2月4、5日と、西本願寺にて「スクール・ナーランダ Vol.1」が開催されました。これから未来をつくる10代、20代の若者に向けた、お寺での新しい学びの場がどんな様子だったのか、レポートしていきたいと思います!
まず今回の「スクール・ナーランダ」が開催されたのは、京都・西本願寺。浄土真宗本願寺派のご本山で、国宝に指定された御影堂(ごえいどう)を始めとした、多くの文化財をもつ京都の名刹の一つです。そんな本願寺に、認知科学、アート・広告、文化人類学、そして音楽という4つの分野の第一人者と、2人のお坊さんを迎えて、実に豪華な学びの場が展開されていきました。
■非公開の文化財を巡る本願寺ツアー
快晴の京都・本願寺に集まったのは、19都府県から14歳から29歳の約60名。これから一体どんなことが始まるのか、期待に満ち満ちた雰囲気でスタート。まずは、本願寺の二つのお堂、阿弥陀堂・御影堂をお参りし、普段は非公開の書院、そして飛雲閣を、お坊さんのガイドと共に巡る本願寺ツアーから「スクール・ナーランダ」は始まります。
薄暗い阿弥陀堂で、まずは御本尊の阿弥陀仏にお参り。国宝にも指定される荘厳な雰囲気のお堂の中でガイダンスがあり、ほどよく気持ちの高まりもクールダウンした後、もう一つのお堂、御影堂へ。
その移動の間、大きなお堂の縁側を歩いていると、さっそくお坊さんの解説がはじまります。足元の縁板をよく見てみると、そこかしこに、周りとちょっと色の変わった部分が見て取れます。しかも、山(富士山?)だったり、瓢箪のようだったり、中にはハートの形のものまで。これは埋め木と呼ばれるもので、木材が収縮・膨張をして亀裂が入ったり、穴が空いてしまった部分を補強するためのものなのだそうです。実に粋で、遊び心たっぷりの職人さんの心意気に出会えたことで、参加者の皆さんにも自然と笑顔が生まれていました。
縁側から大きな渡り廊下を渡ると、今度は御影堂。浄土真宗の開山・親鸞聖人のお木造が安置されるお堂です。阿弥陀堂も大きいですが、さらに一回り大きい御影堂は、700畳以上の広さで、200本以上の柱が使われているという、とんでもない大きさ。大きすぎて遠近感もおかしくなるようで、それほど大きく見えない「見真」と書かれた額も、3畳分もある大きさなのだとか。現在のお堂は17世紀に建てられたものだそうですが、重機もない時代にこんな大きな木造建築が建てられたことに驚嘆の声があがっていました。
二つのお堂を後にして、今度は本願寺の書院と呼ばれる建物へ。この書院は、かつては参拝者をもてなすために用いられた「鴻の間(対面所)」と、ご門主がオフィシャルな賓客を招く際に用いられた「白書院」の二つの顔を持つ建物。その二つの他、「黒書院」と、現存する最古の能舞台「北能舞台」など、書院の中に7つもの国宝、そして重文に指定される「南能舞台」と、まさに文化財のオンパレード。建物の歴史的価値だけでなく、その内部を彩る襖絵や欄間、天井などの美しさといった美術的価値も素晴らしく、随所に施された工夫も見どころの一つ。例えば、「南能舞台」の背景に描かれる松の木は、明るい廊下からではあまりよく見えないのですが、その向かいにある「鴻の間」に入るとあら不思議。見えにくかった松の木が、暗い室内からはっきりと見えるようになるではありませんか。なんでも光の加減をしっかりと計算に入れて、あえて暗めの色彩で松が描かれているそうです。さらには「鴻の間」の作りも、広く感じられるようにと、柱の間隔を奥に行くほど狭くしたり、上段の床に描かれる障壁画は逆遠近法と呼ばれる技法が用いられるなど、様々な工夫が施されています。他にも国宝「雁の間」では、欄間に掘られた雲の隙間から、隣の「菊の間」に描かれた月が見えるなど、本当にいろいろな趣向が凝らされていて、見事としかいいようがありません。
書院の次は、またまた国宝に指定される「飛雲閣」と「唐門」を見学。金閣、銀閣に並ぶ京都の三名閣の一つといわれる「飛雲閣」は、直線と曲線が上手く取り入れられた独特の佇まいで、かつては池から船を使って出入りをしたという、実に遊び心に溢れた建物。現在も親鸞聖人のご誕生を祝う5月の降誕会(ごうたんえ)の際にお茶席に使われているのだとか。もう一つの「唐門」は、豪華絢爛な装飾が施された門で、そこに彫られた麒麟が、キリンビールに描かれた麒麟のモチーフになっていることでも知られています。
そんな隅々に凝らされた様々な工夫や言われを、お坊さんによる丁寧でわかりやすい解説を聞きながら、参加者の皆さんも熱心に見学していました。建築に興味がある、とおっしゃっていた参加者の女性は、これだけの細やかな工夫が施されていることに、本当に感動したとお話をくださいました。また、ツアーに一緒に参加していたお坊さんと会話が弾む様子もあり、とても和やかな本願寺ツアーでした。
■ランチは精進料理のお斎(とき)で!
本願寺をぐるっと巡ってお腹が空いたところでお楽しみのランチタイム。なんと今回用意された昼食は、報恩講などの法要時や、お坊さんとなる際の得度式の時などに饗されるという、特別なお斎と呼ばれる精進料理。浄土真宗と言うと、お坊さんでもお肉やお魚を食べても良いというイメージがありますが、今でもしっかりと精進料理の文化が残っています。
お料理を提供してくださったのは、創業150年の老舗「矢尾治(やおじ)」さん。肉魚を使わないだけでなく、五葷と呼ばれる香りの強い野菜を使わないなど、しっかりと精進料理の心を守りながら、丁寧に作られたお料理を準備してくださいました。
滅多に見られない精進料理とあってか、参加者の皆さんもとても興味津々。美しく配膳されたお料理を目で楽しみ、そしてしっかりと舌で味わう。どのお料理もあっさりとしながらも、しっかりと素材の美味しさが引き立たされていて、そこかしこで「美味しい!」という声が聞かれました。また初めて触れる、浄土真宗の「食前の言葉」、「食後の言葉」とともに味わうことで、普段よりも丁寧に「食事をいただく」ということが意識されたひとときとなっていたようでした。
(授業編1に続く)