お盆も過ぎ、夏も折り返し地点ですね。お盆には故郷に帰られて、お仏壇にお参りをしたり、お墓参りをしたりされた方も多いことと思います。私の住む地域にはお盆参りの風習がないのですが、普段の月忌参りに、普段離れておられる家族がお盆だからと一緒にお参りされるお家もありました.
さて、そんな中で、お仏壇の前に座ると、ふと戸惑うことがあります。それは、お線香。お参りがあるからと、お仏壇を調えていただいているのですが、香炉にお線香が立ててある、ということが近年増えてきました。どうやら、お線香は立てて使うものである、というイメージがあるようですね。
確かに、お墓参りをする際にはお線香は立てて使います。あるいはテレビの旅番組などで、大きなお寺などに行くと、境内に大きな香炉があり、お線香を立てて煙を浴びる、というシーンがあったりと、お線香は立てることが一般的、なのかもしれません。宗派ごとのお線香の使い方を調べてみても、ほとんどの宗派が、お線香を立てて使うようです。
ところが、唯一、浄土真宗では、お線香を立てて用いません。香炉の中に寝かせて使うのが、浄土真宗での作法となっています。なぜ、真宗だけがお線香を寝かせて使うのか、私もとても不思議に感じるのですが、ちゃんとした理由があるそうです。
もともと、お線香というのは、供香(ぐこう)という仏さまへのお供えの一つです。これは尊い方に相対する時に、自分の体臭を消し、良い香りを届けることによって、敬いの気持ちを表すために行われるものでした。また、そのお香の良い香りというものは、その場にいる人に分け隔てなく行き届くものであり、仏さまの慈悲の徳を表すものとして尊ばれるものでもあります。
そしてお香は本来、香木を炊くことが始まりでした。次にはその香木を削り、粉にしたものが用いられるようになります。それが燃香と呼ばれるものです。燃香は、香炉の灰の上に、型をもちいて折れ線状に凹みをつけ、その凹の中に粉状のお香を入れて炊かれました。こうすることによって、長時間、お香を炊き続けることが可能になったり、時間の調節もできるようになりました。ちょうど蚊取り線香をイメージするとよいでしょうか。
お線香が登場したのは、江戸時代ごろとされています。燃香を固めて棒状にし、より使いやすいように工夫されたものです。ちょうどこの頃にはお仏壇も普及し始めました。お仏壇の香炉はお寺の香炉ほど大きくありませんから、このお線香を使うほうが、使い勝手も良かったことでしょう。そこで浄土真宗では、もともとお香は香炉に折れ線状に敷き詰めて用いたことに倣って、香炉に寝かせて使う、ということに決められたそうです。その場合、長いお線香をそのまま小さい香炉に寝かせることはできませんので、香炉の大きさに合わせて、1本のお線香を2つ〜4つくらいに折って使われます。
禅宗などでは、お線香1本が燃え尽きる時間を「一炷(いっちゅう)」とし、坐禅の時間を計ることに用いられたため、折って寝かせるよりも、立てて使う方が適していたのでしょう。そのように使い方の違いから、お線香を立てる、寝かせるの違いが生まれてきたのだと思います。
もちろん、間違った使い方をしたから悪いことが起こる、などと迷信めいたことはありませんが、できることなら、きちんと正しい形に則って、お参りをさせていただきたいものです。今年のお盆は過ぎましたが、またお彼岸や来年のお盆の際に、参考にしていただければと思います。