彼岸寺の開祖でもある松本紹圭さんの、最新の翻訳本。
紹圭さんがその内容に惹かれ、著者であるローマン・クルツナリック氏に「日本語で出版させてください」と直談判したことで世に出たといいます。
「日本には既に発達した長期思考が根づいていると思っていたので、翻訳の申し出をいただいたときは驚きました」「200年以上の歴史を有する世界企業の56%が日本の老舗であることはご存知かと思います」——興味深い、著者と翻訳者の対談動画。
帯のオードリー・タンさんの発言にも目を惹かれます。
これからの人類にとって、最も重要な問いは何ですか?
「どうしたら、よき祖先になれるか、ということです」——オードリー・タン
さらに興味をかきたてられたのは、先祖供養に軸を置く日本仏教のあり方、いわゆる葬式仏教に、これまで疑問を呈してきたように見える松本紹圭さんの以下投稿です。
ここ最近の思考と行動の行き着いた場所を文章にまとめました。
— 松本紹圭@グッド・アンセスター (@shoukeim) August 30, 2021
死者の民主化|松本紹圭 @shoukeim #note https://t.co/tbyNP3VqDn
日本仏教の先祖供養しかり、ネイティブアメリカンの7世代思考しかり、目に見えない人々をこの世界に現前させ、今を生きる私たちの意識とつなぐ技術は、世界中の伝統的な宗教やスピリチュアリティの伝統文化の中に、見出すことができる。関連したアイデアは『グッド・アンセスター』の本の中にもたくさん登場するので、ぜひ読んでみてほしい。
https://note.com/shoukei/n/nacbb21deab4d
え…… 先祖供養への、大いなる敬意を感じます。
「(祖先崇拝の視点から)遠ざかろうと走り出したけど、一周回って出会い直してしまった、みたいな感じ? 仏教の本ではないけれど、(この『グッド・アンセスター』を)読んでみると、出会い直しの背景がわかるかもです」
(紹圭さん談)
一周まわって出会い直し……!!! これは読みたい……!
一周回って出会い直す「日本仏教の先祖供養」
「今、ここ」。
このフレーズを聞くたび、仏教が脳裏をよぎります。
「ああすればよかった」と過去をくやんだり、「こうなるかなぁ」と未来を心配してしまう私たち。過去や未来を見つめて湧きおこる悩みや苦しみ、でも、過去はすでに目の前になく、未来はまだ見えていないもの。ブッダの言葉や坐禅など、これまで仏教をとおして「目の前にある『いま』を見つめることの大切さ」を教わってきた気がしています。
ところが、この書籍では
歴史上、「今」が最も重要であると信じるこの短期思考こそ、最も支配的で、かつ緊急に対策を講じなければならない観念の一つだ。
『THE GOOD ANCESTOR グッド・アンセスター わたしたちは「よき祖先」になれるか』
バッサリ斬られるのです!
気になった方はぜひ書籍をめくっていただくとして、自分の感想は……
「仏教の『今ここ』は未来と過去の線上である前提を踏まえてこそ成り立つのかもしれない。これまでそこを考えなくても特に問題にならなかったのは祖先崇拝の価値観が社会にあったおかげだろうか」
(詳しい方からの反論も募集します)
仏教では、すべての生き物の相互関係、普遍的な慈悲の心、カルマと輪廻などの概念が、強力な自然保護の倫理の基盤を作り、現在の世代と将来の世代のつながりを提供している
『THE GOOD ANCESTOR グッド・アンセスター わたしたちは「よき祖先」になれるか』
「短期思考から長期思考へ」のヒントは仏教もその一つと語られます。それ以外に、これまで世界で行われた長期計画、今注目したい活動、国家や政治の方向、学校などの取り組み、ストーリーテリングの力などが展開されていく本書。
知っておきたい情報を網羅的に読むことができ、経済成長、環境問題、政治、文明、哲学、社会学……関心がある方に読んでほしい一冊です。
出版記念オンラインイベント「Good Ancestor Meeting」
2021/10/15(金)20時からZOOMで開催された本イベント、参加させていただきました。
前半は、出版した経緯と本書の内容について、紹圭さんご本人から解説。
“How can we shape the social norm and build the infrastructure to encourage all the participants to become better ancestors.”
オードリー・タンさんの回答全文です。英語では「Good Ancestor」ではなく「Better Ancestors」。当時、どちらも「よき祖先」と翻訳しましたが、「Good」と「Better」では、示すものが大きく違ったかもしれないと今、感じています。西洋と東洋の基本的な価値観もあるかもしれません。
「Good/Bad」の判定があるのか、「そもそも全てはGood」を前提にBetterを目指すのか。
本には載りきらなかった部分、出版後の思考の深まりを聞けて、興味深いひとときでした。
その後、それぞれ「先人から受け取っている恵みをできるだけたくさん」「その恵みをもたらしてくれた『よき祖先』」を思い浮かべ、グループごとにシェアとディスカッション。
おぉ、ディスカッション……!
「あなたが先人から受け取っている『恵み』は何ですか?」
(この章は飛ばしていただいて構いません)
ここで、イベント参加時の自分の状況を振り返らせてください。
なんと私はこの日、夫婦喧嘩からの初・家出ウィーク最終日でした。喧嘩の詳細は横におき、家族全員に目的と行き先を伝えた上での「お母さん初めての家出」。
オンラインイベントが始まる時間、家族が寝静まったら戻ろうと家の前まで来たものの、まだみんな元気に起きています。どうしよう。とりあえずスマホで視聴しながら夜道をウロウロ散歩して……
こんなに落ち着いていない状況で、グループディスカッションが幕を開けたのです。
私だけが焦っている横で、「命」「食べ物」「自然」「アニミズム」「技術」「哲学」「ことば」など、グループ内で「恵み」の言葉がどんどんシェアされていきます。
夜道は暗く、参加しようとするたび乱入してしまう車や電車の音。どこか落ち着ける場所が必要だと、耳半分になりながら必死で周囲を見渡していた、その時。
近所のお店のテラス席が目に止まりました。「ここでZOOMしてて良いですかー」声をかけると「いいよ!」速攻の快諾、さらに店内に偶然知人がいて「一杯おごるよ~」
飲み物まで確保、安寧すぎる地。これでディスカッションに専念できます……
そのとき、ハッと気づくことがありました。
自分が先人から受け取ってきた恵みは、これら「愛」だなと。
ドタバタが日常茶飯事な自分、心折れずに生きていられるのは、こういった愛のおかげ。家出で気持ちを整理できたのも、家族や友人知人の愛のおかげ。子連れのお母さんに「可愛いけど大変ですよね」とつい声をかけてしまうのは、先人の誰かも自分に声がけしてくれたから。そこに感じた愛を自分も真似してつないでいきたいのは、これらの愛を「恵み」と感じて受け取ってきたから。ストンと腑に落ちました。
もしかしたら「ことば」だって——その人を知りたい/伝えたい、愛があるから?
もしかしたら「哲学」の発展だって——この世界を解明したい、愛があるから?
自分の中で「恵み」の回答が花開いている間に、グループごとの発表が行われていました。
(グループリーダーお騒がせしました🙏 的確なまとめ、ありがとうございました❣)
余談ですが、後日、友人に「恵み」の問いを投げたところ
『失敗』かなぁ。
『失敗した経験』こそ先人の恵みだと思うなぁ。
この回答も、とても貴重なものに思います……。
グループディスカッション、みんなで「恵み」に向かい合い、共有し合える尊さを感じました。
さて、レビューに戻ります。
宗祖を「唯一のグッド・アンセスター」から「マイ・グッド・アンセスター」として語り直す
自分たちの宗祖や教えを「これが唯一」とするのではなく、「私にとっては」と語り直すことで、私たちみんなで「よき祖先とは何か」に向き合っていける。紹圭さんの提案です。
浄土真宗本願寺派光明寺の僧侶である松本紹圭さん、今度11/7(日)には日蓮聖人報恩会式(日蓮宗)のトークイベントに登壇されるとのこと。
11月特別浄心道場「受け取った恵みに目を向ける」~報恩感謝を伝える日~
https://peatix.com/event/3035623
「グッド・アンセスター」のキーワードが、仏教に、そして私たちの社会にどんな変化をもたらしていくのでしょうか。今後も目が離せません。
「今ここ」は先人の恵みを未来に渡す線上にある
あなたが感じる、「先人から受け取っている恵み」は何ですか?
その「恵み」を後世に伝える「よき祖先」になるために、私たちができることは?