仏教徒という生き方のすすめ

アップル創業者の一人で後に強烈なカリスマ性を放つCEOとなったスティーブ・ジョブズ氏。2011年10月に亡くなった彼はiPodやiPhoneなどをつくり出し、私たちの生活スタイルを劇的に変えました。彼が仏教に傾倒していたことが支えとなり、数々の驚くべきイノベーションが生まれました。

彼は、毎朝、鏡の前で自問自答していました。「今日が人生最後の日だとしたら、今日の予定は本当にすべきことなのか。もし「ノー」と答える日が続くなら何かを変えなければならない。」彼がスタンフォード大学の卒業生を前にして述べた有名なスピーチの一節です。

私たちも、仏教に触れることでスティーブ・ジョブズ氏のように価値観や人生観を変えることができます。一日のうち一度も鏡の前で自分の顔を見ることがないという人はまずいないでしょう。でも鏡に映る自分に向かって自分自身に問いかけをしている人は少ないでしょう。

仏教に触れることで、彼のように一瞬一瞬を大切にして今日一日を精一杯に生きていくことは私たちも見習い実践すべきことです。でも、そこで満足してしまったら、大変にもったいないです。せっかく仏教に触れるのならば、もう一歩踏み込んで「仏教徒という生き方」に触れましょう。

仏教には「止悪行善(しあくぎょうぜん)」という行動基準があります。文字通り「悪いことをするのは止め、善いことを行うようにする」ことです。

何だ、子どもに言うようなことじゃないか、と思うかも知れません。その通りです。3歳の子どもでも知っていることです。私たちも子どもの頃に周りの人から言われたことです。

問題は、知っていることを正しく行えているか、ということです。知っていても出来ていなければ、他の人の眼には知らないのと同じように映ります。「悪いことをするのは止め、善いことを行うようにする」ことを徹底していくのは、なかなか難しいことです。

さらにもう一つ。何が「悪いこと」であり、何が「善いこと」でしょうか。例えば、他人様に迷惑をかけていなければ「悪いこと」にはならないでしょうか。あるいは、自分の基準で正しいと判断することは「善いこと」になるのでしょうか。

答えは仏さまが示してくださいます。まず仏さまの顔を思い浮かべてください。仏さまが哀しそうな顔をなさることは「悪いこと」です。仏さまが嬉しそうな顔をなさることは「善いこと」です。

仏さまの顔を思い浮かべるのが難しいという人は、亡くなった大切な方の顔を思い浮かべてください。たとえばお祖父さんやお祖母さんなど、今は亡き大切な方が哀しそうな顔になることを避け、嬉しそうな顔になることを心がけるのです。

私たちの周りには自分の利益ばかり追い求める人がたくさんいます。人に限らず会社や組織や国もそうです。自分が得をするなら周りを踏みつけても構わないという強欲な姿を嫌と言うほど目の当たりにしています。でも強欲な人や会社や組織や国だらけの世の中になっていくのは、本当に良いのでしょうか。

周りの人や会社や組織や国を変えることは至難の業です。しかし、自分自身を変えることなら、私たちには出来ます。自分で清々しく心地よい生き方をするように心がけることは、自分自身にとっても周りの人にとっても本当に気持ちの良いことです。

仏さまや今は亡き大切な方が哀しそうな顔をなさる「悪いことをするのは止め」嬉しそうな顔をなさる「善いことを行うようにする」こと。それが仏教徒という行動基準を持った生き方です。私たち一人ひとりが「仏教徒という生き方」を実践することから始めましょう。きっと自分だけでなく周りのみんなも気持ち良く生きられる世の中に少しずつ変わっていきます。

●加用雅信(かよう がしん)さん プロフィール
広島県 浄土宗 海雲山 妙慶院 副住職

一言自己紹介
1971年広島県生まれ。東京工業大学大学院修了(建築学)。一級建築士。UCLA交換留学、設計事務所勤務を経て、現在妙慶院副住職。浄土宗総本山知恩院・大本山増上寺・大本山金戒光明寺布教師。全国浄土宗青年会の事務局長、副理事長等を歴任。お寺での法務を中心に、悩み相談や傾聴や慰問などにも積極的に携わっている。また、建築の分野で得た経験をもとに、様々なデザイン活動やイベント企画運営も精力的に行っている。

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