明日5月5日は子供の日。ということで、彼岸寺でも「仏教と子供(子育て)」の記事をお届けしてみます。が……
この世を謳歌するように新しく輪廻してくる子供たち。
根本的にはこの世を「苦」と捉え、輪廻からの脱却を目指していく仏教。
仏教と子育ては、そもそも相容れるのでしょうか。仏教と子供や親子は、何か関わっていけるのでしょうか。子育て中の方も、そうでない方も、「仏教と子育ての共通項」と言われて、何か思いつくことはあるでしょうか?
今年2017年1月14日、東京都杉並区にて、とても興味深いイベントが行われていました。
子育て講座「受容的かかわりを学ぶ」
「受けとめちゃえば、いいんだよ」受容のエキスパート2人に学ぶ「叱らなくていい子育て」
“僧侶”と”保育士”による、子育て講座! 対談あり瞑想ワークショップあり盛り沢山の4時間、今日はその一部をレポートとしてお届けします。
最初は『怒らなくていい子育て』等の書籍でママパパからの信頼を集める保育士、「保育士おとーちゃん」こと須賀義一さんのお話から始まりました。
保育士おとーちゃんの子育て論で最大のキーワードが「包括的受容」。長所も短所もひっくるめて全てを受容する、ありのままを肯定する。
「『個性の尊重』というのは、ネガティヴな面こそ『あぁそうなんだね』とありのままに受け入れることです」「その子のネガティヴな面に触れて『直さなければ』『正しくしなければ』としてしまうのは、本当は(個性の)否定ですね」
本当は誰もがもっともっと失敗したっていい。しかし「現代は、失敗しないよう先回りするための躾やお膳立て等、過干渉な子育てがデフォルトになっている」と須賀さんは話します。「それは育ちの影響=生育歴。環境の変化で、過干渉にならざるを得なかった高度成長期の親世代があったから」。
そこにはまり込まないためには「ただ、気づけばいい」。育ちの影響すら否定するのではなく、今の自分はこうなんだな、と、ただ気づけばいい。その後で少しずつ「視点を変えて子供を見てみる。例えば『まだ40点……』と見ていたのを『10点増えたんだね』と見てみるとか」
会場はお子さま連れも大歓迎で、子供たちの笑い声に泣き声、賑やかなお喋りが飛び交っています。
次に登壇したプラユキ・ナラテボーさんは、タイで出家得度されたという稀有な経歴を持つ日本人僧侶さんです。彼岸寺を読まれている方はすでにご存知の方も多いかもしれませんね。
(参考: 【インタビュー】彼岸寺に期待を寄せるタイの日本人僧侶、プラユキ・ナラテボーさん | 仏教なう)
なんと、プラユキさんのお母さんは保育士さん。「須賀先生のお話を聞いていて自分を振り返らされました。母の受容的かかわりのおかげで、日本人としては特殊な生き方、自分の道を歩めたのかな」と実感のこもった言葉も飛びだし、何だか微笑ましくなりました。
「仏教の真骨頂として『よき縁と為す(なせる)』があります」。それぞれ違う種を持つ子供たち、そこに土があって雨が降って太陽が照らして……こういったすべてが「縁」、関係性でひとつの結果がうまれていく。その縁を、例えば……渋い柿をもらって「いらない」とするのか「光にあてて干し柿にしよう」とするのか……。
よき縁と為すために大事なのは、まず「気づくこと」。
「気づくこと、仏教では『無明を自覚する』と言います」「逆に、ある行動パターンにはまり込んでしまうことを仏教で『執着』と言います。我を忘れている状態。これではダメだダメだと否定的に『反応』するのでなく、自分を客観的に見て『対応』していくことが大切です」
ふむふむ……大事なのは気づくこと……客観的に……視点を変えて……
ん!?
何だか、須賀さんとプラユキさんのお話と、同じテイストを感じませんか?
「実は、執着から離れて『いまここ』に気づく、あるがものをあるがままに見ていく練習が、瞑想なんです」。そのあと実際に行われた瞑想ワークショップ、親子の皆さんに何か変化はあったでしょうか。
途中途中に挟まれたお二人のやりとりも、とても興味深い内容でした。
例えば、「子供の成長を信じて待つ、親が子供を信じるためのコツは何かあるのでしょうか?」というプラユキさんの質問に対し、「自分のこれまでの受容に自信を持ってほしい」、と須賀さん。
「なるほど、つまり『自己信頼が大事』ということなんだな。それで相手も子供も信頼できる」
子供を信頼するために、親である自分自身を信頼する。自己信頼とは「自分の弱さを出せる」自己肯定感。「自明灯=自分自身をよりどころにせよ」というブッダの遺した言葉は、親子にも有効かもしれません。
つまり、仏教は、子育てにも有効?
そういえば、ブッダだって、「思うようにならない生、この世は苦だ」と言いつつ、自死を選ぶことなく「ではどうやって苦と向き合って生きるか」。そのために、自分の身体を虐めてみたり誘惑されてみたり集中してみたり……で、新しく生み出したのが「あるがものをあるがままに信頼しよう」だったわけで……。
「仏教と子供」「仏教と子育て」、今後もっともっと繋がっていく可能性が感じられました。
生きるための仏教。
気づき、ありのまま受容すること。子供を、親を、自分を、世界を信頼すること。
「仏教とは、利他の抜苦与楽。自分も他者も、親も子供も、私も、共に安らぎや幸せを与えられる、そのための教え、その方法論です」(会にてプラユキさん談話)
ちなみに、このイベントを主催された櫻井京さんは「お二人の書籍を読んでそれぞれ『受容』という共通項を深く追求されている姿を感じ、自分自身がそんなお二人のコラボレーション講演を聞きたかった」と、個人で企画されたそうです。すてきですね!
彼岸寺でも引き続き「仏教と子育て」といったキーワード、取り上げていけたらと思います。面白い情報ありましたら、どうぞお寄せください。