『ともに生きる仏教』発売! なぜお寺で社会活動? 実践者の声を聞こう

桜が満開となった大阪・應典院で、ちくま新書新刊『ともに生きる仏教――お寺の社会活動最前線』発売記念イベント(主催:應典院/後援:筑摩書房)が開催されました。当日の4月6日(土)は、関西地方では絶好の花見日和の週末。屋内にいるのが実にもったいないような陽気でしたが、應典院本堂内もお寺の明るい未来を照らすような、仏教や僧侶の大きな可能性に満ちた空間になりました。

おりしも應典院では「おてら終活 花まつり」としてさまざまな終活プログラムが開催中(3/27〜4/13)。生きている内も亡くなった後もお寺と共にあろうというポジティブな空気が流れている中で、お寺の公共性・公益性を考えるには最適なタイミングです。僧侶は少なめ、一般の方が多数という中で静かにイベントが始まりました。

当日、本書の寄稿者8名が全員登壇。実践者6名と研究者2名という顔ぶれは、それぞれメディアに取り上げられたり各地で講演されていたり、仏教関係者にとっては有名な方ばかりです。

<登壇者>(プレゼン順、敬称略、本書の目次)
1)大谷栄一  なぜ、お寺が社会活動を行うのか?
2)松島靖朗  貧困問題―「おてらおやつクラブ」の現場から
3)池口龍法  アイドルとともに歩む―ナムい世界をつくろう
4)関 正見  子育て支援―サラナ親子教室の試み
5)猪瀬優理  女性の活動―広島県北仏婦ビハーラ活動の会
6)大河内大博 グリーフケア―亡き人とともに生きる
7)曽田俊弘  食料支援と被災地支援―滋賀教区浄土宗青年会のおうみ米一升運動
8)秋田光彦  NPOとの協働から、終活へ―應典院の20年と現在、これか大

しかし一般の方にとってはまだまだ認知度が高いというわけではなく、まさにそんな仏教関係以外の方に知ってもらいたいという想いから企画されたのが本書。そもそもは2017年度、佛教大学四条センター(学外の京都市下京区烏丸にある一般の方に開放された生涯学習施設)で開催された公開講座『現代社会と向き合う仏教』がベースになっており、そのため浄土宗僧侶が中心となる関西圏の活動が多くを占めています。

まずは寄稿者8名が順に10分ずつプレゼン。1人目は本書の監修者であり、現代仏教学研究をリードする大谷栄一・佛教大学教授からスタート。

●大谷栄一 なぜ、お寺が社会活動を行うのか?

2000年代以降の仏教界の新たな波として、「発信系」(情報発信)と「実践系」(社会活動)が生まれてきたとの指摘があり、「発信系」の代表的なものとして彼岸寺の名も。「実践系」としては、東京・山谷を中心に炊き出し・配食夜回り活動をする「ひとさじの会」、東北大学で開講され資格化された「臨床宗教師」、貧困問題解決を目指す「おてらおやつクラブ」が紹介されました。

宗教の公共性・公益性について議論されるようになった時代背景を押さえつつ、「ともに生きる仏教」とは「ともにすること」=対話・協働、「ともにあること」=ケア・臨床、と定義できるのではないかと提案されました。

●松島靖朗 貧困問題―「おてらおやつクラブ」の現場から

おてらおやつクラブは、お寺にお供えされるさまざまな「おそなえ」を、仏さまからの「おさがり」として頂戴し、子どもをサポートする支援団体の協力の下、経済的に困難な状況にあるご家庭へ「おすそわけ」する活動。お寺の「ある」と社会の「ない」をつなげ、双方の課題を解決することで貧困問題解決に寄与しようというものです。

活動を始めたきっかけから昨年グッドデザイン大賞を受賞するまでを、スライドで分かりやすく紹介。当初あった批判的な声がグッドデザイン大賞以降に反転したエピソードが面白く、しかし他の実践者も最初批判されたという点が共通するものでした。

●池口龍法 アイドルとともに歩む―ナムい世界をつくろう

『フリースタイルな僧侶たち』の創刊者として有名な池口さんですが、最近はお寺でアイドルをプロデュースしていることが話題となっています。

お寺でアイドルというと白眼視されることも少なくないようですが、アイドル自体のプロデュースは学生に任せており、池口さんは住職としてお寺でやる意味を担保し、仏教からかけ離れてしまわないようにイベント全体をプロデュースしていると説明。

アイドルの他、ドローンで仏さまを飛ばしてみたり、仏さまグッズがガチャガチャになったり、ユニークな取り組みが注目されますが、すべては仏教や仏教文化を伝えるため。それによって檀家以外の方もお寺へ足を運び、その姿に檀家さんも触発されるという好循環が生まれていることが紹介されました。

お寺を舞台に新たなコミュニティが生まれ、それが「仏教的経済圏・文化圏」になるという指摘が印象的でした。

●関正見 子育て支援―サラナ親子教室の試み

浄土宗の総本山・知恩院が主導する「サラナ親子教室」について紹介。始めたきっかけは、関さん夫婦が外からお寺に入ってきたため地元に知り合いがなく、地域に溶け込んでいく必要があったこと。お寺として地元の人々と「ともに生きる」ため、地域社会で自分の子どもを育てていくため、周りの親子と一緒に子育てしていくことを目指したのだとか。

「サラナ」とは安らぎの場所という意味で、広い畳の部屋や本堂があるお寺は最適な場所。孤立や虐待を防ぎ、どう楽しく子育てするかを意識して自坊でも知恩院でも親子教室を開催されています。

また、お寺は葬儀や年忌など悲しみに触れる場面が多いので、楽しいことを通して僧侶も地域の方も精神のバランスをとることが大切との指摘。主催者、僧侶のこころの健康への配慮にも言及されたところに、関さんの優しさが感じられました。

●猪瀬優里 女性の活動―広島県北仏婦ビハーラ活動の会

本書唯一の浄土真宗の活動を、龍谷大学の研究者の立場から紹介。女性僧侶の活動も取り上げようと、浄土真宗の住職の奥さまを中心とする「広島県北仏婦ビハーラ活動」の広がりが紹介されました。

浄土真宗の寺院の区分けである組をこえて活動が拡大。組をこえることで助成金を受けられないなどデメリットも当初あったものの、やがてそのような宗内の仕組みに縛られずに自由に活動できることがメリットになったのだとか。

従来の男性中心の仏教組織において、女性たちが主体的にネットワークを作っていくことは大きな意義があり、それによって女性たちも自身の信仰を表明できるようになったと指摘されました。

●大河内大博 グリーフケア―亡き人とともに生きる

本書制作に際して大河内さん自身の活動写真が一枚もない、ということからお話がスタート。グリーフケアなどケアの現場は決して第三者が入れるものではないこと、ケア内容は個別事例なので一般化できないこと、なので活動を支援する側の一人称で語るのではなく活動分野を俯瞰的にお話するという説明がなされました。その大前提こそが、ケアに関わる者にとって非常に大切なことだと感じました。

東日本大震災以降に臨床宗教師や臨床仏教師などがムーブメントのように起こったものの、ケアに携わる仏教は30年以上の歴史があり、その種まきがようやく実った結果。そもそも僧侶であるなら、必然的に傷ついた人に寄り添うことが求められるという指摘もありました。

社会から一線を画すのが僧侶であるが、ある時期は社会性をもって苦の現場に飛び込む必要がある、という意見には大きく納得させられます。

●曽田俊弘 食料支援と被災地支援―滋賀教区浄土宗青年会のおうみ米一升運動

浄土宗滋賀教区の「おうみ米一升運動」を始めた曽田さん、今も活動を支える傍ら、フードバンクびわ湖の理事長としても活躍。食を通じた支援の重要さに気づき、地域を巻き込んだ活動に尽力されています。

活動を始めたきっかけとして、研究分野での仏縁を感じたり、祖父母が自坊で始めた「季節託児所」の影響もあったり、大きな導きのもとであることを強調されました。その導きを大切に、愚直に感謝の気持ちを忘れずに活動することをお伝えくださいました。

お寺の食糧支援は「お寺版のフードバンク」と説明される機会も多いのですが、両方に携わる曽田さんが「どちらの食品も尊さに違いはない」ということに力強さを感じました。

●秋田光彦 NPOとの協働から、終活へ―應典院の20年と現在、これから

もはや説明も要らないと思われる應典院の歩みについて、阪神淡路大震災やオウム真理教事件やNPO法(特定非営利活動促進法)施行などの時代背景とともに紹介。「NPOとお寺の協働」と最初に提唱したのが應典院であり、その「NPOとお寺の協働」こそが「ともに生きる」ことであると指摘されました。

また、「葬式をしない寺」と宣言して始まった應典院が21年目になって「おてら終活祭プロジェクト」や「ともいき堂」などを始めた意義について、地域で増加する無縁仏の実態とともに説明くださいました。

それぞれのプレゼンの後、全員が登壇して座談会形式で「お寺が行う社会活動とボランティア団体が行うそれでは何が違いのか」「お寺という場の力」「お寺と地域」「檀家制度との関係」などが議論されました。時間が短くどのテーマも掘り下げるには充分でなかったものの、本書を読み解くヒントになるお話が聞けました。

お寺を舞台に社会を救う

ここ数年の終活ブームや仏教ブームと相まって、お寺の活動がテレビや新聞で紹介されるのを目する機会が多くなっています。しかしながら活動の細部まで解説されることは稀で、「お寺のちょっと変わった活動」くらいの印象に終始することも少なくありません。

一方で、東日本大震災以降お寺の公共性・公益性が指摘される機会も増えており、避難施設や備蓄品などの防災面に限らず、コミュニティの再生や精神的な寄りどころとしてのお寺の可能性に期待する向きも感じられます。

そのような現代において、本書は特に今注目される社会活動をいくつも取り上げ、活動内容を深掘りすると同時に他の活動との比較もしやすいという良書。新書サイズにコンパクトにまとめられながらも、活動実践者の言葉が多く掲載され、お寺が果たしうる役割を考えるのに役立つに違いありません。

ぜひ手にとっていただき、「お寺と協力して解決する」ことに希望を感じ、あなたにできることから行動に移していただくことを願っています。

桂浄薫

1977年、奈良県天理市・善福寺の次男として誕生。ソニーを退職後、2007年に僧侶となる。2015年、善福寺第33世に晋山し、和文のお経をオススメ。2014年から、おてらおやつクラブ事務局長を務め、お寺の社会福祉活動にコミット。1男2女1猫の子育てに励む。趣味はランニングと奈良マラソン。音痴と滑舌が課題。