1.はじめに ~ドイツのお寺、惠光寺~ 

皆さまはじめまして。江田智昭と申します。

私は2011年8月から2017年6月までドイツ・デュッセルドルフにあるドイツ惠光寺(えこうじ)に勤めていました。6年間のヨーロッパ滞在中、印象に残ったことや考えたことなどをメモしていたのですが、今回それらをまとめて彼岸寺さんに連載させていただく機会を頂きました。

内容はヨーロッパの仏教やお寺に関する話題であったり、社会問題であったり、旅先の話題であったり、多種多様なものになっています。この連載を通じて、日本にいるとあまり知ることができないヨーロッパの仏教・文化事情などを共有して頂ければ幸いです。

どうぞよろしくお願い致します。

・ドイツ惠光寺

初回ということで、まず私が勤めていたお寺(ドイツ惠光寺)とその周囲の環境(デュッセルドルフ)を簡単に紹介したいと思います。

上の写真を見ると、まるで日本のようですが、ここはまぎれもなくドイツ・デュッセルドルフです。ドイツ惠光寺はヨーロッパで唯一の日本式の伽藍を持った寺院であり、ドイツ国内だけでなく、他のヨーロッパ諸国からも多くの人々が参観に来られます。

ドイツ惠光寺と併設されているドイツ「惠光」日本文化センターは、公財)仏教伝道協会によって1993年に設立されました。設立目的は「仏教、そして伝統的な日本文化を広め、東西の文化交流を行なうことによって、平和な人類社会の実現に資すること」です。

私自身は浄土真宗本願寺派の僧侶であり、惠光寺の本堂でのお勤め・法要は浄土真宗本願寺派の形式で行われています。

具体的な法要のスケジュールとしては、月に1度の月例勤行、春・秋のお彼岸法要、5月の降誕会法要(親鸞聖人の誕生日の法要)、夏の盂蘭盆法要、11月の報恩講法要(親鸞聖人の命日の法要)など、日本の浄土真宗寺院とほぼ同じです。

上記のような法要行事を行っていますが、ドイツの人々は当然お盆・お彼岸などの意義・由来を全く知りません。ですから、「お盆・お彼岸だからお寺にお参りに行かなければ!」などという意識が全くなく、特定の法要にお参りの人々が多い・少ないなどという規則性は基本的にありません。

しかし、例外として除夜の鐘の法要にはなぜか毎年必ず300~400人ほどが集まります。現在は混乱を避けるため、21時30分から始まる本堂での法要に参拝された方から順番に除夜の鐘を撞いていただくという形をとっていますが、21時10分に本堂を開いたとたんにあっという間に満堂となります。

毎年大変寒い中、開場の2~3時間前から門の前に鐘撞きマニア(?)のドイツ人たちが現れたりして、本当に驚きます。彼らの鐘撞きへの熱い情熱がどこからやってくるのかよくわかりませんが、お寺の法要・行事に参加していただけることは実にありがたいことです。

・デュッセルドルフと「日本デー」(JAPANTAG)

この惠光寺があるデュッセルドルフ市は、ドイツ西部に位置する人口約60万人の都市です。ルール工業地帯の近くに位置している関係で、1950年代頃から複数の日本企業がこの地に進出し、現在デュッセルドルフ市とその周辺には約8000人の日本人が生活をしています。街の中心部には日本食スーパーや居酒屋・ラーメン屋などが数多くあり、日本人にとっては非常に生活しやすい環境が整っています。

ヨーロッパではロンドン・パリに次ぐ3番目の大きさの日本人コミュニティです。しかし、ロンドンやパリに比べると格段に都市が小さいため、日本人の存在感が非常に大きく、「デュッセルドルフは日本人の植民地」と揶揄するドイツ人がいるほどです。

このように日本との関係が非常に深い都市のため、毎年5月にはデュッセルドルフ市の協力のもと、日本の外務省や日本人コミュニティが中心となって「日本デー」(Japan Tag)という催しを開催しています。

このイベントは2002年に始まり今年で16回目を迎えました。今年の5月20日に開催された日本デーにはなんと約65万人が集まり、現在海外で行われている日本文化イベントの中では最大規模の催しになっています。

このようなイベントが賑わうことは日本人として大変喜ばしいことです。しかし、「日本デー」はヨーロッパの他の日本文化イベントと同様、近年「日本アニメのコスプレ祭」の様相を呈しています。日本デー当日は、ドイツだけでなくヨーロッパ全体からアニメコスプレの人々がデュッセルドルフの街に集結し、当然惠光寺にも押し寄せます。

昨年の日本デーでは、セーラームーンの格好をしたドイツ人女性がわたしのところに近づいてきて、仏教に関して、根ほり葉ほり質問してきました。(確かお釈迦様の生涯に関して質問してきたような気がします)セーラームーンに対して仏教を説くなんて初めての経験でしたが、興味をもって聞いてくれて嬉しかったことを覚えています。

・ドイツに来てから気付いたこと

このセーラームーンに限らず、ドイツの人々は基本的に質問好きです。 最初に”Ich habe eine Frage.”(ひとつ質問があります)と言われるのですが、たいていの場合ひとつで終わることはありません。畳みかけるようにしてさらなる質問がおそってきます。

ここは日本文化センターでもありますので、仏教だけでなく、日本文化に関する質問も数多く受けます。6年前にこちらにきて最初に実感したことは、「自分は日本人でありながら、日本文化のことをまったく知らないで生きていた」ということでした。

当初はドイツ人からの質問に対して「ドイツ語だから説明できない」と思いこんでいたのですが、後になってよく考えたら、「日本語でもうまく説明できない」(要するにそれに関する知識が自分の頭の中にない)と気づくケースが非常に多かったです。

また、仏教に関する質問も日本にいるときにはほとんど聞かれることがなかった仏教の根本的な質問が多く、はっとさせられること(冷や汗をかくこと)が数多くありました。

基本的にドイツの人たちの頭の中にはキリスト教があり、仏教に対して日本人とは全く違ったイメージを持っています。次回はそんなドイツで浄土真宗を説くことの難しさについて書いてみたいと思います。

江田智昭

浄土真宗本願寺派僧侶(布教使)。1976年 福岡県生まれ。 早稲田大学社会科学部・第一文学部東洋哲学専修卒、文学研究科(東洋哲学専攻)中退。 2007年より築地本願寺内の(社)仏教総合研究所事務局において、仏教雑誌『ジッポウ』、『親鸞の歩き方』(ダイヤモンド社)等の編集、「プロジェクトダーナ東京」の立ち上げを行う。 2011年~2017年までデュッセルドルフのドイツ惠光寺において、ヨーロッパ開教や日本文化を発信する事業に携わり、2017年7月より(公財)仏教伝道協会に勤務。