今も昔もこれからも、お寺にとって必要なこと

福井県の浄土真宗の寺院の坊守(ぼうもり)をしている太子堂幹廣(たいしどう みきひろ)といいます。約7年前に、パートナーが住職をしているお寺に婿入りし、しばらく会社勤めをしていましたが、その後独立しました。

開業時のプランはいくつかあったのですが、今は「お寺のご縁帳 ガンジス」「顧客マネジメントソフト ガンジス」を企画・開発・販売しています。「お寺のご縁帳」は寺院向けPCソフトウェア、「顧客マネジメントソフト」は、幅広い業種向けのPCソフトウェアです。プログラミングは自分でしています。

「顧客マネジメントソフト ガンジス」https://ganges.pro/

「お寺のご縁帳」は、パートナーの住職の要望にもとづいて作成したシステムです。Excelで記録することに限界を覚えていた住職が、御門徒との交流の記録を楽に続けることができています。この交流を記録することが大切であって(この理由は後で触れます)、これを目的に開発したものです。

お寺の課題への一つの答え

多くのお寺も同じだと思いますが、自坊でも、行事に参加する人が毎年減っていき、今までと同じことをしていたのでは、お寺が成り立たなくなる危機感があります。何とかしないといけない、それには何をどうすればよいだろう、と考え住職とともに試行錯誤を積み重ねてきました。その5年ほどの実践の中で、私たちの進むべき道が明確になり、この道を歩む先にゴールがあると自信を得ました。

・お寺への信頼を確実なものにし、お寺を護持すること
・教えを伝え残していくこと

これらお寺の課題に対する1つの答えは、

檀家・御門徒と交流を深めること

です。お寺らしく言うと、ご縁を深めることです。

交流(ご縁)を深めることによってこそ、お寺への信頼が確実になり、お寺の護持に欠かせない支援や御布施が増え、教えを伝える機会が増えていきます。

住職と私は、御門徒とどのように交流を深めるかを考え、実践をしてきました。この記事でご紹介させていただく方法は、どれも自坊で実践している事柄です。

更に、記事の後半では、複数のお寺が協力することで、交流をより深めることができる新しい仕組みの提案があります。この記事をきっかけに、この新しい仕組みが成立することも、ささやかに期待しています。

そして、お寺の課題に「どうすれば良いか」と悩まれている方にとっての一助となれば嬉しく思います。

話を聴く

交流とは、相手のことを理解し、自分のことを知ってもらうこと。つまり、お互いに分かり合うことです。そして、相手を理解するには、相手の話を真剣に聴くのが一番の近道です。

つまり、傾聴をします。傾聴とは、相手の心によりそい、否定することはなく、話を真剣に聴くことです。自分から話をする必要はありません。とはいっても、お寺の御門徒との交流ですから、臨機応援で良いと考えます。ですから、聴くばかりでなく、住職も、控えめに、自分のこと、お寺のことを伝えています。また、無理に話をしてもらうのではなく、状況を見てその人柄や気持ちに合わせます。無口な方には、必要事項を丁寧に伝えるだけでも、話しかけてくれる場合もあります。

住職は昔から人の話を聴くのが上手なので、聴くことのスタイルは変わっていません。けれども、私は10年程前に傾聴するスタイルにがらりと変えました。それは、傾聴の大切さをキリスト教の宣教師から学んだからです。「相手の話を聴く」というのは「自分の話より、あなたの話の方が大切なんですよ」というメッセージ。こうした解説に、私は深く納得したものでした。

話を聴く場作り

住職と私は、傾聴を行える環境を整えて、御門徒のお話を聴く機会を増やすことに力を注いできました。例えばこのような時にできるだけコミュニケーションをとれるようにしています。

・行事の後に、お茶と御菓子を出して、みんなで話をする
・用事で来寺した御門徒に、玄関先でお茶を出し、簡単でも話を聴く
・お寺での法要(少ない人数の場合)の後、お茶と御菓子を出し、話を聴く
・お寺で行う習字教室の後に、お茶を出して、みんなで話をする
・おうちでの法要・お参りで、話を聴く

話を聴く時にはお茶も欠かせません。お茶は私の人生の一部でもあるので、できるだけ手間暇をかけていれています。真剣に取り組んだお茶は、人の心を揺さぶります。道具を揃える。美味しい茶葉を買う。正しく丁寧に淹れる。それで、とても美味しいお茶を淹れることができます。なんら難しいことはありません。

日本茶だけでなく、コーヒー珈琲・紅茶も揃えています。また、できるだけ、それぞれの人の好みの物・飲めない物を記録するようにしています。

習字教室は、御門徒から「習字を子供と一緒に習いたいのだけど、適当なところがない」というご要望にお応えしたものです。習字の先生に依頼してお寺まで来て頂き、月2回1時間、お寺の一室を無償で貸し出して開催しています。住職も子供と一緒に参加して習っています。そして、教室の後は、お茶を出して、みんなで話をしてもらっています。

話を記録する

さらにここからが大切なポイントです。話は聴いて終わりではありません。

1.次に会う時のため
2.手紙で話の内容に触れるため
3.法名をつける参考にするため
4.葬儀の際の法話で触れるため
5.未来の住職・御門徒のため

これらのために、住職は、だいたいその日のうちに、話の内容をできる限り漏れなく記録しています。記録をつけることで、1年に1回のみしか会うことの無い人でも、前回会った時の話に触れて話を深めることができます。また、住職は御礼の手紙を自筆で書いて送っていますが、その際にも、より具体的に相手に寄り添った手紙を書くことができます。そして住職は、お寺で御縁をつなぐことを大切にしています。御門徒と、過去帳にあるご先祖の話をすると、興味を持つ人が多く感じられます。100年後にはこの記録をもとに、今の御門徒の子孫とお寺の未来の住職が、「ご先祖はこうだったんだよ」という話ができるようになるといいな、と考えています。

記録する方法

話の内容を記録することは、住職にとって以前からの課題でした。もしかすると、同じような課題を持っておられるお寺も多いのではないでしょうか。

当初はExcelを利用していましたが、うまくいきません。Excelは表計算ソフトであって、データベースソフトとして利用するのは無理が多いのです。それを解決するために、私が開発したのが「お寺のご縁帳」です。

この「お寺のご縁帳」を使ってどのように記録しているのか、少しご紹介したいと思います。

連絡先・現在帳・過去帳・年回忌・中陰逮夜表の他、履歴・会費・御布施の記録を一覧で表示できます。スクロールするだけで確認できるので、前の記録を読みやすいのです。

画像のように、住職は細かく記録をつけています。また、話の内容のほかに、次はこうしようとか、うまくいった事を書いています。こうして、〈話を聴く→記録する→次回、話を深める〉という循環がきちんと出来るようになりました。また、記録に残ることで、坊守の私もそれを読んで、対応がしやすくなりました。お野菜を持ってきてくれている方には、私からも「いつもお野菜ありがとうございます」と御礼をしたりすると、さらに話をしてもらえます。お寺のスタッフ間でスムーズに情報共有が行えることは、とても重要なことだと気づかされました。

ヒアリングシートについて

御門徒が亡くなった後、ご遺族に確認することを、ヒアリングシートにまとめて聞くようにしています。聞き漏れがないようにするためです。たまに、普段使われていたお名前の漢字が、戸籍と違っているのが分かったりします。

CTIの活用例

他にも、PCを電話と連携(CTI)し、電話がかかってきた時に、御門徒の情報が表示されるようにしています。また、情報をスマートフォンのチャットアプリに転送し、外出先でも、どなたの電話かすぐに分かるようにしています。

スマートフォンに転送された着信情報

前もって分かるので安心して電話に出られますし、的確に対応もできるようになりました。電話対応は、一つ上の次元になりました。

寺報とニュースレター

以前より、寺報を年5回ほど送っていましたが、寺報の他、2年ぐらい前からニュースレターを追加して発行するようにしました。寺報は御門徒と縁故者にだけ送りますが、ニュースレターは御門徒以外にも、ご近所にポスティングをし幅広く配布しています。

ニュースレターの内容は、お寺のことや自分のことを知ってもらう、よりくだけた内容が多いです。「いつも読んでいます」という声を頂くことも増えました。

また、御門徒や読者にニュースレターに記事を書いてもらい掲載しています。継続して発行しているうちに、少しずつ記事を書いてくれる人も増えてきました。記事を書いてもらうと、その人の考えていることやどんな人生を歩んできたのかを、新しく知ることができます。充分に会う機会があって、話をしている人であっても、記事を書いてもらうと新しい一面を知ることができると気づきました。

話を聴く場を設け、相手を尊重し理解しようと努め、記録をし話をより深めていく。自筆で御礼状を書いたり、ニュースレターを発行する。このように交流を深めることで、私たちはお寺への信頼を得てきました。

お寺のコミュニティマネージャー

最後は、私からのお寺の皆さまへのご提案になります。

北陸は、浄土真宗が深く根付いたところで、お寺の他に、地域に「道場」と呼ばれる施設がありコミュニティの場となっていました。ただ、現在では徐々に「道場」は失われ、今も実際にコミュニティとなっているところはごく少数です。行事に参加する人も減り(世代交代で引き継がれない)で、多くのお寺のコミュニティは小さくなる一方です。コミュニティを再構築するために、多くのお寺が様々な方法で取り組んでいます。

そこで、コミュニティの新しい仕組みとして、お寺と、仏教・お寺に関心のある人を繋げる「コミュニティマネージャー」を置くことを提案します。
(ただし、お寺が地域に開かれたものにするかどうかは、それぞれのお寺の方針だと考えます)

お寺に興味・関心のある人は大勢います。けれども、地域のお寺は敷居が高いですよね。自坊にも、たまに見学・参拝したいという方がいらっしゃいますが、多くの人にとって、わざわざ玄関のチャイムを押してまでそうしたいか?となると難しいです。あるいは、お寺で何かできないだろうか、と考える人もいますが、どのお寺なら頼めそうか、さっぱり分からないというのが現状です。

「お寺のコミュニティマネージャー」は、この問題を解消するための役割を担います。

具体的には、幾つものお寺が集まって、1人か2人の「コミュニティマネージャー」のなり手を募集します。そしてマネージャーになった人は、コミュニティとお寺とを繋ぎ、寺院に関心のある人たちのコミュニティを盛り上げます。

マネージャーがいることで、お寺と関わりたい人、お寺で何かをしたい人が、個々のお寺と交渉しなくてもスムーズに活動できるようになるという仕組みです。

企業内で活躍するコミュニティマネージャーについては、以下の書籍をご参考にしていただければと思います。

1つのお寺が単独で1人のコミュニティマネージャーをおくのは、大寺院でなければ現実的ではありませんから、複数のお寺が集まって(あるいはお寺の団体が)、コミュニティマネージャーをおくと良いと考えています。幾つかのお寺の賛同をもってスタートし、小さくはじめ大きく育てることができるといいでしょう。マネージャーに連絡すれば、お寺で手作り結婚式を行えるようになると良いだろうなぁと思っています。

最後に

この記事では、自坊で行っている主な交流方法について記しました。

お寺の課題を解決するには、交流だけが答えではなく、他にも解決方法はあるかと思います。けれども、誰もが出来る易しい道は、交流(ご縁)を深めることです。交流を深めることを追究すると、その結果として、お寺の護持・教えを伝えることに繋がります。お寺は信頼を得、その信頼をもとにお寺への支援が増える。同時に、教えを伝える機会が増える。これは、今も昔もこれからも変わりません。そしてそのためには、ただコミュニケーションをするのではなく、それを記録し、次に活かすということも大切であると思います。

よく言われる喩えでは、スコップで穴を深く掘ろうとすると、穴の大きさはどんどん大きくなると言われます。交流もそれと同じです。交流を深めてゆくと、周囲を巻き込んでその交流の範囲は大きくなっていきます。

そして「お寺はそうした積み重ねの上に成り立っているものである」。私たちが交流を深めようと力を尽くす中で、そんなことを実感しました。

この記事が、ぜひ多くのお寺の皆様が、地域の方や御門徒の方との交流を深めるための一助となれば幸いです。

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