坐禅アプリ「雲堂(undo)」ダウンデートのお知らせ

「雲堂(undo)」は、ビギナーから禅マスターまで対応する、シンプルかつ本格仕様の坐禅アプリです。2011年に「彼岸寺」監修のもと、ウェブインパクトさんが設計開発を、hoxaigraphicsさんがデザインを担当してリリースされました。

忙しい日常から離れて静かにリラックスできるアプリとして外国の方にも多くご利用いただき、累計約10万ダウンロード、坐禅の作法を解説したYoutube動画も現在約20万回再生されています。これまでダウンロード、並びにサポートして頂いている皆様に、改めてお礼申し上げます。

アプリの利用方法はとても簡単です。お坊さんの声に従って姿勢を作り、合図の鐘が三回響いたら坐禅開始です。設定された時間で画面の線香が短くなっていき、燃え尽きると再びゴーンと美しい鐘の音が響きます。鐘の音は、毎日坐禅が行なわれている北陸の名刹で特別に収録させて頂いたもの。まるで禅寺にいるかのような臨場感で坐ることができます。

実際の収録に使われた鐘

実際の収録に使われた鐘

この「雲堂」、ウェブインパクトさんがこれまで無償でアップデートして下さっていたのですが、先日発表されたiOS11では大きく変更しないと(64bit対応)動作しないことが判明、ご利用の方々からもアップデート対応について多くのお問い合わせをいただきました。

そこでこの度6年ぶりに、開発陣が一同に介して打ち合わせを重ね、バージョンダウンを行なうことが決まりました。

「バージョンダウン」とはあまり聞き慣れない言葉ですが一体どういうことなのでしょうか。YouTubeで公開されている打ち合わせの様子の一部から、そのエッセンスを抜粋して以下にまとめました。

そもそも「雲堂(undo)」とは、どういう言葉なのか。その想いは?

禅の大本山、永平寺の坐禅堂には「雲堂」と書かれた額がかけてあります。行く雲のように、流れる水のように、行脚しながら禅の修行に励む僧侶のことを「雲水」といい、その雲水達が集って坐禅を修行する場という意味で、坐禅堂のことを雲堂と呼ぶようになりました。

また、雲堂をアルファベットで書くと英語のundo(アンドゥ)となり、「やめる、ゆるめる、元に戻す」といった意味になります。多くの人がスマートフォンを持つ現代で、「スマートフォンを使ってスマートフォンを使わないことを志向する」という想いが込められています。

インストラクション動画から

インストラクション動画から

日常の中に何もしない時間を安心して持つことができる、ゆったり静かな時間を、トイレや食事と同じように誰もが当たり前の習慣にしている……そんな社会環境を目指しています。

アップデートに思うこと……増加一辺倒の情報技術と「悪いやつら」

アップデートというと多くの場合、機能が増えていくことを指しています。それ自体は問題を解決するためにとても大切なことです。しかし場合によってはアップデートによって問題を増やすことにもなりかねません。

機能の増加、ダウンロードやユーザー数の増加を目指していくのもある段階までは尊いことですが、同時に減ることも大切な命のはたらきです。

人間の一生を想像するとわかりやすいと思います。個々の機能は生まれてから急激に増え続けますが、ある段階を超えると確実に減っていきいつかは死を迎えます。増加一辺倒の現代社会に限界を感じているのなら、その方向性について改めて考え直すことは地球全体にとって無価値ではないはずです。

例えば昔から使っているエクセル、ワード等のオフィスソフト。機能が増えすぎてどんどん使いにくくなっているように感じます。機能やデザインが増えるのはよいことですが、なぜオフィスにむかうのか、本当の使いやすさとは何か、が取り残されてはいないでしょうか。

1999年にApple社から発売されたPower Mac G4 Cubeというパソコンの広告には「more than enough power」、つまり3Dゲームや、動画編集をするために十分以上の性能があると書いてありました。当時はこれでもうパソコンを買い替えなくても大丈夫だと思いましたが、現状はどうでしょう。G4 Cubeは勿論、数年前のパソコンでもウェブ閲覧、テキスト編集、メールのやりとりといった基本的な作業でフリーズすることも多く、最新のものを買い続けることを迫られます。「more than enough」から15年以上進歩しているにも関わらずです。


Steve Jobs氏は、日本文化に大きな影響を受けていたそうです。修理しながら何世代も使い続け、自然に還る漆のお椀の美しさ。

「刀」などにも見られる必要最低限の機能からシンプルに完成されたデザイン、日本の伝統的な道具の特徴です。PCやスマートフォンも、せめてひいじいちゃんのロレックスを大切に使うように、世代を超えて温故知新に使っていく道具にする。そんな方向で技術が発展したら面白いかもしれません。

最新のハードウェアだけでなく初代のものでも皆が問題なく使い続けることができれば、より少ない資源で十分目的は達成され心は満たされるのです。

Photo by Kierok Thomas

もうひとつ、「セキュリティ対応」はアップデートの大きな原因です。

「悪いやつら」が「悪いこと」をしてくるから、OSをアップデートする

そのOSの全てのアプリケーションをアップデートする

「悪いやつら」もアップデートした「悪いこと」をしてくる

さらにOSをアップデートする

という流れでアップデートを続けていくと、便利な道具は「悪いやつら」や「悪いこと」をもアップデートさせることになります。

iPhone108(ハンドレッドエイト)ぐらいまでいけば、問題は解決して私たちが道具を使う目的を達成できる日は来るのでしょうか。それとも別の方向性を考える必要があるのでしょうか。

ダウンデートによって変わる「雲堂」、どう削るか。どう磨くか。

具体的には現在1.3までいったバージョンを、1年後ぐらいには0.9まで少しずつダウンデートしていき、プロジェクトチームのメンバーの眼が黒いうちにはバージョン0.0、ユーザーゼロを実現させたいです。まずは、

「警策機能」を削る……これは本質的ではありませんでした。おそらくこの機能があることを知らないユーザも多いのではないかと思います。
「Twitter連携」を削る……坐禅をシェアするのに、必ずしもSNSは必要ないことに気がつきました。
「時間制限」を削る……最低でも5分はというのは大きなお世話でした(例え1分でも、「雲堂」で静かな時間を過ごしていただけたらありがたいことです)。

以上3項目の主な変更点が決まり「苦労した部分から機能が消えていく!(笑 )」とエンジニアから悲鳴があがりました。「いっそのことiPhoneデフォルトのタイマーを使えばいいじゃないか!」との声も。その通りです。タイマーに「雲堂(Undo)」という音を入れていただけたら、アプリは必要なくなるかもしれません。

煙の揺らぎが美しい線香のアニメーションは今回のバージョンでは残す予定です。この揺らぎはウェブインパクトの方が大変な苦労の末作って下さったもので、音が出せない時にも重宝しています。

hoxaigraphicsの市角壮玄さんによると、「雲堂」全体のデザインコンセプトは「誰も覚えていない」……機能を全部足すのは簡単ですが、必要なものまで削らないように「どう削るか、どう磨くか」が肝なのだそうです。

存在感のないデザインは楽をしているようで実はとても難しく、坐禅に画面の余韻が残らないよう工夫が凝らされています。

「雲堂」のダウンデートで伝えたいメッセージ

道具の力を借りることで、世界中の人々が瞬時に心を通わせることができるようになりました。さらに工夫をすれば道具の使用を最小限にしつつ目的を達成することもできるはずです。

常に進歩を目指す社会は、一部の人にとってはよいものかもしれません。しかし一方で大多数の人間の悩みは益々深くなり、世界中に蔓延しているように感じます。人類はどのような生活を志向すべきなのか、熟慮した上で行動できる余裕を多くの人が持てるようになればと願っています。

現代社会に一石を投じるべく、プロジェクトチーム一同今後も試行錯誤を重ねて参ります。「雲堂」に関する御感想、御意見、御要望など些細なことでも是非お聞かせ下されば幸いです。バージョン0.0/ユーザーゼロになるその日まで、どうぞお見守りください。何卒よろしくお願い申し上げます。


今後も「雲堂」最新情報をお伝えしてまいります。最新iOSへの対応完了時期については現在確認中です。もう少々お待ちください。また、進歩も大事にしながら退歩していくーー「ダウンデートすること」について考え合う場も検討中です。

彼岸寺は、仏教とあなたのご縁を結ぶ、インターネット上のお寺です。 誰もが、一人ひとりの仏教をのびのびと語り、共有できる、そんなお寺です。