【レポート】毎年、武道館の座席分の人口が減る秋田のお寺で未来を考えてみた

私は秋田県秋田市にあります日蓮宗のお寺、法華寺(ほっけじ)の副住職を務めております齋藤宣裕(さいとうせんゆう)と申します。

先日、法華寺におきまして「お寺で未来の秋田をデザインするシンポジウム」を開催しました。その時に感じたことを書かせていただきます。

今回は講師として、東京大学大学院で持続可能な地域づくりを研究されている工藤尚悟先生『未来の住職塾』塾長の松本紹圭さんにお越しいただきました。

「トランスローカル」と「良き習慣の道場」というお話

まず工藤先生からはご自身が提唱されている「トランスローカル」という考え方についてお話をいただきました。

ある地域で成功している事例を、そのまま他所の地域に持ってきて当てはめてもうまくいかないのではないか?という問いに対する答えとして現在実践されているのが「ある地域の文脈(ローカリティ)に根ざした企てを複数の地域でつなぎ、コンテンツに境界を越えさせていく(トランス)」というトランスローカルの考え方だそうです。

一定の成果や結論ありきで進めるのではなく、取り組みの結果どうなるのかわからないまま、ふたつの地域がともに走っている、いわゆる「伴走する」イメージというお話がとても興味深いものでした。

そしてもうひとりの講師、松本紹圭さんからはこれまで変化してきたお寺の役割と、これからのお寺のあり方についてお話がありました。

平成とともにこれまでお寺を支えてきた檀家制度は終わりを告げ、これから改めてお寺の存在意義が問われることになり、お寺の役割の再定義が必要になるという言葉は印象的でした。

人々がウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること)を目指す時、仏教では「戒(かい)・定(じょう)・慧(え)」の三学を修めるべきであり、その基盤になる戒として良き習慣づくりが大切、ということで、これからのお寺の役割として「良き習慣の道場」を挙げていました。

問い直しと再定義

近年、お寺の世界でも宗派や教団にとらわれない取り組み、インターネットやSNSの力によって地域を超えた活動が珍しくありません。工藤先生のお言葉を借りれば、じつは日本の宗教界も「トランス」つまり境界を超え始めているように感じます。

家族や社会のかたちが変わり、それに伴ってお寺を支えてきた檀家制度が終わりを迎えようとする中、新しい取り組みがどんどん生まれています。それぞれの地域の未来のために、お寺は何ができるのでしょうか。

今回、奇しくもお二人の講演に共通していたのは「問い直し」と「再定義」というお話だったように思います。

私たちの地域づくりはこのままでいいのか。

新しい時代のお寺、僧侶の役割とは何なのか。

そして、豊かさとは何なのか。

これは今回のシンポジウムの大きなメッセージでした。

そしてその答えのひとつとして、工藤先生からはトランスローカル、松本さんからは良き習慣づくりというワードを提示していただきました。

松本さんは良き習慣づくりの一環として、現在「テンプルモーニング」という、朝お寺に集まって掃除をする会を全国のお寺に奨励しています。これまでみなさんがお寺で行ってきた掃除、お参りという行為がじつは良い習慣であり、それをこれまでと少しだけ違う角度からスポットライトを当てて改めておすすめしていく、ということが結果的に仏教の教えで目指す「仏になる」ことへの第一歩となるのではないかと思います。

シンポジウムでの学び

今回は、日本で最も早いスピードで人口減少を続けている秋田の未来をどのように描いていくべきか、ということを考えるシンポジウムでした。

しかし、お二人の講演を聞いて、これからの時代においては秋田というひとつの地域の問題として考えるのではなく、地域を超えて大きな視点でトランスしていくことが大切ではないかと感じました。

人口減少は社会的には大きな動きですが、まずはその現象をあるがままに受け止める、ということは仏教的な捉え方でもあります。縮小していく社会の中で私たちは何を目指し、何を考え、そして何を行っていくのか。

問いを続けること、答えを探し続けること。今回のシンポジウムで大きな学びを得ることができました。

仲間づくり、居場所づくり、良き習慣づくり

今回のシンポジウムには女子高生、市議会議員、僧侶をはじめ年代も職業も立場も違う方々が集まって、いっしょにじっくりと未来について考えるという、とても有意義な時間でした。多様な人が安心して集まって仲間になることができる、このような場を作ることは、お寺という空間が得意としていることと思います。

松本さんがお釈迦さまの素敵なお言葉を紹介してくれました。

「良き仲間がいることは、修行の半ばではなく、その全てである」

私はこれからお寺で改めて「仲間づくり、居場所づくり、良き習慣づくり」を目指してみようと考えています。今回の何よりの収穫は、明るい未来をデザインしよう!と顔を上げて前を向くことができたことかもしれません。

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