お浄土で記念撮影も!? 仏さまとの距離がグッと近づく『極楽浄土AR』体験レポート

新潟・小千谷の極楽寺住職 麻田弘潤さんから「“新しい仏具”を開発したのでぜひ来てください」とメッセージをいただいたのは5月末のこと。

「“仏具”って、お仏壇まわりにあるおりんやお線香立てのこと?」と思いきや、なんとiPadを用いた『極楽浄土AR』と聞いてびっくりしました。

「AR」は「Augmented Reality」の略で、現実にある環境をコンピュータによって拡張する技術。『極楽浄土AR』は、浄土真宗寺院のお内陣(御本尊がおられる場所)に埋め込まれた極楽浄土のモチーフを、ARによって“拡張現実”として体験できる“新しい仏具”として開発されました。

これはおもしろそう!というわけで、一年ぶりに極楽寺にお参りすることにしました。

お内陣という“極楽浄土”に行ってみよう

新潟・小千谷の極楽寺は400年もの歴史あるお寺。19代目住職の麻田弘潤さんは、消しゴムはんこ作家の津久井智子さんとのユニット『諸行無常ズ』でも活動する、「消しゴムのお坊さん」としても知られています。

2018年11月に発売された「気になる仏教語辞典」も人気です。

極楽寺に着くと、前住職の麻田秀潤さんが笑顔で出迎えてくださいました。「面白いものがあるから見に行きましょう!」とさっそく本堂へ。前住職もなんだか『極楽浄土AR』にノリノリのようです!

iPadを収納しているのは和デザインのオリジナルケース。

ご本堂にお参りすると、障子のような不思議な箱がありました。薄く透けて見えるのは電源……? どうやらiPadが仕込まれているようです。

「こうやって欄間の龍に向けてぐるぐる動かすと出てくるんですよ」「ほんとだ!龍が飛び出してきましたね!」とわいわいやっているところに、外出していた麻田さんが帰ってきました。

麻田さん「こうやって『極楽浄土AR』をかざして見ているみなさんに、『龍は仏法を守っているんですよ』と後ろから話しかけるんです。すると、これまでは本堂の風景でしかなかった欄間の龍にすごく存在感が出てくるんですよね。『へええ!』となったところで、『お内陣は極楽ですから、行ってみましょう』とお内陣にご案内します」。

いつも見ているけれど、お内陣のディテールまではよく知らないかも…?

「内陣」とは、お寺の本堂のなかでも御本尊を安置している場所。一段高くつくられていて、「お坊さんだけが上がる特別な場所」「許可なく入ってはいけない」というイメージがあります。

麻田さん「お参りしていただくときに、仏さまとの距離がありすぎると思うんです。お内陣は『すべての人を救う』と言われている、阿弥陀さまのおられる極楽浄土を表しています。もっと気軽に上がっていただいて、お浄土を感じていただきたいですね」。

たしかに、お内陣に上げていただいて物理的な距離が縮まるだけで、なんだか阿弥陀さまに親しみの気持ちが湧いてきました。

阿弥陀さまは360°どこからでも来てくれる

「お坊さんはあまり気づいていないけど、阿弥陀さまのことを『お釈迦さまだと思ってた』という人、けっこう多いですよ」と麻田さん。『極楽浄土AR』は思わぬ誤解を解くことにも一役買っているようです……。画面上のアイコンをタップすると、光り輝く阿弥陀さまがどーんと現れました。

なんと!阿弥陀様との記念撮影もできてしまいます

麻田さん「阿弥陀さまは光の仏さまと言われています。この光は救いの光で360°届くのでどんな人も救ってくださいます。また、『如来』さまは『来てくださる』仏さま。みなさんは、修行をして悟りに『行く』って思うでしょ? でも阿弥陀さまは救いに来てくださるんです。『極楽浄土AR』では、阿弥陀さまだけはどの方向から見ても正面から来るように設計していただいています」。

仏花のあたりに見える蓮のアイコンをタップすると、赤・青・黄の蓮の花が次々と花開いていきました。心地よい水の音も響いてきます。

もちろん、こちらでも記念撮影できます。極楽感高い!

麻田さん「蓮の花の色は白じゃなきゃいけないというわけではありません。僕らの世界では、理想を求めたり、良い/悪いを判断しようとするけれど、この蓮の花が咲いている阿弥陀さまのお浄土では、赤、青、黄とそれぞれの色でいいんですよ、とお伝えします」。

前卓に彫られた「共鳴鳥(ぐみょうちょう)」や天蓋の「飛天(ひてん)」、お軸のなかの「親鸞聖人」。お内陣のなかを改めて知って行くと、極楽浄土への想像力がググッと広がっていきます。

極楽浄土にいるという、頭が二つある共命鳥という鳥。
「あらゆる命がつながり、相互関係の中で存在すること」を教えてくれます

麻田さん「『極楽浄土AR』ができてから、法事のときには『こういう世界に、みなさんのお父さんやお母さんは救われているんですよ』とお話してから、お勤めをはじめるようにしています。すると、お経を読む時間が『極楽浄土に思いを馳せる時間』に変わってきたんです」。

お軸から現れた親鸞さんは、阿弥陀さまの元へと歩んでいかれました。

法事に参加する若い人の表情が変わってきた

『極楽浄土AR』でお内陣を見ていると、今までなんとなく見ていた荘厳のディテールについて、「これはなんだろう?」と素朴な疑問がたくさん湧いてきます。また、画面を一緒に見ながら、ごく自然にご住職に質問できるのも良い感じです。

麻田さん「みなさんの質問に順番にお答えしていると、けっこうモタモタ進むんですよ。タブレットを使うARというとデジタルで最先端なイメージを持たれるようですが、実際にはすごくアナログ感があります。今までのご法事よりもずっと対話するようになりますしね。何よりも、若い人たちの表情が変わりました」。

『極楽浄土AR』というツールを持ち込んだことによって、大人も子どもも自分なりの極楽浄土をイメージするようになります。すると、どうしても「寺の主と家の主とのコミュニケーション」になりがちだったご法事が、よりフラットなコミュニケーションの場に変化しはじめたのです。

ふと振り返ると、大正時代の小千谷の雪景色が!

麻田さん「動かせないと思っていたものが動くというだけで、本堂という空間の見え方が変わりますよね。ご法事の時間の経過も早く感じられるようです」。

『極楽浄土AR』は、「見えないものを見えるようにする」ツールではありません。目の前にあるのに見えていないことを「見る」ためのツールなのです。なんだかそれって、阿弥陀さまの教えにもちょっと似ているような気がしませんか?

●『極楽浄土AR』に関するお問い合わせ
https://techpla.com/products/gokurakujodo_ar/

<体験について> 
極楽寺 新潟県小千谷市平成2丁目5−7
kkoojun@gmail.com
0258‒82‒7622

<コンテンツについて>
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techpla‒info@bbmedia.co.jp
03‒6712‒5011

お坊さん、地域で生きる人、職人さん、企業経営者、研究者など、人の話をありのままに聴くインタビューに取り組むライター。彼岸寺には2009年に参加。お坊さんインタビュー連載「坊主めくり」(2009~2014)他、いろんな記事を書きました。あたらしい言葉で仏教を語る場を開きたいと願い、彼岸寺のリニューアルに参加。著書に『京大的文化事典 自由とカオスの生態系』(フィルムアート社)がある。