大來さんが日本語と向き合う新著『訳せない日本語』

『英語でブッダ』、『端楽(はたらく)』の著者であり、お坊さんとしてもあちこちでご活躍の大來尚順さんの新刊が届きました。この本は、アルファポリスのビジネスサイトで連載されていたものが書籍化されたもので、大來さんが日本語とトコトン向き合われた内容となっております。

ハーバード大への留学を経験し、通訳や翻訳の活動もされる大來さん。海外での生活の中で、日本では当たり前に使われる言葉を英語で伝えようとした時に、なかなか上手く訳せないという違和感を覚えることが何度もあったそうです。そんな経験の中から、「どうして日本語のニュアンスを英語では伝えきれないのか?」と、改めて私たちが日頃用いている日本語に向き合われ、「英語に訳せない日本語の中にこそ、他の国や文化にはない日本独自の奥深さが宿っているのではないか」ということに気づかれたのだとか。そのことがきっかけとなって、『訳せない日本語』の連載・出版に繋がったそうです。

本の中で大來さんが取り上げてくださったのは、24の言葉たち。どの言葉も、私たちが日常で使うものばかり。例えば、「いってきます」や「おかえり」といった挨拶や、「しょうがない」や「おかげさまで」など何気なく用いるものなど、当たり前すぎてどのような意味があるのか疑問にすら感じない言葉を、改めて由来を辿り、丁寧に意味を紐解いてくださいました。それによって、一つの言葉にも複数の意味を含んでいることが示され、それが日本語の奥深さであったり、他の言語に訳すことが難しいという理由であることが明らかになっていきます。

特に大來さんらしさが発揮されるのが、日本の言葉の背景に潜む、仏教的な要素にスポットを当てられる点です。「大丈夫」や「ご縁」など、仏教とも縁の深い言葉はもちろん、「しょうがない」や「すみません」のような、一見仏教とは無関係のような言葉からも、仏教的な学びを与えてくれるのは、お坊さんである大來さんならでは。

ただし一つだけ気をつけたいのは、このように日本の言葉や文化について知ることで、さも他の文化よりも日本が優れている、というような錯覚に陥りやすいところ。しかしこの書の主眼はそんなところにあるわけではありません。日本の言葉の奥深さを知ることで、日本の文化の素晴らしさを再確認できるということには違いありませんが、そこから学ぶことができるのは、自分たちが他よりも優れているというような誤った優越感などでは決して無く、むしろ他を思いやる気持ちであったり、自らのあり方を常に振り返るような、謙虚な姿勢です。それこそが、日本の文化であったり、独特の言葉を生み出すことに繋がってきたのだということが、よくよく感じられることでしょう。そしてそこには、仏教の教えが少なからず影響しているということもまた、読み解くことができるはずです。

他の文化を持つ人たちと触れ合う機会が増えた現代だからこそ、まずは自分たちが根ざしている文化や言葉についてよく知るために、読みたい一冊です。

日下 賢裕

不思議なご縁で彼岸寺の代表を務めています。念仏推しのお坊さんです。