図書館で新着図書を見ていると面白そうな本を発見! 早速キープして子どもの絵本も借りて帰宅すると、書棚に同じ本が・・・しばらく前に買ったのをすっかり失念していました。こんなに目立つ黄色い表紙なのに(笑)
「さてどちらを読もうかな」なんて思案しましたが、それはどうでも良いくらい、一気に読んでしまいました。ノンフィクションの説得力と小説のような複雑な家庭環境、さらに相続問題をのぞき見するようなワクワク感があります。相続問題の成り行きが一番興味をそそられたのですが、それはプライバシーの関係で詳細は明かされず結論のみ。それでも本書がお坊さんにとっても一般の方にとっても決して他人事ではなく、いつ直面するか分からないリアルな問題を綴った一冊であることに違いはありません。実家から離れて暮らす働き盛りの人が身内の死に直面した際に感じる複雑な感情、葬儀やお寺に関する疑問、慣習やしきたりへの違和感、兄弟間の温度差など、試行錯誤しながらも真正面から取り組んだ足跡が詰まっています。
物語は、著者の朝山さんが父親を亡くしたところから始まります。訃報を電話で聞いた朝山さんは、実家へ帰る新幹線の中で父親の戒名を考えました。その戒名でお葬式を出したいと菩提寺の住職に相談すると「何を企んでおられるのか知らんけど、そんなおかしな話は聞いたことがない」と恫喝されます。結局お葬式は葬儀屋さん紹介の同じ宗派のお坊さんにしてもらうことになりましたが、それを皮切りに次々と問題が噴出してきます。
・四十九日や初盆のお参りはどのお寺さんに頼むか?
・初盆とは別に先祖のお参りは元々の菩提寺に頼むか?
・それぞれのお布施の金額は?
・元々の菩提寺との檀家関係をどうするか?
・先祖の墓をどうするか、兄弟の誰が継承するか?
・父親の遺骨をどうするか、家に置いていて問題ないか?
・仏壇をどうするか、兄弟の誰が継承するか?
・位牌をどうするか、戒名はそのままで良いか?
・遺産相続でモメる「争続」、兄弟の関係悪化
・死後の事務処理が大変、戸籍謄本などによって初めて分かる事実もある
著者はライターなのでこの経験をもとに『週刊朝日』に連載すると、予想以上の反響がありました。賛否両論の意見があふれ、それをキッカケにいろんな人を取材することに。
・僧籍を持った葬儀屋さん
・副住職の立場を追われ、裁判するも敗訴した人
・お坊さんの派遣会社をクビになった人
・海外生活が長く、先祖の墓を移した人
・お坊さんの寮の個室
・山中に修行寺を建設中のお坊さん
・相続問題に詳しい税理士、弁護士
・島田裕巳さん(宗教学者『戒名は、自分で決める』著者)
・橋爪大三郎さん(社会学者『なぜ戒名を自分でつけてもいいのか ブッダの教えから戒名を考える』著者)
というように見どころの多い内容となっています。最初は書名のように「自分で戒名をつけたらどうなるの?」という興味から始まり、お寺とのややこしい(?)アレコレ、次に遺産相続の行方、いろんな立場の人の話から見えてくる現実、という具合に興味が移り、飽きさせません。
お坊さんは一般の人の率直な気持ちを理解するのに役立ちますし、お坊さん以外の一般の人はノンフィクションとしても実用書としても楽しめると思います。お寺のことをもっと知りたい人は参考文献もご参照を。
葬式仏教と言われる今の日本仏教、そして死にまつわる諸問題について考えるキッカケとなりますので、ぜひご一読ください。戒名について皆さんはどう思いますか?
(桂浄薫)