リヴオン・尾角光美さんに聞く (後編) : 悲しみを癒すお坊さんの力は無限大

一般社団法人リヴオン・代表理事の尾角光美(おかくてるみ)さんのインタビューの後編をお届けします。
尾角さんだからこそ見える、お寺やお坊さんの悲しみを癒す力や可能性について語られています。それではどうぞお読みください!

前編はこちらから → リヴオン・尾角光美さんに聞く (前編) : 死者にたむけるお花の意味

仏教・お寺との出会い

【井出】
仏教やお寺との出会いはどのようなものだったのですか?

【てるみん】
2006年に自殺対策基本法ができ、翌年に西本願寺(浄土真宗本願寺派)の研究所主催の自殺対策に関するシンポジウムでに呼んでいただきました。そこでつながりが出来たのが最初です。その後、新聞記事がきっかけで、真宗大谷派とは北陸でのご縁ができ、石川県でグリーフサポート連続講座を協働で開きました。そして、この講座が浄土宗の共生(ともいき)地域文化大賞(※1)に表彰され「共生優秀賞」という賞をいただきました。

(※1)共生・地域文化大賞とは浄土宗が宗祖法然上人800年大遠忌記念事業として実施したもので地域の課題解決に取り組むNPOとお寺の協働事例が表彰された。

【井出】
仏教やお寺とご縁ができてよかったと感じることはありますか?

【てるみん】
龍谷大の大学院で実践真宗学を学んでいる若手僧侶の皆と一緒にやってきた「寺ルネ」という勉強会はとにかく楽しかったです。とても熱心に仏教の良さを世の中に具体的に活かしていこうという姿を見ていると、未来がとても明るいと思った。ダライ・ラマ法王の企画も共にすることで、皆の熱心さと賢明さを肌で感じられたのもよかったです。若いエネルギーと新たなチャレンジを恐れない心が頼もしいです。
一方で、年代がもっと上の僧侶の方たちとも共にさせいただきました。石川県のグリーフサポート連続講座は計五回の講座を通じて、2つの団体を産み落としました。遺族の集いの場と学びの場がお寺に生まれました。お寺をしっかり営んできた50代や60代の住職・坊守さんだからこそ生まれた、継続的な活動だったと思います。
よく葬儀社からお坊さんの残念なお話(亡くなった方の名前を間違えたり、棺の蓋を開けた裏で携帯を触っていた等々)を聞きますが、そんなお坊さんはほんまにどこにいるの?というのが私の感覚です。

【井出】
その感覚はよく分かります。私も未来の住職塾をやっていると、日々現場でしっかりと活動されているお坊さんに多く出会いますので、世の中で言われる悪いお坊さん像は恣意的に作られ過ぎている側面も色濃いと感じています。
てるみんはお坊さんにどのような期待を持っていますか?

【てるみん】
死をはじめとする悲しみや苦しみに向き合える場と役割を持っていることです。それに尽きます。世の中で、苦しみを扱うプロフェッショナルはなかなかいません。精神科医もいますが、心理的なものだけにとどまります。宗教はもっと根源的なものを扱います。
例えば、大切な人をなくして「なぜ亡くならなければいけなかったんだ」「自分の生きている意味がわからない」といった問いを抱いたときに向き合えるのはいのちの根源的な苦しみを考えるプロフェッショナルの僧侶です。実際に実践している
お坊さんやお寺に私が出会ってきて、お寺とはそういう場所だと感じてきました。
世の中では、より良くすることが良しとされます。「もっと前を向こう」とか「頑張ろう」と。
しかし、苦しみを苦しみとしてありのままに扱う場も大切です。病院は治療で治すということを目的としますが、死別の苦しみは治る・治らないということではありません。その苦しみに向き合う潜在的な力を引き出せるのがお寺であり、僧侶だと思います。

【井出】
てるみんは様々な宗教空間や宗教者と触れ合う機会が多いと思いますが、それぞれの価値や魅力をどのように感じていますか?

【てるみん】
キリスト教は光。神道は自然。仏教は、うーん、これといったイメージがないんです(笑)。
昔は困った時の駆け込み寺と言われたように、お寺はもっと所帯じみていて寄りあえる感じがします。教会は自分とはかけ離れた神聖さを感じる場で、神社に行くと気持ちが凛と正されます。お寺は心の拠りどころなのか、なんだかホッとしますね。

【井出】
お寺は人間臭さがあるということでしょうか。

【てるみん】
そう、人間臭い(笑) 神道の世界は人間性を超えていて、大いなるものを感じます。お寺は人間と等身大だと思います。
もちろん、み仏の光に満ちているのがお寺なんだと思いますが、お寺は仏を通して自分自身に向きあわされているように感じます。

【井出】
神社と違って、お寺は人が前面に出ますからね。お寺によっては、距離が近くなることで生活空間もさらけ出されることがあり、そこに人間臭さと親近感が感じられます。

【てるみん】
お寺は何百年も同じ家が続いていることがありますしね。
先日、女子高生とお坊さんと一緒にミーティングをする機会があり、女子高生が「お坊さんて人間なんですね」と言っていて、私はその反応にびっくりしました。お坊さんは本当に生臭いイメージか神聖なるイメージの両極端で見られています。

【井出】
社会の捉え方は中庸さがありませんからね。両極端のイメージに翻弄されているお坊さんやお寺には、応援のエールを送りたいですね。
これからのお寺やお坊さんの課題はどう考えていますか?

【てるみん】
理想ですが、究極的にはお坊さんが病院に出入りできるようになってほしいです。生きている間に一緒に苦しみに向き合える存在になってほしい。その状況は、当たり前にグリーフケアが行なわれている世の中と言えます。老いや死にゆく苦しみに向き合うことができないと、これからのお坊さんやお寺は生き残っていくことは難しいだろうと思います。
お坊さんは葬儀の時に呼ばれて、ただお経を読むだけの「お経マシーン」では決してありませんし。そして、宗教者に期待するというよりも、宗教者の教育に期待ということのほうが強いです。伝える力だけではなく、聴く力、受けとめていく力を丁寧に養ってほしいと思います。

【井出】
お坊さんではなく、お坊さんを育てるシステムに問題があるということですね。お坊さんには世襲による苦しみもあり、職業選択の自由がないケースも多いです。
そのような不自由さや苦しみを抱えてお坊さんになった方も多いでしょうから、なおさらお寺の現場に出る前にきっちりと育て上げる教育システムが大切になりますね。

これからのリヴオンが目指す世界

【井出】
リヴオンが色々な取り組みをしていますが、てるみんの中でそれらの配分はどうなっているのですか?

【てるみん】
頭の中の半分以上は遺児支援をもっとしっかりしたいと考えています。
ただ、実際の事業は講演や研修といった学びの場が大部分です。「いのちの学校」というグリーフケアの学びの場には遺児だけでなく遺族や僧侶、葬祭業の関係者も来ます。遺児という当事者に
リーチしていくためにも、お寺や行政との関わりを保っていくことが大切です。今年は自治体よりも宗教関係の依頼の数のほうが超えそうです。お西さん(浄土真宗本願寺派)の布教使を育てている伝道院にも呼んでいただき、とてもやりがいを感じています。
ご縁ベースなので、こちらから営業をということはありませんが、これから先もお寺関係の依頼が増えていくならありがたいと思っています。

【井出】
これからのリヴオンの目指す姿はどのようなものですか?

【てるみん】
最終的には学校を創立したいです。開いた学校には、当事者、僧侶、葬儀社の方医療関係者、様々な人に学びに来てもらいたい。そのためにも色々な宗派や宗教を超えてとつながっていくことは大切です。
東日本大震災をはじめとした現場で実践者ががんばっています。その人たちとこれ
からもつながっていきたいです。
学校は、死に関わる専門家の人と遺族等の当事者が来る学びの場です。学びの場がケアのコミュニティになっていくことが理想です。学びを通じて自分自身をケアすることを学び、そして他者もケアできるようになる。
お坊さん、葬儀社、医療関係者異職種の人が対等にフラットな関係で対話できる場が社会には不足しています。
学びの場を通じて弔いの文化が醸成され、生と死がひとつに大事にされる社会に。医療の場に宗教者が出入りできたらよいと思っています。グリーフサポートが当たり前にある社会を作りたいです。
そして、学校運営をすることで遺児の仕事につながるかもしれませんし、遺児がソーシャルワーカーやカウンセラーになるかもしれません。遺児は自分がケアされることに満足するのではなく、この社会を何とかしたいと願いや思いを持っていることが多いです。その思いを実現する場として学校が役立ちたい。

【井出】
以前から話していますが、学びの場と遺児支援を徐々につなげていきたいですね。こうやって定期的に対話することで、その道筋が見えてくるとよいなと思っています。

【てるみん】
被災地のある小学校の先生がいのちの学校に来られていたのですが、「今年の3月はこれまでいのちの学校があったから乗り越えられた」とおっしゃっていました。先生は3.11の前日に、グリーフケアで学んだことを活かして、生徒たちと震災のことについて話しあわれたそうです。被災地では震災のことを語ってはいけないという雰囲気があったのですが、それが変化しました。
GW中に石巻に行ったときにも感じましたが、支援者を支援することの役割は重要と感じています。当事者につながっている影響力のある大きい存在がグリーフケアの担い手になってくれることは重要なインパクトを生み出します。インパクトを出せる人たちと関わっていく人ことがこれからも大切です。
インパクトと言えば、これから多死社会を迎える中で、お寺の方がグリーフケアを学ぶことによる、社会へのインパクトも大きいと思います。

【井出】
お寺の世界は一気呵成ではなく、じわじわが本当に大切だと思います。
未来の住職塾に参加されたお坊さんにもグリーフケアの重要性が浸透し始めていますが、日本全国のお寺にこれから先もじわじわと広がっていくといいですね。私たちも協力します。

【てるみん】
なぜお寺とこんなに関わっているんですかと言われますが、理屈では説明できません。大きな流れに乗っているのだろうと思います。その流れの中で想定を超えることがご縁の世界です。私も、もっと世の中にお坊さんやお寺の良さを広めたいと思っています。

【井出】
その点ではてるみんは出家しないほうがよいですね。

【てるみん】
そうなんですよね(笑)「ぜひうちの宗派に」とお声はよくかかりますが。私が出家しない積極的な意味がそこにあります。
私は外側から僧侶やお寺の役割や意義を示せる立場であれたらなと。そしてお坊さんがグリーフケアという言葉を語らなくてもいいと思うんです。もともと担ってきたことであり、本来のお役目なので。

【井出】
グリーフケアの知識やスキルは活用したとしても、在り方としてお坊さんであることが大切ですからね。

【てるみん】
最後に何をもって僧侶と言えるのか。この点が大切です。私はそれは信仰だと思います。本当に信じている人の言葉と背中にはとてつもない重みがあります。

【井出】
本当に信じているかはすぐに伝わってきますものね。今日は貴重な話をありがとうございました。これからも、悲しみから希望をつむぐリヴオンの種が全国に撒かれていくことを心から応援しています。

(終わり)

彼岸寺 編集部

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