「アートでお寺と地域を繋ぐ」 oterart代表・今井優悲さんインタビュー

先日レポートいたしました「oterart金澤2017」(以下、オテラート)。今回は、実行委員会の代表を務められる聞善寺のご住職、今井優悲(いまいゆうひ)さんにいろいろとお話を伺いました。少し長いですが、最後までお読みいただければ幸いです。

聞善寺の門前。

●「オテラート」のはじまり

——今日はお時間いただきありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。まず、このオテラートと言う活動は今井さんが始められたものなのですか?

今井:私一人で始めたことではないんですけど、私が9年前にお寺に帰ってきて、父親が体調を崩して住職になったんですけれども、ちょうど同じようなタイミングで、ウチのお寺の後ろにある崇禅寺(そうぜんじ)さんの副住職さん、息子さんも帰ってこられたというのを風のうわさで聞きまして。隣のお寺さんなんですが、やはり宗派が違うとそれまで交流というのが全く無かったのですが、その副住職さんがたまたま弟の同級生ということで、弟に電話番号を聞いて、一緒に飲みにいきまして。お寺がせっかく隣同士だし、一緒に何か面白いことができたらいいね、という話をしまして。

で、もともとウチのお寺でも、陶芸の作家さんや絵を書かれる方の個人的な展覧会ということを、父と母がしておりまして、その繋がりもあって、せっかくなら、そのようなことで面白いことができればいいね、ということを、崇禅寺さんと2人で話をしたところ、面白いかもね、と。で、橋の向こうの廣誓寺(こうせいじ)さんも、曹洞宗で顔も知っているし、声をかけてみようとおっしゃってくださって。ちょうど世代も同じ世代ということもあって、声をかけて、3人でまたいろいろ飲んだりしながら話をしまして、そして始まったのが、8年前の第一回目のオテラートでした。

——なるほど。では最初は、3つのお寺で始められたんですね。

今井:そうですね。最初はその3人のお寺で行いました。

——それが今回は11箇寺に広がっているわけですが、それはどんな風に広がっていったのでしょう?

今井:第一回目のオテラートを始めた時から、ウチのお寺でもやりたい、というお声掛けをいただいていました。しかし如何せん作家さんがいないと、展示する場を広げられないということもあって。第一回目は、金沢美大(金沢美術工芸大学)などにお声掛けをして、15人の作家さんを集めて展示をしていただきまして。15人で始まって、5回目を終えた頃に、30〜40人ほどの方が展示をしてくださるようになり、ウチのお寺でもやりたいという声をいただいておりましたから、じゃあ一度会場も広げてみようか、ということで徐々に広がって。ここ3年ほどは50人以上の作家さんから「展示させてください」と言っていただけるようになりました。

——オテラートの活動を続ける中で、作家さんの間でもオテラートで展示したいという声が広がったということでしょうか。

今井:そうですね。作家さんの繋がりで声をかけていただいたり、「あーなんか面白そうだね」と言っていただけるようになって、展示したいと言ってもらえたり。今年は、その第一回に学生として参加された方が、今は独り立ちして作家活動されておられて、久しぶりに展示をしてくださることになって。

——それは嬉しいことですよね。

今井:本当にありがたいし、嬉しいことです。8年間、毎年続ける間に、その方も成長されて、また戻ってきてくれたわけですから。

——8年間続ける中で、オテラートの認知度も高まっていることが伝わってきました。主催者として、やはりいろんな努力もされたと思うのですが。

今井:毎年続ける中で色々工夫したり、サイトを作って発信をしたりということを続けています。また最初は、我々も「お寺から足が遠のいていた人たちが、またお寺に足を運んでくれるきっかけとなるといいよね」というような気持ちで始めたのですが、第一回を終えた時に、作家さんの熱量がすごいことに気づきまして。オテラートに合わせて作品を作ってくださったのですが、その熱を感じた時に、これはもうお寺どうこうという話ではないなと。作家さんの発表の場として、ちゃんと頑張っていかなければいけないね、ということになり、発信に関しても、展示に関しても、いろいろ改善していくようになりました。

見に来ていただく方も、美術・工芸ということに縁遠い方もおられますから、少しでも身近に感じていただけるようにと、気を配るようにもなりました。

テーマについて。今井さんの手作り。

●お寺とアートと地域

——やはり金沢という土地柄、美術・工芸に携わる方も多いかと思いますが、そういう作家さんも発表の場を持ちたいというニーズにオテラートがフィットしたのでしょうか。

今井:そうですね。陶芸を始めとして、美術・工芸に関わる方は本当にたくさんおられます。そして発表の場が、というよりも、普段展示する美術館やギャラリーとスペースとお寺は違いますから、制約もありつつ、だからこそ面白いというか、生まれてくるものがあるというか。

オテラートの作品は、基本的にこのために作っていただくものが多くて、テーマはもちろん、お寺という普段の展示と違う場所に展示する、ということが前提になります。ですので、まず作家さんにお寺に来ていただいて、お寺のどこに設置するのかを見てもらってから制作を進めるというのが、基本的な形です。もちろんすでに作られたものを展示するケースもありますが、基本的にはお寺に展示するということを前提に作っていただくスタンスになっています。

今回この本堂に展示してあるクジラのしっぽですけれど、漆で塗られています。お寺の漆塗りの床を海に見立てて、漆の大海に潜り込んでいるかのような、ここでしか成り立たないという作品になっています。

——すごいですね。お寺だからこその展示ですよね。

今井:お寺という空間も、もともと建築様式だったり、欄間だったり、水墨画だったり、工芸や美術の当時の最先端の技術が使われていたんですよね。今で言う、当時の現代アートなんですよ。絵解きなんていうことも行われていて、昔は一般の人は絵を見るなんていう機会はほとんどなかったでしょうから、絵はお寺でしか見れないものだったんじゃないでしょうか。お寺でアートというと、全然別のものをかけ合わせたように思われますが、アートというものと共にお寺は成り立っていたんですよね。だから実は、全然突拍子もないものではないんだと感じています。

逆にアートだけじゃなくて、お寺のいろんなところに興味を持ってくださって、「これなんですか?」とか、私たちが気づかないことを尋ねてくださったりとか。お内陣なんかも、これ、やっぱりアートですよね……

他にも、宗派によるお寺の構造の違いなんかにも興味を持っていただけたりもしています。

——確かに、お寺もアートで成り立っているというのは、素晴らしい気づきです。今井さんはもともとアートなどにご興味があったのですか?

今井:もともと好きでした。かつては寺は継がないよと、東京の方に行きましたから(笑)服飾の勉強をしに行きました。なので、もともとアートなどは好きでした。ですので、お寺に戻ってからも、アートが一つきっかけになるのでは?ということは考えていました。10年ほど前から、直島や新潟など、地域での芸術祭というものが行われていまして。もし金沢でもそのような芸術祭を行うのであれば、お寺というのが一つ特色になって、都市型の芸術祭のようなものが、金沢ならではのものとして成り立つのではないか、と。

——なるほど。はじめはお寺のためというところからスタートしたものが、もう少し地域へと視野が広がっていったという感じでしょうか。

今井:そうですね。それは実行委員会の皆さんと共有できていることだと思います。お寺のため、ということは最初ありましたが、今はそうではなくなってきています。やっぱり金沢という地域を大切にしたいという思いですね。

第一回を始めた時、3つのお寺を皆さん歩いて回られるので、地元の方から苦情が来るのでは?と心配もしたのですが、そしたら近所の方が「若い方がたくさん歩いておられて、元気もらえた」とおっしゃってくださって、それは嬉しかったですね。近所のおじいちゃん・おばあちゃんも、普段美術館なんかになかなか行かないような人たちが、アートを楽しんでくれて、なんだろう?って興味持ってくれて。今日も子どもたちが来てくれています。

——なんとなく、美術館などよりも、お寺という空間が、作品との心理的距離が近く感じられるのかもしれませんね。

今井:やっぱりそうだと思います。特に畳の効果というのもあるかもしれません。座って見れるというのは、大きいと思います。

2日くらい前には公民館で体操があって、おばあちゃん達が体操終わって、「じゃあ聞善寺さんにいこうか」とみんなで来てくださって。ワイワイガヤガヤ見て行かれました。そういうのがやっぱり嬉しいですし、老若男女問わず、誰でも気軽にアートを楽しめるというのが、お寺ならではという感じがします。

●広がるご縁

——地域に根ざしているというのが、本当に素晴らしい魅力になっているんですね。
ところで今回、アート作品の展示だけでなく、ワークショップもかなり充実していますね。

今井:はい。オテラートではアートを楽しむだけじゃなくて、学びの場としての「寺子屋」という位置づけもあって、いろんな体験やワークショップもありまして、これもどんどん増えていって、お寺が増えたことで、そこからまたご縁も広がったこともあって、いろんなワークショップが楽しめるようになりました。

ワークショップも、はじめはあまり仏教色や宗教色を出さずに、というところを意識していました。でもやっぱり、仏教についても学びたいという声もでてきまして。そこで仏教座談会や講演なども行われるようになりました。

−−9月9日はネルケ無方さんの講座もあるんですね。

今井:これはもともとオテラートの打ち合わせを月に一回行っていたのですが、勉強もちゃんとしたいよねというところから、宗派を超えて、仏教経典を繰り読みしていくことも始まりまして。それが公開講座という形に広がっていきました。自分たちの学びの場でもあり、そこからさらに多くの人と一緒にという感じで行われるようになりました。

——お話を伺っていますと、これまでご縁の無かったお寺さん、お坊さん同士も、このオテラートの活動を通じて、宗派を超えて繋がりが生まれてきているのを感じます。このようなことは本当に稀なケースであるなと思うのですが。

今井:そうかもしれませんね。それはやはり金沢、というのが大きいのかもしれません。お寺さんがたくさんあって、しかもお寺同士が近くにあって。そしてそれを自然と繋げてくれるというのが、アートの持つ力なのかなーと。

——なるほど。金沢という土地、そしてアートの力の結びつきなんですね。しかし、これだけ規模が大きくなると、運営や開催もかなり大変そうだな、ということもあると思うのですが。

今井:お寺が増えてからは、実行委員会体制を作って運営しています。お坊さんだけじゃなくて、大学の先生や学生さんにも関わってもらったり、ヨガのインストラクターの方もおられたり、15人ほどの体制で運営しています。最初は身近なところにおられた作家さんとのご縁から、お寺が広がっていってさらに繋がりも増えて、それによって、今の形で運営できるようになりました。

——今後もこのオテラートの活動は続けていかれますか?

今井:そうですね。楽しみで、もう趣味みたいな感じになっています(笑)

この活動とは別なんですが、春先には金沢の大谷派のお寺が中心となって「おてらくご」ということも行っています。正信偈のお勤めをして、落語を聞いていただいて、法話も聞いてもらうという会です。法話も結構皆さんしっかり聞いてくださって。やっぱり法話を聞いていただける機会というのも、いろいろ発信や工夫をしながら作っていきたいですね。

——今日は貴重なお話、本当にありがとうございました。

今井:こちらこそありがとうございました。

聞善寺・今井さん(左)と「オテラート」発起人の一人、廣誓寺・巽 亮光さん(右)

●今井優悲さん プロフィール
1980年生まれ。
現在、真宗大谷派・聞善寺の第24代住職を務める。
「oterart金澤2017」レポート記事はこちら(9/10まで開催)

日下 賢裕

不思議なご縁で彼岸寺の代表を務めています。念仏推しのお坊さんです。