ゴールデン進出でますます話題のテレビ番組『ぶっちゃけ寺』にも出演の僧侶、大來 尚順(おおぎ しょうじゅん)さんが『英語でブッダ』(扶桑社)を上梓されました。本書は仏教用語を英語に訳して理解しようという世にも珍しいもの。しかも中学生レベルのやさしい単語だけで英訳することで、それまで日本語で難しく考えていたことが取り払われ、逆にスッと自分の中に入ることを目指した意欲作です。
タイミング良く名古屋で著者のトークイベントが企画されていることを知り、「大來さんを生で見て、ついでにサインをもらおう!」とミーハーな気持ちで名古屋まで駆けつけました。もちろん『英語でブッダ』は読了、質問もシュミレーションして参加しました。
桜満開の4月の土曜日、名古屋市内の新栄町駅前の久遠寺を会場にそのイベントは開催されました。久遠寺副住職の高山信雄さんは、お寺でヨガやライブなどイベントを数多く仕掛ける若手僧侶。「未来の住職塾」二期生名古屋クラスの卒業生でもあり、仲間と協力して宗派・宗義にとらわれない活動を展開しています。
高山さんの「これまでは皆さんに仏教をわかりやすく伝えるために、体験型イベントを中心にやってきました。今回のような学習型イベントが果たしてウケるかどうか不安で、ごく少人数でも構わないという思いでした」という心配もなんのその、会場は定員いっぱいの30人が集まり、本堂は開始を待ちきれないという熱気であふれていました。お坊さんは少なめの3割くらい、男女は半々、外国人も2人。こういうイベントでお坊さんが過半数を占めるとどうしてもそれ以外の方が遠慮してしまいますが、今回はそうならず良い感じにバランスが取れていて、学びが深まりそうな予感。
まずは久遠寺ご本尊さまに向かって真宗高田派のお勤め、それから大來さんの講演『英語から考えるブッダの教え』がスタート。基本的な仏教用語とその英訳例を挙げて、仏教の基本思想を確認していきます。いきなり本にはない興味深い話題として、1893年シカゴで開催された「万国宗教会議」に出席した鈴木大拙師が、初めて「Religion」に「宗教」という訳を与えたとのこと。
Re :再びくっつける
ligion :神と人間
Religion :離れてしまった神と人間を再びくっつける
宗教をこう定義しなおすと、ぼやけていた宗教という概念がクッキリします。仏教を英語で考えるのはまさにこのような感じで、英訳を通して仏教思想をシンプル化したり、違う角度から見たり、再確認すること。新しい発見とともに、より理解が深まることも期待されます。
次に、煩悩の中心とされる「貪・瞋・癡(とん・じん・ち)」について。通常は以下のように英訳されます。
貪(貪りの心): Desire
瞋(怒りの心): Hatred
癡(無智の心): Ignorance
これでも問題ないものの、もう少し馴染みやすい英訳を大來さんは提案されます。
貪: Desire → Greed(貪欲)
瞋: Hatred → Anger(怒り)
癡: Ignorance → Stupidity(愚かさ)
注目はその頭文字を並べると「GAS」、つまり「オナラ」になること(笑)。貪瞋癡は「三毒」と言われるくらいですから、オナラ同様に長くお腹にためておくのは体に悪いですよね。ユーモアたっぷりに話される大來さん、しかしさわやかな大來さんの口からオナラという想定外のフレーズが出て、女性ファンはもうメロメロです!
もう一つのポイントは、逆に英訳が混乱をきたすもの。
空(くう): Emptiness / Nothingness
仏教の中心的概念ともいえる「空」ですが、その理解は一筋縄ではいきません。般若心経でも「色即是空」といった直後に「空即是色」と否定されるように捉えどころのないもの。少々乱暴に解釈すれば「空 = 縁起」であり、この世の事象は何ひとつ単独では存在しえないということです。それを英訳するにあたって、「空」という漢字の意味や印象に引きずられて「Emptiness = 空っぽ」「Nothingness = 何もない」と訳したのでは誤解を生じかねません。そこで大來さんは漢字から離れて「You are not alone = ひとりではない」というニュアンスを大事にした訳でも良いのでは、とお話されました。
これらのように英訳にもいろいろあり、本当に適切な訳語を見出すのは至難の業です。いや、どんな英訳をしても完璧に意味を伝えることは不可能。ですからどんな英訳にせよ、それを補足する説明を自分自身の言葉でできるようにすることが何より大切で、そのためにはまず日本語で仏教思想を深く理解するのが先決、とお示しくださいました。
イベントはトークディスカッション、質疑応答、サイン会、懇親会と盛況の内に終了。短い時間ながら実に学びの多い会となりました。興味を持たれた皆さん、どうぞ『英語でブッダ』を手にもう一度英語を勉強してみませんか? きっと英語も仏教も学生時代よりずっとスンナリ理解できると思いますよ。