雲堂ダウンデート記念対談:ダウンデートすること①「元々いらなかったことに気づく」

以前、坐禅アプリ「雲堂(undo)」のダウンデート方針についてお知らせしましたが、去る2019年5月、予告どおり「警策機能」「Twitter連携」「時間制限の機能」を削ったバージョン1.0.xをリリース、ダウンデートの一歩が踏み出されました! 報告が遅くなってすみません……。

「雲堂」をApp Storeで見る:
https://apps.apple.com/jp/app/%E9%9B%B2%E5%A0%82/id1455422557

「雲堂」をGoogle Playで見る:
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.co.webimpact.new_undo

これを記念し、これからしばらく「雲堂」に関わる方々との対談連載「ダウンデートすること」をお届けできたらと思います。どうぞお付き合いください。

2019年6月13日・対談メンバー

・高柳寛樹:株式会社ウェブインパクト 取締役ファウンダー
http://www.theswitch.jp/blogs/view/71349171867064997/70527860001112797
・才木智草:株式会社ウェブインパクト UI/UX制作部部長
・市角壮玄:(いちずみそうげん):hoxai デザイナー/アートディレクター
https://hoxai.com
・星覚:雲水


星覚 皆さん、お忙しいところありがとうございます、今日は技術的なところ以外の「ダウンデートとはなんぞや」「今の時代に思うことは」を聞きたいと思っています。どうぞ宜しくお願い致します。

まずウェブインパクトさんは約10年前に、約120坪の東京飯田橋・本社オフィスを解約されています。かなり大きな決断だと想像しますが、こちらもダウンデートといえるのでしょうか?

高柳 弊社がオフィスを捨てたこと、確かにダウンデートに近いのかもしれません。一度オフィスをなくすと「また都心にオフィスを持って大きくしていこう」みたいなことには恐らくならないですね。たぶん元々いらなかったんだと思います。

星覚 元々いらなかったとお気づきになったということでしょうか。

高柳 そう、みんなそうだと思います。「元々いらないはずじゃないか」と。今、僕のところにも働き方改革の相談があります。「改革」というと何だか前に進む感じだけれども、そもそもいらなかったことをやっていることに気づく、ダウンデートというか元に戻る、元々の裸にもどる、そんなことを感じます。

星覚 なるほど。まだまだ、そういうことを考える会社は珍しいですよね。この雲堂について、視点が似ている部分で協力いただけているのでしょうか?

高柳 それはそれでもいいけど、本当はそうじゃないんです。一番最初はお金をいただきましたが、それ以降は、ダウンロードが多かったり、海外から突然「いつアップデートされるんだ」と問い合わせがきたり、その反響から現場でやりたい想いがあるんだと思います。

才木 うちの会社はB2Bの多い会社なので、エンドユーザーからのダイレクトな反響が嬉しいです。例えば先日星覚さんの坐禅会で実際のユーザーの皆さんに感謝のお声がけと感想をいただきました。そういう機会は今までほとんどなかったので、ものすごく張り合いになります。

高柳 経営の文脈では「これは儲かっているのか」「コストが高くなっているんじゃないか」「もっと売れ」とか、やらなきゃいけないわけじゃないですか、でも何だかこのプロジェクトは、僕がそう持っていったわけじゃなく、「皆さんに使っていただいて、ご意見や励ましの言葉をいただいて、ありがたい、以上。」……という感じで。ビジネス文脈から外れて皆の善意で動いている感じはあります。

才木 問い合わせが来る機会もすごく多いので、社内で目に触れる人が必然的に増えて、「雲堂どうなってましたっけ?」と直接関わっていない人にも聞かれたりします。

星覚 そんな現象が起こっているんですね……。ビジネスにならないことに関わり続けるのは法人として難しいと思いますが、今後そういった働き方も社会に生まれるでしょうか?

高柳 今、僕は大学のビジネススクールで教えています。確かに儲けがないと生きていけないんですが、例えば今、副業許可の流れがありますよね。お金にならない副業もいいと思うんです。

僕は本当に一回も指示していないのに、どうして弊社で雲堂が生き残っているのか。仕事の大半には指示が発生しますよね、「言われたからやっています」「がんばってやっています」「自分のアイディアでもっといいものにしていきます」……というような。しかしそれだけじゃ疲れちゃうんだと思うんです。「めんどくさいなぁ、お客さんがうるさいなぁ、よし、ちょっと雲堂やろうか」みたいな(笑)。お金以外の報酬があるとしたらそのような動機を今思いました。僕、法人は個人だと思ってるんです。結局、個人の集まりですから。

星覚 法人は個人だとすると、法人も死んでいくのでしょうか? もちろん潰れたら死ぬと思うんですけれども。

高柳 法人、死んでいくと思いますよ。日本は世界で一番長寿企業が多いと聞きますが、事業継承の専門家の先生いわく「血が薄まると潰れる傾向にある」。社長じゃなくても、苗字や創業者の血が残っていることが重要で、そこを完全に外してプロのCEOみたいな人にビジネス重視で移行していくと、弱体化するそうです。例えば「高柳企業」があったとして、「優秀だから君に任せるよ」「高柳の名前が強すぎるから横文字にしよう」……すると急に弱体化すると。

星覚 なるほど。日本社会自体はこれから人口も減って、世界の視点からみると確実に老齢期、成長を目指す以外の方法選択、ダウンデートしていかざるを得ない時期に入っていると思うんです。インタビュー記事で「ほど良いIT」という表現がありましたが、情報技術との付き合い方、どんなバランスが考えられるでしょうか?

高柳 あの記事の「ほど良い」は、デジタルデバイドの話ですね。大学2年生達と僕のゼミでオフラインのコミニケーションに関する本を読んで「完全なオフラインのみのコミニュケーションは存在するか?」という議論をしていたんです。僕の事例として「93歳の祖母に会いに施設に行っている」「でも前回古いiPadを置いてきて、施設の人に使い方を教えたらおばあちゃんとオンラインで話せる」と。そうしたらある学生が「小学校の先生との年賀状のやりとりは完全オフラインです。年1回そこでしかやりとりしない」と言って。そうか、これが心地よいITだな、と。うちのような会社だと、極端に軸をITに寄せて「IT使えなかったら人間じゃねぇ!」「電波が安定しないところに行くやつに人権はない!」みたいな(笑)。Skype等ツールの使い方が下手な人はケチョンケチョンに言われるんです。でも、そうではない適度のITにすることかな、と。

星覚 なるほど。いや正直、僕、このZOOMを使ったカンファレンスにすごい緊張して。まさにケチョンケチョンに言われるんじゃないかと、すごい緊張して準備していたんです。

高柳 皆が、「IT、IT」って言ってるから。働き方改革とか生産性向上とか、今は完全にIT頼りじゃないですか。でも本当の社会はそうじゃない。0歳から100歳くらいまで生きている社会、どの時代にもデジタルデバイドがあるんですよ。

星覚 実は僕のおばあちゃんも93歳で今施設に入っていて。画面にFaceTimeだけ表示した古いiPhoneを置いて、そこを押せば繋がる状態にしてあるんですけど、おばあちゃんは使わないです。使えば簡単に顔を見て話せるのに、やっぱりやらない。私も40歳近く生きた今、これからいつまでITと付き合っていくのか、死ぬまでか、社会の流れとは違うかもしれませんが、ITから離れていく生き方もできないのかなと個人的には思ってしまうんです。

法人でさえも死に向かう寿命があるならば。

高柳 UIやUXがポンコツを相手にしないんですよね。アメリカ系ITサービスに多いけど、例えば少し前にYouTubeの管理画面が一斉にアップデートされたとき、どこで動画をアップデートするのか私には分からなくなったんです。今小6の息子を呼んだら「画面変わったね」と言った次の瞬間に「ここじゃない?」と正解する。「分かったよありがとう」そしてGoogleに申し上げたいのは「もう俺らのことポンコツ扱いしてんだね」ということなんです。そうやって、どんどんどんどんデジタルネイティブに寄せていく、IT企業は効率化が進む、インフラがITだから効率化が進む中で古い世代はポンコツ扱いされていく、そういうことなんだなと。「なんでパパそんなことも分かんないの?」って。

星覚 われわれは情報技術にどう向き合っていけばいいんでしょうか?

高柳 どうなんでしょうね。ユニバーサルデザインに近い「ポンコツ用のインターフェース」というのか、階段でもスロープや手すりがあるように、ITでもそういった対応が必要な時代になるんでしょうね。

才木 対象にあったUI/UX、これから大いに求められるはずです。皆がストレスなく使えること、ターゲットの分析と対策が大事かなと思っています。

星覚 すごく聞いてみたいことがあります。今は対象の大半が幼児から高齢者の人間ですが、人間以外を対象とした情報技術、UI/UXは作れるのでしょうか? 今の社会問題の多くが人間中心で、環境との調和が取れていないことで起こっていると感じています。動物、虫、酵母菌、そういった生命全体を考えた、人間以外にも利するようなIT、UI、UXはできるのでしょうか?

(続く)

【Special Thanks(順不同)】
高柳寛樹氏、會田健二氏、木村貴昭氏、才木智草氏、文浩然氏、浜田祐一氏、市角壮玄氏、山内大堂氏、古川哲氏、高橋英明氏、松本紹圭師、青江覚峰師、松下弓月師、日下賢裕師、橋本佳奈氏、松村太郎氏

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