桜植樹の活動「てあわせ桜プロジェクト」です。桜は鎮魂や冥福を祈る花であり、また、冬の寒さを乗り越え春一番に花咲くように、復興や希望の意味もあります。震災後、仮設住宅にお住まいの方々と一緒に手を合わせて被災地に植樹した桜は6年間で千本になりました。

花が人の心に安らぎや癒やしを与えることから、最近ではInstagramで花の写真に言葉を添え「てあわせ花言葉」として毎日応援歌(エール)を贈っています。生きづらさを感じる方々から「楽になりました」「ホッとします」などのメッセージも届くようになり、フォロワーも4千人を超えました。

てあわせ花言葉Instagram⇒ https://www.instagram.com/teawase/

「一般社団法人てあわせ」は子ども食堂への食料支援と、禅宗の食事訓「五観の偈」をウクレレの歌に乗せ、楽しくためになるよう伝える活動も行っています。なぜウクレレかというと、これも震災の経験が大きな起点になっています。

歌のチカラとの出会い

8年前、あの日を境に多くの人は心に深い傷を負い、誰もが声も出せず下を向いてため息をついていました。そんな時思い出したのが「歌う住職」として有名な大分県の南慧昭住職でした。南住職は、かの有名なフォークシンガー、南こうせつさんのお兄さんです。早速、被災地にお越しいただき、一緒に仮設住宅を回り歌で元気を伝えました。

家族を失い茫然自失の人々が、歌の力でまるで魔法にかかったように元気を取り戻す姿を間近に見て、私はこの時「音楽の力はスゴイ!」と全身が震えました。この時から、いつか自分も音楽ができたらいいなと思うようになりました。

強く思うことは現実に叶うものです。それから4年後、支援活動をしていたウクレレシンガーのツジヤマガクさんとの運命的(!?)な出会いがあり、早速レッスンに通うようになりました。なんといってもウクレレの音は和みます。ホッコリします。ツジヤマさんの「あいのうた」は「NHK岩手みんなのうた」にも起用されるような素晴らしいウクレレシンガーです。ご指導の賜物で、私も今ではヘタクソながら病院や介護施設・被災地などで懐かしの歌をポロンポロンやっています。

食事の大切さを伝えるために

そんな中で、「五観の偈」を歌にできないか、ということを思いつきました。というのは、ある子ども食堂を見学した時、皆バラバラで手を合わせることもなく、乱雑に食べていたのを見て、とても悲しく残念に感じられたからです。少しでも食事の大切さを感じてもらえたら――

曹洞宗では、食前に必ず「五観の偈」を唱えます。食事をいただくことの大切さを教えてくれるこの「五観の偈」を、なんとか子どもたちが親しめるようにできないか。そのためには、歌にするのがイチバン。震災の歌ヂカラを思い出しました。なんと言っても「いただきます!」と皆が一緒に元気に手を合わせることが、生きるチカラを育むことではないかと思います。

「五観の偈」は、感謝・反省・離貪・良薬・成道の五つを偈文として唱えるものですが、そのままでは、一般の人には少し難しいものです。そこで、子どもたちになんとか「五観の偈」のエッセンスを伝えたい思う一心で、ツジヤマさんと共に、誰にでも易しくわかりやすい言葉を選び、楽しく親しみやすいメロディーを重ねて「いただきます」ができました。

昨年、都内でのお披露目コンサートには、子ども食堂のおばさん達が集まり「最近の子ども達、手を合わせないで食べるんだよネ。合掌大事だね」と言いながら、手話ダンスの振り付けでさらにバージョンアップしました。

最近、愛知県のお坊さん達が始めた「お釈迦様の誕生日にホトケーキを食べよう」というユニークな活動や、全国曹洞宗青年会制作の「典座–TENZO–」や、 「ほとけさまのやさしい精進カレー」など、食に関した話題が多くなってきました。 食と音楽が合体すれば楽しく仏の心を伝えることができます。

また、和食がユネスコ登録され、世界から注目されていますが、その根底には仏教の食に対する感謝や、生きることへの尊厳の念が流れていると思います。

今世界では、深刻な貧困や飢餓が問題になっていますが、日本で広がりを見せる子供食堂も始まりは貧困問題でした。和食文化の普及に追随して、子供も大人もみんなが集う世界版の食堂「ITADAKIMASU」として世界に発信できるのではないでしょうか。それによって貧困や飢餓の問題、さらに食を取り巻く環境やエネルギー、平和にも貢献できるかもしれません。なんといっても「いただきます」は「生きる・食べる」をベースとした世界共通言語「笑顔・歌・心」がギュッと詰まっているのですから。 

お寺が地域や人と関わるきっかけとなり、食の大切さが伝わり、みんなの心とお腹がマンプクを感じていただければ嬉しいです。

後藤泰彦(ごとうたいげん)

岩手県一関市 常堅寺住職 一般社団法人てあわせ理事長

駒沢大学卒業後大本山で修行。震災の心の復興支援団体「てあわせ」を設立し鎮魂の千本桜を植樹。東北大学臨床宗教師課程終了。災害セラピーの経験から、病院・施設での音楽活動を通しストレス緩和、看取りや死生観を説く。写経写仏を体験できる寺子屋カフェを都内で開催。東北の桜樹木葬を運営。心の応援歌「てあわせ花言葉」は人気のインスタサイトに。

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