七尾旅人×U-zhaanにちょっぴりインタビュー!『極楽パンチ2012』レポート(後編)

新潟・小千谷 極楽寺の『エコマーケット』と『キャンドルナイトライブ』のイベント『極楽パンチ』レポート後編です(前編はこちら)。今回は、七尾旅人×U-zhaanによるキャンドルナイトイベントのレポートをお届けいたします。

 

風船とキャンドルに彩られた幻想的な本堂へ

太陽がすっかり沈んだ頃、本堂に上がると宙に浮かぶバルーンアートを色とりどりのキャンドルが照らし出す幻想的な空間が待っていました。誰もが一瞬息をのみ、席を取ることも忘れて立ちつくしています。

実は、この美しいキャンドルは、お寺で仏前に点すロウソクの燃え残り1670本をリメイクしたもの。まず、『極楽パンチ』のスタッフが黒くなった芯や蝋を削ってキレイにすると、キャンドルアーティストの馬場一樹さんがそれを新しいキャンドルへと再生させているのです。これらのキャンドルには、「人もモノもつながりあって循環していく本当の豊かさ」に向けた、極楽寺の麻田さんの思いが込められています。

みんなが少し落ち着いた頃、七尾旅人さんが登場。甘く、やさしく、透きとおる声で歌いはじめたのは「圏内の歌」でした。この曲は、昨年の4月から七尾さんがライブだけで歌い、アルバムには未収録(新作に収録予定)です。でも、ネットの映像などを介して、多くの人が口ずさむようになりました。私も、ライブで聴くのは初めて。一つひとつの言葉が流れ込んできて、胸がいっぱいになりました。

七尾さんひとりで4曲を歌った後、いよいよU-zhaanさんの登場です。

七尾旅人の歌声の上でりU-zhaanのタブラが踊る!


※バルーンアート×キャンドルナイトライブの本堂のようす

U-zhaanさんは、「今回は車で来たので」と6個ものタブラを用意。見ているだけでテンションが上がります。さて、タブラのチューニングが終わると「あらわれて」「春雷」を演奏。つやつやしたギターの音にどこまでも軽やかなタブラの音が合わさっていくのはみごとと言うほかありません。

七尾さんが「小室みつ子さんのニコ生で歌って以来」という、TMネットワーク「Be Together」フィッシュマンズ「ナイトクルージング」というレアな選曲の後は、誰もが聴きたいあの名曲「どんどん季節は流れて」から「ローリンローリン」へ。座布団の上ではありますが、揺れる背中たちが熱く盛り上がっていました。

最後の一曲は、U-zhaan × rei harakami 『川越ランデヴー』。U-zhaanさんの淡々とかわいた語り口に、七尾さんが歌うせつないサビが重なります。アンコールは、七尾さんの新作アルバムタイトル曲「リトルメロディ」、「お寺ライブのために作った」という「お釈迦さまでもわかるまい」を演奏。みんなで「なむあみだぶつ」を一緒に歌ってライブは終了!です。

ミュージシャンはお寺LIVEをどう感じているんだろう?


※準備中の本堂のようす。

ライブの途中、七尾さんがこんなことを話していました。

「近ごろ、世代の近い若い和尚さんたちが昔のようにお寺で人を楽しませ交流させたり、教えたりする場を復活させようとしていてよく呼ばれる。最初はちょっと緊張したけど、お寺だからこそ、くつろいでいいし、和やかに笑っていいんじゃないかなと思うようになってきて。お寺でこうして皆で楽しもうとすることは、近代に入ってからのお寺とは違うのかもしれないけど、200年や300年前のお寺とは、もしかしたら、近いかもしれない」。

そういえば、お寺LIVEに出演する人たちの話はまだ聴いたことがありません。「せっかく新潟まで来たんだし!」と勇気を奮い起こしてインタビューを申し込みましたよ!

そして、U-zhaan×七尾旅人インタビュー

——ライブおつかれさまでした! 突然、インタビューをお願いしてすみません。おふたりは、お寺でのライブをどんなふうに感じていらっしゃるのかを聴いてみたくて。七尾さんは、さきほどMCで「最初は緊張したけれど、今はかえってリラックスできる」というふうにおっしゃっていましたね。

七尾:最初はやっぱり「お寺でやらせてもらっていいのかな?」と思って、選曲もかなり気を使ったんですよ。僕たちって、基本的に俗っぽいことというか、いわゆる煩悩を歌う場合が多いじゃないですか? 食欲、色欲、睡眠欲とか……よくわかんないけど(笑)。欲から無縁でいられない職業なので、どんな歌を歌ったらいいのかなあと思っていたんですけども、いろんなお寺に行くうちに「お坊さんにも煩悩はあるんだ」と思って(笑)。

——あはは(笑)。最初のお寺ライブはどちらだったんですか?

七尾:富山の善巧寺さんの『お寺座LIVE』。善巧寺の雪山さんは素晴らしいお坊さんで、彼のことはすっごい尊敬しているんですけど。『お寺座LIVE』って、全国からいろんなお坊さんが集まってきますよね。

——「読経隊」のみなさんですね。

彼らと話すうちに、何の遠慮もいらないんだなって思って。みんな、愛すべき人たちで、自分の友達なんかと一緒だなあという感じになったので、2回目からはあまり気を使わずに選曲もしています。あ、でも、お客さんはお年寄りや子供も来たりするので、そこは意識してますね。

U-zhaan:ふだんと違って、いろんな年齢層の人が来てるよね。

七尾:そうそう。MCでも言ったけど、200年、300年前のお寺に戻っている、戻りたいっていう部分があるんじゃないかと思っていて。今の時代は、ローカルな共同体がどんどんつぶされているじゃないですか? そうなったときに、何百年もそこでみんなを見守ってきているお寺ってそれだけですごい説得力があるから。

若いお坊さんたちが、僕たちみたいなミュージシャンを呼んでくれるなら、それだけでステキだし。村で、おじいちゃんと子どもが「もじゃもじゃ頭の人面白かったね」「カッコよかったね、太鼓!」って話が弾んじゃったりして。それだけでも、その地域がちょっとイキイキしてくるんじゃないかな。

——U-zhaanさんは、もう『極楽パンチ』は5回目の出演だそうですね。

U-zhaan:最初はインド音楽で呼ばれたんですけど、弘潤(極楽寺のお坊さん)とすごい仲良くなって。翌年も連絡が来て「誰か好きな人を連れてきていいからやってよ」と言われたんですよ。それから毎年来ています。

——今年は”宇宙で一番の親友”の七尾さんを連れてきて。

U-zhaan:そうそう。あとねえ、僕がお寺で演奏していて一番いいなあと思うのは、畳だよね。畳の上で坐って見るって、日本人には一番楽なスタイルだと思うんだよね。すごいしっくりくる。

七尾:音もいい。急あつらえのPAだったりするんですけど、木の響きがいいんですよ。

U-zhaan:あっ、そうだ。「これから七尾さんとU-zhaanさんは、お寺ツアーをブッキングしようと思っている」って書いておいてよ。ほんと、お寺ツアーとか行きたいよね。

七尾:行きたい、行きたい! お寺にバッチリだったでしょう?

——バッチリでしたね。

七尾:僕、『Twitter』始めて、最初にやったことがお坊さんだけのリストを作ることだったんですよ。

——ほ、ほんとに!?

旅人:興味があったんです。だから、僕もライターだったらお坊さんのインタビューしてたかもしれない。「ホントのところはどうなの? 煩悩だらけじゃないの?」とか、一人ひとりに聴いてみたい。

——そんなこと、質問したことないですけど(笑)。

U-zhaan:前にさ、あるお寺でライブ終わった後に「いやあ、素晴らしかったですね。さきほど演奏されていた楽器はシンセサイザーですか?」って聞かれてさ。

七尾:わはは(笑)。ちょっと輪廻の回数が足りなかったね、その人は。

U-zhaan:かと思えばさ、80歳くらいのご住職とその奥さんが「あなたの出している『ムンバイなう』という本はどういう意味なの?」「それはお前、俺たちの言葉で言うと『ボンベイにいる』ってことだよ」って会話をしてたりとか。

七尾:すごいなあ。ほんといろんなお寺があるよね。

U-zhaan:お寺ってさ、名前も面白いんだよ。漢字で見ると意味深いんだけど、音だけ聴くとちょっとビックリするというか、ヘンなことを想像しちゃうような……。

七尾:わはは(笑)。ちょっと、湯沢くんの目がきらきらしはじめてるよ! まあ、だんだん、お寺でもこんな話をしていてもいいんだな、とかコツがつかめてきて。仏教の人は、基本的に寛容なところもすごく好きです。

——ありがとうございました。おふたりの音楽を大切に思っておられるお寺の方から、良いオファーがくるといいですね!


お寺のライブでは、ミュージシャンの肉声が届く距離で「落ち着いて」聴けるのがいいところです。「もっと前で見たい!」と争うこともぜんぜんなく、みんなで畳の上にぺったり坐って。

そんな風景を愛してくれるミュージシャンがいてくれるのは、彼らの音楽を愛する私たちにとってもしあわせなことだし、七尾さんが言うとおり、音楽という縁でお寺とその地域の人が結ばれていくのもステキです。

またいつか、どこかのお寺で、あるいは『極楽パンチ』で、七尾旅人×U-zhaanに出会える日を楽しみにしていたいと思います。『彼岸寺』では、ちかぢか極楽寺の麻田弘潤さんインタビューを『坊主めくり』に掲載予定。こちらもどうぞお楽しみに!

U-zhaan オフィシャルサイト
2012年7月30日、恵比寿リキッドルームで「100%ユザーン vol.3」開催決定。出演はyanokami、小山田圭吾、mabanua and more!

TAVITO.NET(七尾旅人オフィシャルサイト)
2012年8月8日、ニューアルバム『リトルメロディ』発売予定!『圏内の歌』『リトルメロディ』など、『極楽パンチ』で演奏された名曲も収録とのこと。

お坊さん、地域で生きる人、職人さん、企業経営者、研究者など、人の話をありのままに聴くインタビューに取り組むライター。彼岸寺には2009年に参加。お坊さんインタビュー連載「坊主めくり」(2009~2014)他、いろんな記事を書きました。あたらしい言葉で仏教を語る場を開きたいと願い、彼岸寺のリニューアルに参加。著書に『京大的文化事典 自由とカオスの生態系』(フィルムアート社)がある。