『お坊さん便』のお坊さんにインタビューしてみた

第三回では、お坊さん便と提携してくださっているお坊さんがどのような方なのか、わたしたちが知る事例を引きながらご紹介しました。今回は、具体的なお坊さんの生の声を通じて、もう少し深く「お坊さんから見た『お坊さん便』」についてお伝えしてみたいと思います。

実は先般、『お坊さん便』は日本最大級の寺社フェス『向源2019』(5月4〜5日開催)に初めてスポンサーとして協賛させていただきました。ご存知ない方のために簡単にご紹介しますと、『向源』とは、若手僧侶やボランティアの方が中心となって運営しておられるお寺を舞台に開催される、お祭りのようなイベントです。宗派や宗教を超えて、神道や仏教を含む様々な寺社文化を体験できるイベントが出展されています。たとえば今年は、天台宗の声明、⽇蓮宗の⽊剣加持、真⾔宗の太⿎が共演する「声明公演」、参加者⼀⼈⼀⼈が⾃分と向き合う伝統仏教の修⾏体験、お寺で精進料理を味わう体験など多数のコーナーが設置され、お寺・仏教・日本文化に触れようと大変多くの方がご来場されていました。

向源2019 声明公演での様子

このコンテンツの中に、来場された方が15分間お坊さん・牧師さんとフリーテーマでお話することができる「お坊さん・牧師さんと話そう」という人気コーナーがあります。このコーナーに『お坊さん便』も協賛。提携のお坊さんにボランティアを募り、参加していただきました。

今回は、「お坊さん・牧師さんと話そう」に参加されたお一人にインタビューさせていただき、ご自身の背景や『お坊さん便』に対する見方、『向源』に参加した感想などをお伺いしました。ご協力いただいた方は、兵庫県で真言宗のお寺のご住職をされている男性のお坊さん。ご友人で同宗派の女性のお坊さんとボランティア参加くださいました。


Q. お坊さんになった経緯を教えてください 

お坊さんになるなんて全く思ってもなくて、もっと遊びたいという一心で大学を選んだら、たまたま高野山大学になったんです(笑)。

子ども時代、あまり真面目な方ではなかったし、勉強ができる方でも無かったので、学校の先生に相談したら、「高野山大学なら受かるんじゃないか」と言われたのがきっかけでした。

ただ、入学する際には、「お寺の保証人を立てる必要がある」と言われたんです。実家は建設業で寺族ではなかったので、近くのお寺に相談すると、「じゃあお寺に入りなさい」と言われました。両親も「いいことじゃないか」と特に反対もしなかったので、ずるずるとお坊さんになっていきました。結局、大学時代は遊ぶ暇なんてありませんでしたね。

Q. 卒業後はどうされたのでしょうか

卒業した後も8年間は高野山に籠もって修行していました。ただ、そろそろ山を降りようと思ったときに師僧に相談すると、「一度社会を経験したほうがいい」という言葉をいただき、サラリーマンを8年間ほど経験しました。

その後、師僧のお寺に入り、2年ほど住職としての勉強をさせていただきました。育ちがお寺ではないため、お寺を運営する知識がまったくなかったんです。その後、自分のお寺を持ちたいと思い、自宅を改築してお寺を開き、12年ほど経ちました。

Q. 『お坊さん便』を知ったきっかけは何でしょうか

一からお寺を作ったので、布教活動が重要だと思っていろいろと取り組んでいたのですが、お寺の周りにお住まいの方には菩提寺がある方が多く、教えと縁が遠い人と接する機会が足りないと思ったんです。すでに、他のお寺とお付き合いがある方を取り合うわけにはいきません(笑)。そこでなにか方法はないかと考えてインターネットを見ていると、『お坊さん便』というものがあることを知ったんです。

Q. 『お坊さん便』と提携した決め手があれば教えてください

さきほども言った、お寺とお付き合いの無い方々とお話できる機会になりそうだ、という思いに加えて、珍しい考え方かもしれませんが、「1回ごとのお付き合い」という仕組みが気に入りました。

なぜかというと、私は寺族出身ではないこともあり、住職としての跡取りを持とうと思っていないんです。もちろん誰かが「このお寺を継ぎたい」と言ってくださるならお願いしたいとは思っていますが、わざわざそのために子どもを持って継がせるのは何か違うと思っていて。そうすると、あまり多くの方に檀家になっていただくと困ったことになるんです。世代を超えた末永いお付き合いをお約束できない訳ですから。

ですから無理に関係を縛ることなく、1回ごとにお付き合いをしていく仕組みの方がお互い都合が良い、となります。同じお考えのお坊さんは多くはないかもしれませんが、これも一つのお寺のあり方だと思っています。

Q.  『お坊さん便』でご出仕をしてみていかがでしょうか

一言で言うと、とても楽しいです。仏教と縁が遠い方も多いので、どのようにお話すれば興味を持っていただけるか、考えて工夫をしていく過程にやりがいがある感じです。

いきなり仏教、密教の教義の話をしても、大半は眠そうな顔をします。ですからわたしの場合、世間話から、仏さまや弘法大師の言葉を紹介して、そこから法話を広げていくような話し方が多いです。特に、お亡くなりになった後どうなるのか、その世界はどうなっているのか、という話にふれると、関心をもっていただける事が多い気がしますね。

Q. 『お坊さん便』で戸惑ったことや、ご自坊の檀家さまとの違いがあれば教えてください

戸惑った思い出は全くありません。どんな方が相手でも、法要のときは「自分の空間にしていくぞ」と思っているので、特段変わりませんし、ご利用者様のお仏壇を見ても、遜色なくしっかり丁寧にお祀りをされているので、菩提寺がないといっても気持ちは変わらないと思います。

Q. 『お坊さん便』のご縁が継続した、という経験はありますか

「1回ごとのおつきあいが気に入った」とは言いましたが、いつもお会いする際には、次に繋がるよう心がけています。その場の振る舞いやお話が良かったかどうかを示すわけですから。ですから、一周忌もお願いしますという形で繰り返し依頼をいただくと嬉しいですし、そういう方も多くいらっしゃいますね。

Q. 『お坊さん便』のメリットとデメリットはありますか

『お坊さん便』だから特別、ということは特にないと思っていますが、一方で損をすることは無く、いろいろな意味で得る物が多いと思います。これは別に儲かるという意味ではありません。そういう方は『お坊さん便』は逆にやらないんじゃないでしょうか。

少し困っていることといえば、日程を指定した依頼が多いので、他の予定との調整が大変になることがあります。もう少し時間調整の余裕をもらえると嬉しいです。

Q. 『お坊さん便』と提携していることに対する周囲の反応はありますか

自坊にかかわってくださっている方は、「わたしがやりたいならやったらいい」とみな見守ってくれています。一方で正直な話、他のお寺のお坊さんは、面白くないと思うのか、たまに邪魔をするような事を言われることがあります。ですからあまりペラペラと話すようなことは控えていますね。

Q. 今回、『向源』というイベントに参加してみていかがでしたか

いろいろな地方からお坊さんが集まっていたのが面白かったです。それぞれの地域のお寺のしきたりを教えてもらったりしました。同じ宗派であっても、お経や節が違ったりして、勉強になりました。

また、多くのお坊さんが副業を持っていたのも興味深かったです。芸人さんだったり、パフォーマーだったり、漫画家だったり。自分もなにかできないかと考えてみたいと思いました。

来場された方とは、7組ほどお話させていただきました。近所の方の礼儀が悪い、挨拶が無い、といった日常のお悩みが多かった印象です。「うちの子、霊が見えると言うんですがどうしたらいいでしょうか」なんてご相談もありました。その方には、「体質といったものは、あなたがどうにか出来るわけではありません。ご出家されるという手もあります」という返事をしました。

基本的には、人間としてのコミュニケーションですから、仏教の話はあまり出していません。15分というのは意外と短くて、もう少し話したい、という方も多かった印象でした。

向源2019会場 五百羅漢寺

Q. 『向源』で得た刺激があれば教えてください

お坊さんが一斉に集まって迫力もありましたし(笑)、多くのお坊さんたちが、お寺を活気づけたいと試行錯誤しているのだというのが実感できました。私は神戸から来ましたが、新潟から来たお坊さんの話を聞くと、やはり地方なのでお寺経営に大変苦労されていて、私はまだ都市部にいる分楽なのだな、と知りました。

仏の教えが衰えないためにも、少しでも多くの方に振り向いてもらえるようお寺は努力をしていかなければならないし、困っている方は世の中にたくさんいます。ですが、お寺と社会の関わり方が限られている。それが問題だと思います。もっとやれることがあると思うので、わたしも考えていきたいと思います。

Q. お坊さんの役割は今後どうなっていくと思われますか

僧侶になった頃にはほとんど無かった「直葬」がどんどん増えてきています。家族葬が流行って久しいですが、「直葬というものがあって、選択してもいいんだ」という傾向すら出始めたので、これはもう戻らないと思いますし、きっと、そのうちお坊さんが要らない時代が来る、とも思います。

流れはしょうがないことではありますが、出来ることはしようと思っています。例えば、檀家さんが直葬をされる際には、「前後」に拝ませてくださいね、とお話しています。直葬の場合、炉前で読経ができる時間は10分と言われたりしますが、体感では本当に一瞬です。炉前読経をした際に、ご遺族は「これで終わりなの?」という驚いた顔をされることも多くあります。

ですから、霊安室を出る前にも拝ませていただく。それだけでもかなり印象が変わります。こうしたことを地道にやっていくしか無いと思っています。


今回は、『向源』というご縁を通じてお話する機会を持った提携お坊さんのリアルなお声をご紹介させていただきました。お話の中でも特に「1回ごと」という仕組みがお坊さんにとっても意味を持つ、という点は、わたしたちも気づいてなかった事で、大変驚きました。わたしたちとしても現状提供している仕組みにとらわれる気は無いのですが、一方で既存のお付き合いの形では対応できない、現代的なニーズに即した新しい形を探っていく必要はやはりある、と感じました。

ちなみに今回『向源』の東京代表を務められており、わたしたちのスポンサードを受け入れてくださった嶋田一成さんより、イベントを終えての所感をいただいていますので、この場を借りてご紹介させていただきます。

私たち寺社フェス向源は、体験型のイベントというかたちで「寺社文化・日本文化・伝統文化に触れる体験を通して、自分の中にある大切なものを見つめ直す」をテーマとして開かれた場を提供してきました。
この向源2019で、お坊さん便に提携するお坊さん達には「お坊さんと話そう」という、「お客さんとお坊さんがトークをする。けれど、お坊さんは特定のお寺・宗派の布教活動はしてはいけない」というシンプルだけど難しいコーナーに挑戦してもらいました。
お客さんたちも「その場限りの15分だからこそ話せる・相手がお坊さんだから・笑わないで聴いてくれるだろうから話せる胸中」を吐露してくれることが多いです。自分でも正体がわからない心の中のモヤモヤを、自分の言葉で表現してみる。すると自分が何で悩んでいるのかがわかる事がある。それだけでスッキリした顔で帰って行かれる人も多いです。
今年の「お坊さんと話そう」は例年にも増して和やかな雰囲気のコーナーを生み出すことが出来た、と感じています。これはお坊さん便に提携するお坊さん達の、「今を生きている人達にとって仏教が施与するものは大きいと感じ、日々一般の方と仏教・お寺のご縁を結ぼうと努力する皆さんの日々の積み重ねの賜物であったと思います。(嶋田一成)

『向源』のように、仏教に対する社会の関心を高めたり、新しい関わり方を模索する取り組みは少しずつ増えています。また、その意味では『お坊さん便』も同じ方向に向かっています。その両方に関わってくださったお坊さんがまだまだ「お寺と社会の関わり方が限られている」と感じられたのは必然かもしれません。

新しい形の模索が必要な状況がある。それが間違いないのだとしたら、まずわたしたちに出来ることは、その状況を分かりやすく提起することではないか。そこで次回は、『お坊さん便』というサービスを通じて見える仏教界の今後の課題について考えてみたいと思います。

お葬式、ご供養などの前後に起きるライフエンディングのさまざまな問題を解決しようと取り組んでいるベンチャー企業『株式会社よりそう』において、広報、およびお坊さん手配事業を担当しています。