【レポート】「仏教と脳科学とマインドフルネス」の関係に迫るシンポジウム!

去る3月6日(火)、東京大学本郷キャンパス総合研究棟1階文学部3番大教室にて大学仏教青年会連合主催(公益財団法人仏教伝道協会協賛)シンポジウム「仏教と脳科学とマインドフルネス」が開催されました。

平日にもかかわらず、主催者の予想を上回る150人前後の聴衆が来場しました。会場の一角では、講師の先生方の著作の展示・販売も行われました。

脳科学からみる仏教、そして瞑想の効果とは!?

左から佐久間秀範先生、有田秀穂先生、貝谷久宣先生。

13時の開会の後、最初にご講演いただいたのは筑波大学教授の佐久間秀範先生。瑜伽行唯識派を専門とする仏教研究者の立場から、仏教が2500年間にわたって培ってきた心や認識に関わる知見が現代にも有用であるとして、仏教・脳科学・マインドフルネスのコラボレーションの意義をご説明いただきました。

続いて、東邦大学名誉教授の有田秀穂先生に「脳科学と仏教」と題してご講演いただきました。有田先生は脳内物質セロトニン研究の第一人者として知られています。先生によると、セロトニンは痛覚、自律神経、心の状態、姿勢筋などに関連があり、心身の健康に好影響をもたらします。セロトニン神経はリズム運動によって活性化し、入息出息を観察する瞑想を行うと、瞑想の初心者でもセロトニン分泌の増加がみられるのだそうです。また有田先生は、瞑想によって前頭前野が活性化することを示した研究を紹介し、アップル創業者スティーブ・ジョブズの直観力は、彼が若いころから取り組んでいた坐禅によって鍛えられたのではないかと話しました。

三人目の講演者は医療法人和楽会理事長の貝谷久宣先生。貝谷先生は精神科医で、ご自身のクリニックでマインドフルネス瞑想を応用した臨床医学を実践しておられます。貝谷先生によると、精神療法としてのマインドフルネス瞑想は決して万能ではありません。重度のうつ病の場合、最も有効なのは投薬と認知行動療法であり、瞑想だけで治療しようとするのは非効率だといいます。しかし、うつ病の再発予防に関しては、マインドフルネス瞑想が大きな効果を発揮することが明らかになっているそうです。

貝谷先生はまた、ご自身のクリニックのうつ病治療プログラムの中に慈悲の瞑想を取り入れていることを紹介しました。それに実際に取り組んだあるうつ病の患者さんは、最終的には「周囲の人たちの助けになりたい、皆に幸せになってほしい」という心境に至ったといいます。このことから貝谷先生は、慈悲の瞑想と併せて行われるマインドフルネス瞑想は利他の心も育み、宗教に勝るとも劣らない効用があると話しました。

プラユキ師の教える瞑想、そして脳科学とマインドフルネス

プラユキ・ナラテボー師と浅井智久先生。

休憩をはさみ、タイ・スカトー寺副住職のプラユキ・ナラテボー師がご登壇。プラユキ師は埼玉県ご出身で、タイの農村で開発僧として活躍する傍ら、日本とタイを往復してお説法や瞑想の指導を行っておられます。今回のシンポジウムでは「縁起観」と題して苦の生起するメカニズムと、それに対して瞑想がどのように働くのかをご説明いただきました。お話の合間に瞑想の時間も設けられ、出入息にあわせて「プットー(「ブッダ」のタイ語形)」という言葉を心の中で唱える「プットー瞑想」と、自分の手を動かしながら、その動きに対して注意を向ける「手動瞑想」の二種類をご指導いただきました。

次にご講演いただいたのは、ATR認知機構研究所(京都府)専任研究員の浅井智久先生。「脳科学とマインドフルネス:変性意識状態の脳回路」と題し、脳回路の学問「コネクトミクス」について御講義いただきました。浅井先生によると、人間の脳回路は10種類に分類され、集中、覚醒、睡眠、瞑想など、その時々の意識状態に応じて回路が替わるのだといいます。逆に言えば、脳回路を見ればその人の意識状態が分かり、またそこに働きかけることによって、たとえば統合失調症患者の治療に応用できる可能性があるというお話でした。

最後のパネルディスカッションでは、東京大学文学部インド哲学仏教学科主任教授の蓑輪顕量先生が司会を務め、「ことば」と「認識」という二つのテーマをめぐって活発な議論が行われました。

パネルディスカッションの様子

共通する「心とは何か」という問題意識

今回のシンポジウムを通じて明らかになったのは、仏教と脳科学や心理学などの学問は、方法論は違っても、「心とは何か」という共通の問題意識を持っているということです。その問いに対して科学的手法で答えを出そうとするのが脳科学・心理学であり、他方瞑想などの実践を通じてそれを追求してきたのが仏教である、ということもできるでしょう。また、精神医療の現場におけるマインドフルネス瞑想が患者の病苦の解決を目指すものであるならば、その方向性は、苦からの解放を目指す仏教の目標と一致しているといえます。
仏教と科学の間に共通点があるということは、一部の専門家の間では早くから認識されていました。しかし今回のシンポジウムでは、科学者と僧侶が同じステージに立ち、対話を行うことで、そのことがより明確に、かつ具体的に示されたのではないかと思います。このシンポジウムをきっかけとして、仏教と科学の双方がうまく手を取り合い、人間がずっと抱えている心の問題に取り組みへと繋がることを期待したいところです。

貴重な知見をご披露いただいたご講師の先生方、ならびにご来場いただいた皆様に、この場を借りて心よりお礼申し上げます。

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