神さまの思し召しで出家した人/永運院住職 土肥真司さん

近所の絵本の会からアートパフォーマンスまで幅広くイベントを受け入れながら、やわらかな発想でお寺と自らの「宗教家」としてのあり方を追求する、浄土宗僧侶・土肥真司さん。今回は、土肥さんが僧侶になった風変わりな経緯から、現在永運院というお寺をどう生かしていきたいと考えていらっしゃるのかについて詳しくお話をうかがいました。

「神さまの思し召し」がありまして

僕は、このお寺を母方の祖父から受け継ぎました。実は、父は日本基督教団の牧師なんですよ。洗礼は受けませんでしたが、高校卒業までは毎週日曜日に教会に通っていましたし、青年会会長もしていたくらい。だから、大学に入る前に「お寺を継がないか」と言われるまでは、僧侶になることはまったく考えていませんでした。

でも、小さい頃から春、夏、冬休みは必ずこのお寺で過ごしていたので、おじいちゃんおばあちゃんのことが大好きやったんですね。「もしおじいちゃんが死んだら、おばあちゃんはここを出ていかなあかん」と言われまして、継ぐとしたら僕しかいないよなあ、と。坊主になるのにこんな言い方はおかしいけれど、「これも神様の思し召しかなぁ。坊主になれって言うたはるねんなあ」と思って(笑)。「じゃあお寺に入ります」みたいな感じだったのよね(笑)。

自然と「手が合わさる」という信仰のあり方

キリスト教の場合は、「個人と神様の契約」が基本になりますが、仏教の場合は「家の宗教」みたいなところがありますよね。「教会に行って神様の前で懺悔して」というような強い信念はなくても、町でお地蔵さんを見かけると自然と手が合わさるでしょう? 「そこに深い意味はあるの?」と問われたら、「いや、特に無いんやけど、そこにあったらつい手を合わせてしまうねん」くらいの感じやと思うんやね(笑)。それが面白いなあと思います。

「手を合わせる」ことは自然にしているのに、いざ宗教と向き合うとなるとすごく遠い存在として扱われてしまいますよね。毎日、仏壇の前でおじいちゃんおばあちゃんは「チンチン」てしはるし、みんなも実家へ帰ったら仏壇で「チンチン」てするやんって思います。お盆になれば「暑いなあ…」と思いながらお墓参り行って、「でも、その後のラムネがおいしいねん」とかね(笑)。それをずっと繰り返し経験してきた歴史があるのに、仏教の話っていうとみんなコチーンとなっちゃう。もっと気楽にお寺というところとつきあってほしいですね。

僧侶である前に宗教家としてありたい

宗派・宗教に真面目な人からは不真面目に思われるかもしれないけど、僕はこういう環境のなかで僧侶になったので、「○○宗の僧侶」とか「牧師」である前に、その人がまず「宗教家」であるかどうかが大事だと思っています。僕もまだ、いろんな勉強をしたり、いろんな人と話をして経験を積んでいる段階ですが、「宗教家としてどこまで何ができているか」ということは、一生模索し続けることになるんだろうと思うんですね。

話をするということでいえば、うちは檀家さんが立ち寄って話しこんでいったり、雑誌を見た人が「話を聞いてもらえますか?」と来られることもあるんですね。誰かの話を聞くときは、思いのたけを吐き出してもらうようにしています。自分の思いを誰かに伝えようとすると順を追って説明しなければいけませんし、そのプロセスで必然的に気持ちに整理がつきますよね。後は、その人自身が「がんばろう、こうしよう」という気持ちになれたらいいと思うんです。

僕はたくさんの人の前で話をするというのは苦手なんですよ(笑)。どちらかというと、個人的に「対話」をしながらその人の思いをいろいろ聴き出してあげて、最後に背中をトンと押してあげるのが大事なことやと思っています。大切なお話を聞かせていただくことは、僕にとってもいい経験になりますし、「話をする」というのはお互いに与え合うものだと思うんです。法話の上手な方はたくさんいらっしゃいますから、僕がムリにしなくてもいいかなと思います。

お寺という場所を「生かす」ということ

以前、雅楽をしていたのですが、ダンスとのコラボレーションで「モンペリエダンスフェスティバル」に行ったのがきっかけで、「Performing Art Network(PAN)」という団体に関わることになりました。ダンサーたちが「自分たちがやりたい創作活動をする場所がない」と言うのを聞いて、「じゃあうちのお庭でやってみる?」ということから、お寺の空間を使ったイベントをするようになったんです。今は、PANから派生したものや、持ち込みの企画でのイベントは続いていますが、PANのイベントは夏の「流しそうめん大会」と「冬の餅つき大会」だけです(笑)。

イベントをしていると「何か新しいこと始めはったみたいですね」と言われますが、「これはもともとお寺がやってたことちゃうかな」というイメージがあります。昔のお寺は地域の交流の場でもあったのに、だんだん法事のときしかお寺に来なくなったと思うんです。いずれ形あるものはみな無くなってしまうんやから、ここにある間にいろんな人に来てもらって、この場所でいろんなことを考えてくれたらいいと思います。

ここでパフォーマンスをするとすごく集中できますし、観客も自然にリラックスできるスタイルでいられます。さらに、観客とパフォーマーは非常に近い距離感で空間を共有することで、エネルギーが循環してすごくいいものが出来上がっていくんですね。それは、この空間でしか生まれないものですし、それもこの場所を「生かす」ということになると思います。だから、ここで何かをやりたいというお話があるときには、あくまでここは「場所貸し」ではなく、この空間とアーティスト、お客さんの三つが一体になって空間を作るということを意識してほしいということを最初にしっかり話し合うようにしています。

 

「うちの和尚さんに会いに行こう」と思ってほしい

イベントなどでここに来てもらうことで、まずは「お寺って空間として心地いいところだったんだなあ」ということを体験してもらいたいですね。そこで、仏教やお寺に対する敷居を下げてもらえると思うんです。たまに、「うちのお寺って法事のときしか行ったことないんやけど、今度何もないときに行ってみようかなあと思いまして。そんなん大丈夫でしょうかね?」って聞かれることがあるんですよ。そしたら「ええんちゃいますか。『ちょっとお話させてもらってもいいですか?』って都合を聞いて行ってみはったらいいよ。お檀家さんが来られたら、いろんな話してもらえると思うから」って言うんです。

そういうきっかけをお寺のほうから作りにくいけれど、檀家さんから来ていただけるならウェルカムやと思いますしね。ここに来てくれる人が「お寺ってもっと敷居の低いものなんだよ。もっとお寺に行ってみようよ」っていう気持ちになって、「うちの和尚さんに会いに行こうかな」と思ってもらえたらいいと、僕は思っています。決してここだけが特別な場所じゃないと思うからね。

■坊主めくりアンケート


1)好きな音楽(ミュージシャン)を教えてください。
平井堅、小田和正、キッサコ、槇原敬之、押尾コータロー、サラ・ブライトマン、ガーネット・クロウ、BOA、宇多田ヒカル、藤田麻衣子、川江美奈子

2)好きな映画があれば教えてください。
「存在の耐えられない軽さ」

3)影響を受けたと思われる本、好きな本があれば教えてください。
「聖書」ネタではありません。マジです。

4)好きなスポーツはありますか? またスポーツされることはありますか?
最近行ってないけどスキー、バイク、モータースポーツ

5)好きな料理・食べ物はなんですか?
カレーライス、イタリア料理、エスニック系全般

6)趣味・特技があれば教えてください。
キャンプ
(趣味になるのかどうか)最近、バイクで走るのが好きです。
(特技になるのかどうか)料理

7)苦手だなぁと思われることはなんですか?
たくさんの人の前で話をすること。一発撮りのテレビ取材。

8)旅行してみたい場所、国があれば教えてください。
日本(住職になってから旅行ができなくなったのでせめて日本をまわりたい)

9)子供のころの夢、なりたかった職業があれば教えてください。
車関係の仕事

10)尊敬している人がいれば教えてください。
ご先祖さん、プロフェッショナルな人

11)学生時代のクラブ・サークル活動では何をされていましたか?
混声合唱団(専門はポリフォニー、、つまりミサ曲ですね)

12)アルバイトされたことはありますか? あればその内容も教えてください。
会場整理、ラーメン屋、市場調査、その他

13)(お坊さんなのに)どうしてもやめられないことがあればこっそり教えてください。
お坊さんだからやめなければ。。。ってなものを意識したことがないのでわからないです。

14)休みの日はありますか? もしあれば、休みの日はどんな風に過ごされていますか?
一日終わったら、休みだったの繰り返しなので、休みがないともいえる。

15)1ヶ月以上の長いお休みが取れたら何をしたいですか?
バイクで日本一周、家族で旅行(国内)

16)座右の銘にしている言葉があれば教えてください。
特にないですが、なんとなく思いつくのは「和顔愛語」かな。

17)前世では何をしていたと思われますか? また生まれ変わったら何になりたいですか?
回答なし

18)他のお坊さんに聞いてみたい質問があれば教えてください
回答なし

 

 

プロフィール

土肥真司さん/どひ しんじ
1966年生まれ。同志社大学文学部文化学科哲学専攻卒業。1994年に晋山、永運院住職に。舞台芸術の活性化をめざすNPO団体「Performing Art Network(PAN)」を主宰し、お寺の空間と芸術のコラボレーションにも取り組む。4人の娘に愛されるやさしい父でもある。

永運院

天正19年(1591)創建。浄土宗大本山 紫雲山くろ谷 金戒光明寺の塔頭寺院。浄専院(天正4年/1576年開創)、妙蓮院(慶長14年/1609開創)の二つの塔頭を合併したため、本堂には三ヶ寺のご本尊・阿弥陀如来を安置する。本堂と唐門と表門は京都府登録文化財。通常拝観はなし。

京都市左京区黒谷町33 fax: 075-751-6311
mochi-shomenlive あっとまーく hotmail.co.jp
京都市バス 岡崎道バス停徒歩10分(203、204系統、32など)

お坊さん、地域で生きる人、職人さん、企業経営者、研究者など、人の話をありのままに聴くインタビューに取り組むライター。彼岸寺には2009年に参加。お坊さんインタビュー連載「坊主めくり」(2009~2014)他、いろんな記事を書きました。あたらしい言葉で仏教を語る場を開きたいと願い、彼岸寺のリニューアルに参加。著書に『京大的文化事典 自由とカオスの生態系』(フィルムアート社)がある。