雲堂ダウンデート記念対談:ダウンデートすること②「脱有機物するその日まで」

坐禅アプリ「雲堂(undo)」のダウンデート記念対談、<ダウンデートすること①「元々いらなかったことに気づく」 >の続きです。

脱有機物するその日??

雲堂の裏側にあるかもしれないもの、お読みいただけたら幸いです。


2019年6月13日・対談メンバー

・高柳寛樹:株式会社ウェブインパクト 取締役ファウンダー
https://www.webimpact.co.jp/
・才木智草:株式会社ウェブインパクト UI/UX制作部部長
・市角壮玄:(いちずみそうげん):hoxai デザイナー/アートディレクター
https://hoxai.com
・星覚:雲水

進化する情報技術は人間のため?それとも??

星覚 人間以外を対象とした情報技術、UI/UXは作れるのでしょうか? 今の社会問題の多くが人間中心で、環境との調和が取れていないことで起こっていると感じています。動物、虫、酵母菌、そういった生命全体を考えた、人間以外にも利するようなIT、UI、UXはできるのでしょうか?

高柳 今まさに社会学で議論されています。例えば、インターネットの発達で、直接お客さんのところに行く必要がなくなりましたよね。先進国では車が減っています。「テレサイエンス」と言われたり「環境へのインターフェースが取れる」と言われたりしますが、遠隔作業ができれば、人間は動かなくなる、環境に優しくなるんです。

こういった議論で古典的なのはニュージーランドの羊飼いの話です。人間が羊を管理しているのか、羊に人間が管理されているのではないか、と。羊たちにしてみれば、ご飯も出て、毛も剃ってくれて、お散歩もして気持ちよく生きられているわけですから……「人間が羊に管理されている」という指摘が昔からあるんです。

私たち人間の目が進化したり髪の毛が伸びたりするように、IT技術も同じような意味で進化しています。こんなに悪化した地球環境の下で、IT技術は急速に進化している。すると、移動しなくなり、運転手すらいなくなり、排気ガスがなくなり、自然環境が浄化されて良くなる可能性があります。人間主体の社会ではなく、環境に人間が飼われていて「そろそろ具合悪いから人間に(人間以外の)施設を作らせようか」というような……そういう議論があるんです。

星覚 面白いですね。食物連鎖の図では人間がトップとされることが多いけれど、ほんとうにそうなのか……我々人間は生物としてはだいぶ弱いですよね、光合成すらできない。そのような生き物が、結局は自分たちの首をしめるような行き過ぎた生き方をしている現状はなんとかならないものか。今後も雲堂に出会った人を通じて、何か社会の方向性に一石を投じることができればと思っています。

「ものづくり」はダウンデートに通ずる

星覚 壮玄さんはデザイナーとして、このダウンデートに何か思うところはありますか?

壮玄 デザインの行き着くところは、すごくダウンデート的なゴールなんですよ。デザインって、使っている人を嫌な気持ちにさせないとか、不利益を生じさせないとか、そういうことを追求していくことになります。結局、余計なものをなくしていく作業なんです。

障害になるのはデザイナー自身のエゴ。例えば「雲堂」のようなプロジェクトに参画する時って「こういう世界観を実現したかった」と強い意志で取り組むことが多いんです。「こういう画面でこういう世界観を人に見て欲しい」、端的に言うと「いいデザインだねって人に言われたい」……

雲堂も最初のデザインは結構頑張った気がしますが、同じ作業を繰り返すうちに、洗練されて解像度が上がっていく、自分の意志が不要になっていくんです。すごく苦労して作ったものをなくしていき、より純粋に、物として/道具として、良いものを作れるかどうか。ダウンデート的な考え方の行き着く先は「ものづくり」と感じます。もともと日本人は得意だった気がするんですけどね。昭和の日本のプロダクトはアップデート/追加追加ときていますから、日本人のデザインアプローチとしては王道だと思います。そういう意味ではグラフィックデザイン的にはダウンデートさせていただきました、

デザイナー自身がダウンデートした旅でもありました。デザイナーとして余分なことをしなくなってきた、角が取れて余計なものがダウンデートされて、雲堂にもそれが反映されたように思います。つながっています。

「いいね!」の数値化がもたらすもの

星覚 余計なことをしなくなった人が評価される社会、そもそも評価を求める必要がない、そういう世の中になると、だいぶ無駄が減ると感じますが、そうはならないんでしょうか? 今は人と違ったことをしたり、アピール上手な人たちが注目を集めて得をする、そんな仕組みになっていますよね。

壮玄 それ、僕もすごく思います。Instagramが「いいね!」の表示数を止めましたよね。注目を集めることが「いいね!」で数値化されるから、無意識にそれを集める方向に進んでしまう。「95いいね!よりも100いいね!に価値がある/人として優れている」そういう価値観がここ10年ぐらい、無意識のうちに出来上がっていますよね。でも、本来は「いいね!」ひとつひとつの重さが違う。届くべき人に届けば1万いいね!の重みがあっても、数字上は1。

今は余計なことをしたほうが褒められる仕組みになっている。仕組みを作る人の責任って結構重いなぁと思うんです。

星覚 「いいね!」を実装できる人、実装の合否を決める人の責任が大きいのでしょうか?

壮玄 実装する人たちが「人間の幸せとはなんぞや」という事に普段から意識を向けていないと、そういうことは度々起きるだろうとは思います。多くの人が日々触れるものですから、気づかないうちに不幸せを感じやすくなるようなUXが広まれば、またたく間に不幸せな世界を作り上げてしまう。人間の幸福を考える上で、政治とUXは同じぐらい重要なのかもしれないですね。

星覚 先入観かもしれませんが、UXに関わる作業はどうしても長時間無理な姿勢でコンピューターに向かい、ストレスも多くある、というイメージがあります。そういった作業に携わる人々の健康的な生活を犠牲にしてしまうことはないのでしょうか。

壮玄 そういう人でも仕事は任せて問題ないと思われています。でも、本当はそこの人たちが「幸福とは」「なぜ悩みが生じるのか」を理解していないと、大変なことになると思います。

情報技術と仏教(坐禅)の共通点「楽になる」

星覚 智草さんは大学で道元禅師について研究されていたんですね。今の仕事や「雲堂」と、共通性を感じることはありますか?

智草 ドイツ観念論哲学との比較として研究していたこともあり、私の禅の理解は浅いものですが、「正法眼蔵」を読んで……なんというか「楽になった」感じがあったんです。生死のところとか、すごく好きで。生と死がありのままにあって、通過点で……そういう捉え方を知ると幅が広がって、少し楽になるじゃないですか。情報技術も同じで、対面でのコミュニケーションが苦手な人がチャットやSNSの登場で楽になったり、弊社のプロダクトでも電子化で作業が減って楽になる人がいたり。高柳さんの「移動しなくて良くなる」という話も、満員電車に乗らなくていいから「楽になる」という側面がありますよね。生きるのが楽になる一助になればいいのかな、「楽になる」という点では共通点を感じています。今も正法眼蔵は手元に置いてあります。

星覚 確かに情報技術には「楽になる」という側面がありそうですね。移動もなくなって、オフィスで働かなくなって、どんどん楽になって、最後は坐るだけ。オフィスがいらなくなったみたいに、「インターネットもいらなかったよね」という状態もあり得るんでしょうか? それとも進化し続けるのかな……

壮玄 インターネットがさらに別の形態になる……想像もつきませんが、ガラッとドメスティックに変わるかもしれませんね。目に見えなくなる、インターフェース自体なくなりそうです。ハリーポッターの世界の魔法みたいに、映像を見て頭の中で思った瞬間に届くとか。

高柳 大阪大学でロボット研究されている石黒先生がおっしゃっていることが事実に近いのではと感じています。人間の寿命はどんどん伸びていますが、今のこの有機物—僕らの筋肉や皮—は、持って120年らしいんです。ここ1億年ぐらいは有機物のほうが進化が早くて、足が柔らかいほうが二速歩行しやすかったり指が柔らかいほうがコップを持てたり、この柔らかい有機物が進化にちょうど良かった。

僕たちの筋肉や皮、家族制度……有機物の限界?

高柳 ただここから先は……120年、もう有機物の限界ギリギリまで来てしまった。知識も詰め込むだけ詰め込んでしまった。今、小学校から大学まで教育をやっていますが、ものすごく効率悪いですよね。本来は「直接脳に転送して以上」一瞬で終わることを20年ぐらいやっている。情報技術の進化に、有機物としての体と脳みそのスピードが追いつかなくなっている。今度は「無機物」にしていかないといけない。今の人間の感覚も「意識転送」、今風にいうと「クラウドに移す」方向に自然となっていきます。それが早い段階で来ないと論理的におかしいよね、と石黒先生はおっしゃっている。

「意識はクラウドに」「体はありません」そのときに禅。何もなくなったら坐っているだけでいい……その感覚に近いかもしれないなと思いました。

星覚 すごい世界です、そこで出会うのかもしれませんね。IT技術と生死の問題が。

高柳 僕の専門分野で言うと、電話電信、電話とファックスの時代って本当に長かったんですよ。グラハムベルから始まって120年ぐらい、ずっとイノベーションは来なかった。80年代にインターネットが出てきた瞬間、全てひっくり返りました。とんでもないスピードで。そして今、石黒先生は「もう有機物すらオワコンなんだから」と。環境に左右されて、痛いだの痒いだの、もう無理です、と。

智草 有機物というコンテンツ。脆弱性の塊ですよね。

高柳 その脆弱な人間に合わせて環境を作らないといけないから、おかしなことが起きるんです。もし我々がA地点からB地点まで一瞬で移動できるスピードがあれば車はいらなかったし、排気ガスも出なかった。世の中のIoT機器に比べて、人間の目も鼻も耳も口も、極めて適当で能力が低い。人間はそんなに偉くないんですよね。

壮玄 人間が不幸になる原因、生物界ヒエラルキーの中で人間は本来、上下に挟まれている中間管理職のような存在、まるでドラ◯もんのスネ夫のようなポジション(笑)、あらゆる強い生物に怯えていた弱い生き物で、その名残は今の人間の社会に残っています。

極端に臆病な性質。力やお金や、仲間がなくなることを恐れる性質、人間同士の男女や夫婦・家族問題、DNAのプログラムで起こっている問題。どれも肉体を卒業した瞬間になくなって、開放される日が来るかもしれません。

星覚 そういう問題、よく話を聞くと多くの人が大きな課題として抱えていますよね、家族のこととか。

高柳 「家族論」、社会学の主たる興味です。要は人間が脆弱だから作るんです。保守系の方々は「日本の伝統ある家族制度」といいますが、江戸時代には家族制度なんてありませんでした。明治時代、年貢を徴税するために、マイナンバーがなかったので戸籍を設けて管理したわけです。ヨーロッパの家族制度をコピペして作ったのが今も続いているだけです。数年前にマイナンバーが施行され、元々の理由からすれば、家族制度はもういらないんですよね。

LGBT等の多様な生き方、離婚率の増加、女性の社会進出も進んで、「結婚するかしないか」「子供を産むか産まないか」選択肢が増えています。全部認めるのは今の流れで当然だけど、そうすると今の家族制度には収まりきらないんです。「伝統」と言っても明治までしか遡れないのですから、自民党の方針はおかしいです。本来はマイナンバー導入と同時に家族制度も止めないと、自由な社会じゃない。

その議論で行き着く先が、先ほどの石黒先生の話です。IT化が進みマイナンバーができた、トラッキング可能になって誰がどこにいるか分かる、監視社会になりつつある、「肉体を捨てなさい」の序章の可能性がある……そういう感覚です。

星覚 皆で出家するしかないですね。皆で出家して家族制度から離れてしまう。出家はそもそも娑婆から「いかに離れるか」の仕組みとも言えますから……

壮玄 テクノロジーが出家を促す?

高柳 テクノロジーの進化、「IT」を嫌いな人も多いですが、人間の正常進化ですよ。正常進化だから抗えない、抗ってはいけない。今、急速に離婚率が増えて日本でも40%を超えています。これまで統計がなかったせいもありますが、進化はスピーディーに起こる。インフラのほうが遅れていて人間は正常進化している。「離婚が悪い」という考え方はオワコンで、「離婚した」が最新なんですよ。

星覚 すごいちゃぶ台返しですね。突っ込んで聞きたいことがまだ沢山ありますが、最後に「雲堂」が今後どのようになっていってほしいか、伺えたらと思います。

脱有機物するその日まで

壮玄 最初の頃は「スマホのアプリで坐禅」というだけで斬新で、ある種のギャグと捉える人も多かったと思います。「スマートフォンと宗教的な心の世界」対立する要素と感じていた人がほとんどだったはずです。けれど我々が続けることで、どうなるか……さっきの「正常進化」のお話は仰るとおりだと思います。「雲堂」も、仏教の正統進化、本流だよ、そう思ってもらえたらいいですね。

智草 最初も十分シンプルだと思いましたが、よりシンプルに、最終的には有機物でなくなるまでダウンデートしていく……コンセプトに合っているのではないでしょうか。

高柳 有機物を捨てるまで続けなくては、ということでよろしいでしょうか?(一同笑)

星覚 脱有機物まで! 壮大で楽しみな目標ができました。僕らだけでは終わらせられない気もしますが、有機物でなくなるまでどれぐらいかかるでしょうか。

智草 最終的にダウンデートで消されるのは私たち自身だったという(笑)

壮玄 そして、地球に誰もいなくなる……(笑)

星覚 まさに涅槃寂静の世界ですね。目指すところなのかな、そう言っていいのかな。

壮玄 テクノロジーとクロスオーバーしますね。

星覚 これはますます楽しみなプロジェクトになりそうです。本当にありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。


以上、「雲堂」開発陣とのダウンデート記念対談をお届けしました。

次回は、この対談のインタビュアーもされている雲水の星覚さんに「ダウンデートとは?」を投げかけたインタビューをお届けする予定です。どうぞお楽しみに。

【Special Thanks(順不同)】
高柳寛樹氏、會田健二氏、木村貴昭氏、才木智草氏、文浩然氏、浜田祐一氏、市角壮玄氏、山内大堂氏、古川哲氏、高橋英明氏、松本紹圭師、青江覚峰師、松下弓月師、日下賢裕師、橋本佳奈氏、松村太郎氏

坐禅アプリ「雲堂」をApp Storeで見る:
https://apps.apple.com/jp/app/%E9%9B%B2%E5%A0%82/id1455422557

坐禅アプリ「雲堂」をGoogle Playで見る:
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.co.webimpact.new_undo


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