リヴオン・尾角光美さんに聞く (前編) : 死者にたむけるお花の意味

一般社団法人リヴオン・代表理事の尾角光美(おかくてるみ)さんは、「グリーフ(悲しみ)から希望をつむぐ」をテーマに、全国で積極的なグリーフケアの活動を展開されています。そして、活動を進められる中でグリーフケアに取り組むお寺とのご縁が近年深まっています。
尾角さんだからこそ見える、お寺の悲しみを癒す力や可能性についてお話しをうかがいました。

尾角光美さんプロフィール:
19歳で母を自殺により亡くす。あしなが育英会で病気、災害、自殺、テロ等による遺児たちのグリーフケアに携わる。自殺予防や遺族のケアに関して、全国の寺院・宗派、自治体、学校などから講演、ワークショップに呼ばれること多数。2009年一般社団法人リヴオンを立ち上げ『102年目の母の日』(長崎出版)編著。毎年母を亡くした人に母の日を届ける。同年自死遺児支援スタート。昨年寺院とNPOの協働を表彰する浄土宗第5回「共生・地域文化大賞」において「共生優秀賞」受賞。リヴオンは死に直面した誰もが、必要とするサポートにつながる社会の実現を目指している。

一般社団法人リヴオンを立ち上げた経緯

【井出】
今まで色々と話してきていますが、てるみん(尾角さんの愛称)がやってきたことを体系的に聞いたことないので今日は楽しみです。まずはリヴオンを立ち上げたきっかけや経緯から聞かてください。

【てるみん】
最初は任意団体で、母の日プロジェクト(※1)を続けるために生まれた団体でした。
団体での活動を行なっていく中で、社会的起業という文脈に出会ったことが大きいです。
遺児や遺族、大切な人をなくされて方にグリーフケアを届けることを考えた時、確実にける仕組みをつくる団体としての社会的信頼が大切であり、より多くの人が関わりすい形が必要だということに気付きました。
活動を拡げていくためには資金も必要です。多くのお金を集めて社会に循環させていくために、私という一個人ではなく、法人という器で活動をしていくことが必要だと思いました。法人となることで、支えていただいている方もより応援しやすくなると思いました。

【井出】
法人にしたことによって具体的に変化はありましたか?

【てるみん】
経済界、教育界で活躍されている方やNPOの現場で長く続けてこられた方々にも理事に入っていただけました。寄付の形も法人になったことで多様化しました。自殺でご友人を亡くされた方がWebSiteを見て、その方の遺品整理をした結果残ったお金をご寄付くださる等、今までつながったこともないような方とのご縁も生まれました。
そして、何よりも一法人の経営者になったという私自身の意識の変化が大きかったです。
理事をはじめ、顧問の税理士の先生と相談しながら事業計画を作るようになりました。
経営者には、継続的で受益者にとって本当に価値ある形に事業を整えていくことが求められますし、寄付者や支援者の気持ちに応えていく必要があります。
また、法人化したことで、周囲から「本気でグリーフケアをやっていくんだね」というまなざしで見られるようになったことも大きな変化です。
それ以前は尾角さんはどうやって食べているの?大丈夫なの?とよく心配されていましたが(笑)。
周囲がひとつの仕事として当たり前に捉えてくれるようになりました。

【井出】
「本気だ」という覚悟が周囲に見えるのはとても大切ですよね。

【てるみん】
取組んでいることを事業化していく覚悟が出てきました。それは、ボランティア活動は違います。グリーフケアはボランティアというイメージが強いのですが、アメカのダギーセンター(※2)の研修を受けたことで意識が大きく変わりました。
ファンドレイジング(資金調達)や研修、講演を通じて法人を収入をしっかり確保して、それを遺児支援に循環させていくのが当たり前なんだと知りました。例えば、NPOでも運営の担い手の中心になる人は年収600万円をもらうのも通常のことなんです。だからこそ、継続的にしっかりとした支援ができる。
日本のNPOやグリーフケアの分野ではお金を得ることがあまりよくないという考えがまだ根強いですが、その既存のあり方を捉え直すことができました。


【井出】
法人になったからこそできたなという取り組みは何ですか?

【てるみん】
昨年11月に開催した『ダライ・ラマ法王と若手宗教者100人の対話〜悲しみから希望を紡ぐ The Power of Compassion〜』(※3)はその一つです。開催にあたっては経費にかなりのお金が必要だったので、目標の協賛、寄付額に300万円を掲げました。その高い目標は、個人ではとうてい取組めなかったと思います。理事やこれまでの支援者の皆さんに説明し、バックアップしていただいたことで責任感も生まれました。

【井出】
個人で活動していた時にはなかった、背中を押してもらえる理事の存在で構想やできる取り組みが広がったことが大きかったのですか?

【てるみん】
大切なのはDoing(すること)よりもBeing(あり方)でした。
私自身のあり方が変わりました。何か大きなことを思いついた時、自分ひとりのアイデアではないからこそできます。
「代表」という肩書にも表れていますが、私がたまたま「代」わりに「表」に立っているという感覚です。「私」というただの一人称では大きなことをなしえないと思っています。社会の大きな願いや意思を引き受け、それを自分が代わりにやっているという意識が強くなっています。
代わりに立って物事を進めるためにリヴオンという法人がありますし、そのリヴオンに多くの人が関わって支えたり、一緒に取り組んでくれていることにもありがたさを感じています。

【井出】
法人化することで理事会をはじめ様々な支援者に対する説明責任が増していると思いますし、それは個人の活動では考えにくかったことでしょう。
そして、なぜリヴオンという法人名になったのですか?

【てるみん】
母の日プロジェクトの仲間たちとのWEBミーティングから生まれました。団体をつくるには名称が必要ということで、いろんな言葉を挙げていました。そしたらなんとなく”live on”がいいねという話になり、その時ちょうどリボンで結ばれた赤と白のカーネーションをロゴに使っていたので、「リボン、リヴォン、リヴオ〜ン」という言葉遊びもできるとわかり、「リヴオンいいね!」と決まりました。
その後から、「生き続ける」という意味のLive onにLifeの主語が隠されていると見て「いのちが生き続ける」という意味をこめました。今、生きているいのちも、亡くなったいのちもまた生き続けることができますようにと。自殺も多くなって今は生き続けにくい世の中ですが、今ここにある私たちのいのちが少しでも生き続けられますように。
そして亡くなったいのちも生き続けるようにという願いもこめて。亡き人を思い出して「あの人はこの食べ物が好きだったねぇ」という会話が生まれるときなどは、亡くなった人のいのちが他の人の中で生き続けるということ。そんなことが当たり前に交わされる社会になれば
リヴオンの使命が達成されていると思っています。

(※1)母の日プロジェクト…母を亡くしたアンナ・ジャービスという女性が亡き母への思いを教会でスピーチして、白いカーネーションを配ったのが母の日の原点であり、リヴオンではその原点を広める活動をしている。母の日100周年を機に、亡き母への手紙を集め、毎年一冊の本にまとめている。NHK、朝日新聞、メディア各社に特集され、大きな反響を呼んだ。

(※2)ダギーセンター…1982年に設立されたアメリカで最大の遺児支援組織。全米、世界中で200もの遺児支援団体がダギーのモデルを元にプログラムを展開している。

(※3)「ダライ・ラマ法王と若手宗教者100人の対話」…2013年11月19日に東京の増上寺で開催された。リヴオンの主催で、宗派・宗教を超えた僧侶など宗教者たちと一緒に創り上げた。全国から200名以上の宗教者がつどい「悲しみから希望を紡ぐ」をテーマに対話がなされた。

『なくしたものとつながる生き方』にこめられた思い

【井出】
リヴオンの使命の話とつながりますが、この前に出版された書籍『なくしたものとつながる生き方』は、何故そのようなタイトルがついたのですか?

【てるみん】
実は名前を最終的に考えてくれたのは編集者だったんです。「悲しみでつながる」というキーワードを私が出して、最終的にそこから彼女が考えて決めました。亡くした人と、死を経てもつながり続けることができます。そして、なくしたもの(者)という意味も込めて、大切な人を亡くした者同士がつながるという想いも込められています。
亡き人とつながり、なくしたもの同士がつながる、その2つの意味が込められたタイトルになっています。

【井出】
なるほど。タイトルを見た時には亡くなられた方との一対一の関係と思っていましたが、人を亡くした方同士でもつながっていくという二重の意味をこめられたのですね。

【てるみん】
実は私もその意味を知らなくて、出版記念の場で編集者が裏話として明かしてくれ、とても感動しました。亡くした者同士がつながれるというのは、まさにリヴオンが大事にしてきた生き方です。
昔は全て仏縁と言えば、共有されていたので、それはすばらしいことだったと思います。
仏縁という二文字で語ることは簡単ですが、今は仏縁と言われてピンとくる人はなかなか少ないです。
今の時代は、もう一度言葉をほぐして共有しなおしていくことが必要な段階だと思います。

死者にたむけるお花で、死者とのつながりを感じる


【井出】
なくしたものとつながる生き方を推奨するリヴオン、そしててるみんは、その生き方の実践者でもあり続けなければなりません。日々の生活で意識的にされている具体例を教えてください。

【てるみん】
母と兄を弔うスペースに身を寄せています。身体感覚は重要です。朝に線香をたむけ、お花のお水を変えることを大切にしています。忙しくて朝にできなかった日だったとしても、帰ってきた時にごめんねと伝えます。一日の中のどこかで身を寄せることで、つながっているんだと感じられます。つながりを感じる時に、お花の存在は大きいですね。お花をたむけることはとても大切だと思います。

【井出】
人は何故死者に花を手向けるのでしょうね。ネアンデルタール人の埋葬後からも花粉が見つかっていると聞きますし。

【てるみん】
直接弔いとは関係ありませんが、ハワイで”ohana”は「家族」という意味があります。
このオフィスをohanaと名付けたのも、そこから取っています。「おはな」は家族であり、悲しみの傍らにある花の存在でもあるんですね。

【井出】
花は大切ですよね。私も夫婦で息子の位牌のそばにお花を絶やさないようにしています。

【てるみん】
井出さんもお水を変えるんですか?

【井出】
ごめんなさい、お水はもっぱら妻です(笑)

【てるみん】
あはは(笑)

【井出】
お花を供えるようになった当初は、お花が枯れたらごそっと入れ替えていました。最近は、お花にも枯れ方のペースが違うので、枯れたら新しい花を買ってきてつけくわえるようにしています。供えられているお花の風景は徐々に変わっていきますが、お花は絶えることがないという日々になっています。話しながら気付きましたが、お花を絶やさないことによって、私たち夫婦も息子とのつながりを感じているのかもしれませんね。

【てるみん】
お花っていいですよね、200円だったとしてもこんなに喜べるんだと驚きます。人に一輪をプレゼントで持っていくとしても、ちょっとしたお菓子より安いです。でももらった側もあげる側も喜びが大きい。
お花があることによって、自分の余裕の確認もできます。お花を変えられていないと、自分に余裕がなかったんだなぁと感じます。

【井出】
家にあるものの中でいのちがあるものって少ないですが、お花はいのちそのものですし、枯れるという変化もあることで、お花に向き合うことで得られる気づきも多いのでしょうね。

【てるみん】
お花は悲しい時にも嬉しい時にも寄り添えることがすごいと思います。大阪では花嫁に嫁ぐ先のお仏壇にお供えするためのお線香を持たせるということがあるとも聞きますがやはりお線香のイメージは亡くなった時のものというのが強いです。この世界にある陰と陽の両方に寄り添えるのがお花の素晴らしさだと思います。

【井出】
私はお彼岸の時の墓地を眺めるのが好きなのですが、お花によって墓地が華やぐことで、亡くなられた方々を明るく祝福しているように見えます。墓地の風景を見ていると、賑やかなメロディーが聞こえてくるように感じます。お花の持つ力ってすごいですね。

(後編に続く)

彼岸寺 編集部

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