世襲こそ強み? AERA世襲の特集記事をブックレビュー

わが家の新聞は昔から朝日新聞と奈良新聞。地方新聞の奈良新聞で真っ先に訃報欄をチェックしてしまうのは職業病として(笑)、主要なニュースは朝日新聞で確認しています。さらに数年前からはAERA(アエラ・朝日新聞出版)も愛読しています。新聞と雑誌の中間として位置付けられた比較的マジメな週刊誌であり、世の中のトレンドを面白おかしく、かつあまり品を落とさずに編集されています。

そんなAERA最新号(2014年5月26日発売)に気になる特集記事を発見。「ファミリービジネスから世界へ 世襲こそ革新を生む」と大きく見出しを付けられたその特集は、なかば世襲が当たり前となった私たちお坊さんにとっても非常に興味深いものでした。

世襲と言えば最近はマイナスのイメージで語られることが多く、お寺やお坊さんに至っては堕落や衰退の元凶とさえ指摘されます。「そもそもお坊さんの結婚が認められていることが間違い」とも「明治政府がお坊さんを世俗化させて権威を削ぐ狙いがあった」とも議論されています。本当にお坊さんが堕落してお寺が活力を失っているかどうかは別にして、世間のお坊さんを見る目は世代を下るごとに「崇高な聖職者」から「一般人とそう大差ない職業坊主」へと変化しているのではないでしょうか?

良く言えば「一般人と変わらずフレンドリー」、悪く言えば「坊主丸儲け、一般人より強欲」。ちょっと悪く言い過ぎましたかね。ともかくイメージの変化の根底には世襲に対する冷ややかな思いがあるように感じます。「大した信仰心も持たないまま、親のすねをかじりながら僧侶の資格を取って、なんとなくお坊さんになったんでしょ?」と心の中で思っていそう・・・私の被害妄想でしょうか。

近年、企業でも「世襲は腐敗の温床」「世襲が会社を潰す」「マンネリ、ワンマン経営に陥りやすい」などと敬遠されてきました。そんな中で逆を突く今回の特集、既読スルーするにはもったいないのでレビューしますね。

「日本を代表する企業も世襲で受け継がれてきた」として挙げられているのは、トヨタ自動車、キヤノン、サントリーHD、ワコールHD、スズキ、ミズノ、YKK、イオン、パナソニック、武田薬品工業。そうそうたる顔ぶれですね。それらの大企業ばかりでなく、中小企業や農家・酒造業でも世襲の強みが語られます。印象深いフレーズを拾い上げてみると、

「とかく負のイメージで見られがちなファミリー企業だが、昨今は世界規模で、その強さが研究されている。実は世界の7割の会社がファミリーによって所有・経営されていると言われ、流通大手のウォルマート、アパレルのZARA、家具大手のイケアもファミリー企業だ」

「日本でもトヨタ自動車やサントリーは言うに及ばず、95%もの企業がファミリービジネスと言われる。高度経済成長期に創業した企業は、そろそろ2世、3世に交代する時期。いかにファミリービジネスを円滑に継承していくかは、日本経済の明日を左右するのだ」

「自分の働く意義を最大化できるのが、ファミリービジネスの強さ。いまは自分の分身が仕事であり、会社だと思っています」

「家業に仕事とプライベートの境目はない。その分、日常の言葉の端々から、父の仕事や姿勢を理解できる」

「お客さんを通じて父が培ったものが見える。それはプレッシャーではなく、苦境を乗り越える強さにつながっています」

なるほど世襲ならではの伝統と革新、受け継ぐべきものと断行すべき変化の両方が大切との指摘です。お寺もデータはありませんが、おそらく過半数が世襲でしょうし、しかも何十年・何百年と続く老舗です。お金儲けという意味ではなく、経営・運営としてファミリー企業から学ぶところも多いと感じました。

大人気ホテル「星のや」を運営する星野リゾート代表の星野佳路(ほしの よしはる)さんが「”いい経営者”だけを修行僧のように目指してきた」と仰っています。敏腕経営者の口から「修行僧」という言葉が出てくるのも面白いですが、経営と修行に相通じる部分があるのかも知れませんね。

「未来の住職塾」でも度々指摘されるように、これからのお寺運営は経営感覚も重要です。お寺運営においても修行においても、外部環境や内的要因を分析して行動につなげるというマネジメント力が必要となっています。そういう意味において、私たちお坊さんも「”いいお坊さん”を経営者のように目指していく」のも大切なのではないでしょうか。

以上、巻頭特集では世襲のプラス面が語られていますが、それだけで終わらないのがAERAの取材力。続いて「世襲ニッポン深まる現実 政治家、官僚・司法、スポーツ、タレント…」「権力世襲 親子で最高裁長官」「親の階層を子どもが継承」「始めるより受け継ぐ難しさ」と、世襲のマイナス面も盛り沢山です(笑)

その中にお坊さんが入っていてもおかしくありませんが、幸か不幸か今回は入っていませんでした。詳しくは誌面をご覧くださいね。

桂浄薫

1977年、奈良県天理市・善福寺の次男として誕生。ソニーを退職後、2007年に僧侶となる。2015年、善福寺第33世に晋山し、和文のお経をオススメ。2014年から、おてらおやつクラブ事務局長を務め、お寺の社会福祉活動にコミット。1男2女1猫の子育てに励む。趣味はランニングと奈良マラソン。音痴と滑舌が課題。