今年も花まつり!お釈迦さまも辛いカレーを食べていた!?

4月8日のお釈迦さまの誕生日を前に、今年もお坊さんたちが花まつりを盛り上げようと、いろんな取り組みを行っています。以前お知らせしましたU-zhaanのお寺ライブツアーも花まつりに合わせて行われたり、灌仏会や花まつりのイベントが全国のお寺で企画されています。

そして今年は特にインド(厳密には現在のネパール)生まれのお釈迦さまにちなんで、「カレーを食べて花まつりを祝おう!」ということが、カレー坊主こと吉田武士さんを中心にして盛り上がりを見せているようです。

さて、そんなお釈迦さまとカレーの関係。果たしてお釈迦さまも本当にカレーを食べていたのか否か。食べていたとしたら、それはどんなものだったのか?今回仏教伝道協会にお勤めの柳衛悠平さんより、大変興味深い記事をご寄稿いただきました!皆さまどうぞご一読くださいませ!


えっ?カレーのスパイスってインド産じゃないの!?

私が毎週楽しみにしている番組の一つに、日本テレビ系「ザ!鉄腕DASH!」があります。ジャニーズ事務所に所属するアイドルグループTOKIOのメンバーが、華やかなステージとは無縁の農業や料理、さらには廃棄される食品をいただく乞食行(!)など「泥臭い現場」に果敢にチャレンジしていく姿は新鮮で、大学時代に学んだ江戸時代の農村史を思い起こしながら「そうそう、これこれ」と楽しんで視聴しております。

さて、その「ザ!鉄腕DASH!」で新たに始まった企画に「カレー作り」があります。その初回だったか、2回目だったか、メンバーの一人がインドを訪れ、畑や市場でスパイスを実際に見て歩くなかで、画面の下に「クミン エジプト原産」というテロップが表示されました。

「………? エジプト? インドじゃあないの???」

その後、次々と紹介されるスパイスの多くが「アフリカ原産」となっており、「インド=カレー=スパイス」と思い込んでいた私は、とてもビックリしました。その一方で「ああ、なるほど」と膝を打ちました。

お釈迦さまが食べたカレーは何味……?

実は、その少し前にインド仏教学の専門であった梶山雄一先生の『「さとり」と「廻向」』という本を読んだのです。その本のなかで、〈般若経〉や〈無量寿経〉をはじめとする大乗経典が紀元前後に(恐らく現在のパキスタンにあたるガンダーラ地方で)次々と出て来たのは、当時のインド地域の政治的混乱の最中、バクトリア王国を建国したギリシャ系やイラン系のサカ族といった様々な民族がインドに入っていったことが背景にあると指摘をされていて、とても印象に残っておりました。

ということは、お釈迦さまが亡くなられてから500年近くが経過した紀元前後に、アフリカなどからスパイスの多くがガンダーラ地方(さらには奥のインド)に伝来したのかもしれません。そう仮定すると、お釈迦さまの食されていた“カレー的な何か”には、スパイスが使用されていなかった可能性が出てきます。では、その時代に食べられていた“カレー的な何か”は、いったいどんな味なんでしょう?色々と疑問は膨らみます。

またスパイスといえば「レッド・ホット・チリペッパー」でお馴染み「赤い唐辛子」がまず思い浮かびます。しかし、以前にインド仏教学の宮下晴輝先生から「『キサーゴータミーの説話』で有名な『芥子の実』ですが、これは白辛子(ホワイトマスタード)のことです」と教えて頂いたことがあります。確かに、説話の出典である仏典の英訳本を見ると「ホワイトマスタード」と書いてあり「確かに『芥子』は『けし』とも『からし』とも読むよなァ……」と変な感心をしたのも思い出しました。であれば、カレーの辛さや色も、私たちのイメージするものとは違っていたのかもしれません。

お釈迦様も辛いカレーを食べていた!

放送の翌日、職場に来られていた(奇しくも梶山雄一先生のお弟子である)仏教伝道協会理事長の桂紹隆先生にこの疑問をぶつけてみました。すると「教え子の一人が古代インドの食文化を研究しているから、聞いてみます」とその場でメールを打って下さいました。その結果によれば、『律蔵(※)』のなかにスパイスの記述があるそうで、「お釈迦さまが、私たちが今食べているような辛いカレーを食べていたことは間違いないようです」とのことでした。

※『律蔵』とは、仏教教団の決まり事を記した文献です。決まり事が出来るきっかけとなった出来事も記載されているので、教団の日常生活がよく分かります。

僕の仮説(……というよりは妄想)は見事に外れましたが、辛口のカレーを食べた後のような爽やかな風が胸中を吹き抜けたことです。

なお、そんな「カレー論争」の直後に、馬場紀寿先生の『初期仏教』(岩波新書)が出版されました。そこにはお釈迦さまが活躍された時代の背景として「ガンジス川流域と、北西インドあるいはインド西岸部との間を隊商が行き交い、さらには、インド西岸部から西アジアへ商船が往来した。ガンジス川流域は、交易を通じて、世界と繋がっていたのである(15p)」と指摘されていました。

なるほど、陸路だけではなく海路もあったわけでした。こうした交易路を通じてもたらされたスパイスで出来たカレーを、お釈迦さまは食されていたのかもしれませんね。

花まつりをカレーで祝おう!

4月8日はお釈迦さまのお誕生を祝う花まつり。是非ともお釈迦さまも食されたであろうカレーを頂いて、感謝の気持ちを味わうご縁とするのも一興ではないでしょうか。

なお、「ザ!鉄腕DASH!」では、インドのスパイスを日本で栽培しようとチャレンジされている様子。これは、インド由来の仏教を日本で弘めようという、先達方の苦労(菩薩行)に通じるところがあるかもしれません。頑張れ、TOKIO!!!


柳衛 悠平(やなぎえ ゆうへい)
1982年東京都生まれ
真宗大谷派僧侶。現在、三島市成真寺衆徒として法務に携わる一方で、東京の仏教伝道協会職員として仏教書の出版事業に従事。節談説教の研鑽にも取り組んでいる。柳衛法舟として『ニセ坊主』(響流書房、2015年)




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