小藪さんのお釈迦さま’s B.D. FLOWER FESTIVAL!!に僧侶が行ってみた

4月8日といえば、そう、お釈迦さまのお誕生日。
毎年全国各地のお寺で、花祭り、もしくは灌仏会(かんぶつえ)という催事が行われるのが恒例だ。

しかし、お釈迦さまがご誕生して約2500年経った、昨年2017年4月。
花祭りは想像を絶するような形で、我々の前に姿を現したのである。

そう、それが、「お釈迦さま’s B.D. FLOWER FESTIVAL!!」だ。

これは、昨年彗星の如く現れた、仏教催事の最前線・次世代型・超不退転・花祭りイベントの全貌をレポートした筆者の去年のブログ記事に、細やかな加筆修正を加えたものである。

 

最先端すぎて理解が追いつかない

「レッツ!中道!」

「SAY!一切皆苦!」

「お釈迦さまっハピパだぉ♡」

ブッダでも胸焼けしそうなパワーワードのオンパレードはいったい…。
初めてこのポスターを見た瞬間の衝動は凄まじかった。
何一つとして理解できなかったのである。

ただ、ただ、すごい。
圧倒的な”情報”を目の前にしたとき、人間はこうも言葉を失うものなのか。
すごい。しかも、主催は小籔さんだし。

このポスターから伝わるのは、間違いなく最先端の仏教イベントだということだけだ。
もはや最先端すぎて、見る者すべてを置き去りにしているが。

これは新世代に生きる若手僧侶の一人として、行かないわけにはいかない。

ということで、東京でサラリーマン中の僕は、渋谷はSOUND MUSIUM VISONまで足を運んできた。

 

釈迦の目からビーム

会場に着いた瞬間、僕は思わず目を疑ってしまった。

お釈迦様の目から飛び出るレーザー光線。

釈迦の目からビーム』新しいことわざにしませんか?
なんて言っている場合じゃないぞ、なんだこれは…!

 

でっかいお釈迦さまのご尊顔がステージに。
なんと、その横でDJがゴリゴリのダンスミュージックを奏で、酒を片手に若者たちが踊り狂っているではないか。

 

花祭り  with  DJ・EDM・酒

なんて違和感のある並びだ。仲間由紀恵 with ダウンローズくらい無理矢理感がある。

僧侶の僕は思った。

「楽しい。楽しいだろうけど…… お釈迦さまの誕生日祝う気あんの??」

 

花祭りにお酒って……花祭りといえば甘茶でしょうよ。
バーテンよ、せめてこの日だけは甘茶を用意してくれよ。
それと、そのダンス。あれですか? 一遍上人フィーチャーかな? 現代版踊り念仏と解釈すればいいかな?
あと、その釈迦の目からビーム、せめて額の白毫(びゃくごう)から放って。
お釈迦さまは瞑想中に白毫から光を放って世界を照らしたとされてるから。
そうすればビームも容認できるから。
頼むからさ・・・

 

吐けるものを吐ききったところで、ここで一旦冷静になってみよう。

クリスマスの日にイエス・キリストのご誕生を祝っている人が何人いるだろうか?
日本では「メリークリスマス!」なんて言いながら、お互いの彼氏彼女を祝ってたりする。
「キリスト君のお誕生日会を企画してあげるね」と言っておきながら、キリスト君ガン無視でプレゼント交換してるようなものだ。

でも、「クリスマスといえばめでたい日」という認識は全国民の中に定着している。
イエス・キリストを祝う気持ちは忘れているかもしれないが、クリスマスがイエス・キリストの誕生日だということは誰もが知っていることだろう。

一方、4月8日がお釈迦さまの誕生日だということを何割の人が認識しているだろうか?
特に若者の場合、認知率は1割を切るのでは・・・?
そんな若者に「釈迦の誕生日祝え」なんて言っても、「は?俺たち踊りてぇし?」とキレ返されること間違いなし。

そういう意味では今回のイベント、花祭りという催事の存在を世間に定着するためには、うってつけの企画なのではないだろうか。
とりあえず「めでたい日」として認識してもらうのだ。

特に、今回のイベントが凄いのは、普段仏教がリーチできていないクラブ系の若者(パーリーピーポー)が集まっているということだ。

もしかすると、小藪さんは仏教を救うメシアとなるのかもしれない。
そんな風にも思えてきたのだ。

もういっそ、小藪さんに委ねてみることにする。

 

全力で楽しむ

ということで、余計なことは言わず、全力で楽しむことにする。

「SAY !一切皆苦!」

「般若波羅蜜多!」

リズミカルに放たれる仏教フレーズとともに小藪さんが登場した。
クラブイベントで飛び交うまさかの仏教用語に僧侶の僕、悶絶。

「お釈迦さま、お誕生日おめでとうございまーす」

開始早々、小籔さんはそう言った。

これに対し、

「イェーーーーーーーーーーーーーーーイ↑↑」

と沸き立つパリピの若者。

 

それは未だかつて見たことのない光景であった。
若者は今「お釈迦さまおめでとう」に対して、「イェーーーーーーーイ↑↑」と言ったのだ。

これはどのような「イェーーーーーーーイ↑↑」なのか。
「お釈迦さまご誕生おめでとうございます」の「イェーーーーーーーイ↑↑」なのか、
「釈迦とかよくわからんけど小藪最高!!」の「イェーーーーーーイ↑↑」なのか。
正直なところ、パリピの真意はわからない。

でも、ともかく。
今まで仏教と交わることが少なかったであろうクラブ通いの若者たちが、花祭りの日にお釈迦さまの話で盛り上がっているという事実がここにある。

なんと、有難いことなのだろうか……。
お釈迦さまのご尊顔の前でノリノリで踊っているパリピを見ると、もはや泣けてきちゃうのだ。

 

はてさて、このイベントは、「DJタイム→小藪のトークorゲストの登場→DJタイム」……と繰り返されていくようだ。

ゲストは超豪華。「1日でこんなに見てもいいの?」ってくらいボリューミーだったので、その模様を写真だけでお伝えしたい。

ViViの専属モデルが来たり、

モデルの藤井リナと芸人の品川が来たり、

品川庄司の漫才があったり、

ラッパー”ちゃんみな”のパフォーマンスがあったり、

あとは、ご尊顔に超スタイリッシュなプロジェクションマッピングが施されたりね。

いいぞいいぞ!もっとやれ!って感じ。

 

ギャルに仏教は刺さるのか?

今回のイベント、仏教的要素が皆無だったわけではない。
僕もイベントの雰囲気に流されて、自分が僧侶であることを忘れたわけでは決して、ない。

今回、唯一ディープな仏教の話が展開されたのが、「笑い飯哲夫による仏教講座」だ。

哲夫は芸人ながら仏教の解説書を書いたり、東大で仏教の講演を行ったり、僧侶の前で仏教を説いたこともあるような、いうならば菩薩芸人だ。

小藪さんが仏教にハマったのも哲夫の般若心経の解説書を読んだのがきっかけだったそう。

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そんな哲夫による講義。正直にいうと、めちゃくちゃ面白かった。

僕は哲夫の言うこと言うこと、ゲラゲラ笑っていたのだが、悲しい哉、中には途中でステージから離れていく若者がチラホラいたのだ。

「せっかくの花祭りなんだから仏教の話聞こうよ!」と若者の腕を引っ張りたくもなったが、「ああ、やっぱりそうだよな」と腑に落ちるところもあった。

今日ここにいる人は「クラブに芸能人がいっぱい集まるとか超アガる〜!」とか「小藪さまに会いたい〜♡」とか色んな動機を持って来ている。

そんな彼らにとって、やっぱり今日の花祭りはただのパーティーだし、お釈迦さまのご尊顔はイカしたセットの一部にすぎない。

仏教は刺さらないのだ。

 

「どうすればパリピの心に仏教を響かせることができるのか……」
そんなことをブツブツと考えながら哲夫の講義が終わりを迎えたとき、横のギャルが一言放った。

「哲夫やるじゃん。」

えっ、と思ったのも束の間。
その横のギャルが「あたし、哲夫の仏教の本買おっかな〜」なんて言い出したのだ!

 

「ギャルに仏教が刺さってる!!!!!!!!!!!!」

 

僕は驚きと興奮でいても立ってもいられなくなって、とりあえずステージのお釈迦さまに手を合わせ心の中で報告をした。

 

「お釈迦さまの教えは、2500年の悠久の時を経て、今ギャルの心に届きました!!!ギャルの心に届きましたよ!!!!!!!!!」

 

お釈迦さまは笑っているような気がした。たぶん。

 

ギャラなしで企画した小藪さんの思い

さて、今回の「お釈迦さま’s B.D. FLOWER FESTIVAL!!」であるが、どれだけの若者の心に仏教を響かせることができたのだろうか。
花祭りという催事の存在を認識してもらうことはできたのだろうか。

仏教のファンが一人でも増えてくれたのなら、同じファンの一人としてとても嬉しい。

イベントの中で、企画者の小籔さんはほとんどギャラなしでやっていると語っていた。

彼は芸人であるがゆえ、心に秘めた熱い思いを正面から語ってくれることはほとんどなかった。
しかし、彼がほぼギャラなしで今回のイベントを企画したというのは並大抵の思いではないはずだ。
一見おちゃらけたイベントのようにも見えるが、小藪さんの仏教への熱いリスペクトは確かにステージ上に満ちていた。

 

今回のイベントに限らず、最近はカジュアルに楽しめる仏教系のイベントが多い。
形はどうであれ、仏教に触れる機会が増えているのは非常に喜ばしいことだ。

人が「苦」を経験する生き物である限り、仏教は万人の心に響く可能性のある教えであると僕は思っている。

多種多様な仏教コンテンツが一つの縁となり、一人でも多くの人の心に仏教が響いてくれれば、僧侶としては嬉しい限りだ。

 

「お釈迦さま’s B.D. FLOWER FESTIVAL!!」は今年も開催されるので、ぜひ参加してみてください。
(僕は京都に帰省中で行けなくて残念です。)

 

(転載元の記事:http://syomyoji.net/archives/1255

僧侶。1992年京都の月仲山称名寺生まれで現・副住職(※家出中)。同志社大学を卒業、同大学院法学研究科を中退、その後デジタルエージェンシー企業インフォバーンに入社。2018年に独立し、寺に定住せず煩悩タップリな企画をやる「煩悩クリエイター」として活動中。集英社よみタイや幻冬舎plusでのコラム連載など、文筆業のかたわら、お寺ミュージカル映画祭「テ・ラ・ランド」や失恋浄化バー「失恋供養」、煩悩浄化トークイベント「煩悩ナイト」などリアルイベントを企画しています。フリースタイルな僧侶たちWeb編集長。