【想像力の貧困?】シングルマザーは例外なんかじゃない。標準世帯の「標準」を疑う

貧困が社会問題となり、テレビ・新聞・雑誌などで取り上げられることが増えてきました。問題が可視化され、多くの人に啓発が進むことは喜ばしいのですが、それが一過性のブームで終わっては意味がありません。テレビなどで注目され始めてから、より身近な問題として定着するには時間がかかるもの。貧困問題の解決には息の長い取り込みが必要ですので、「貧困」がすぐまた別のキーワードに置き換えられてしまわないか注意が必要です。

貧困を一時の問題意識で終わらせないためには、やはり問題の本質を知らなければなりません。その時に役立つのが、『シングルマザーの貧困』(水無田気流・著)という新書。データやグラフが豊富で、客観的に分析する上で資料的価値も非常に高く、貧困問題に真摯に携わる者にとって必読の書です。

著者は女性であり、詩人であり、社会学者という異色の人。筆致は冷静さを失わないものの、決して一歩引いた立場で論じるのではなく、自らもその最前線で悩む一人として危機感を持っていることを感じさせます。真剣に悩むからこそ、客観的データの裏付けを求め、問題の核心に迫っているのでしょう。そんな著者の思いは「はじめに」に凝縮されています。

シングルマザーの貧困問題は、日本の社会問題の集積点である。それは、就労・家族・社会保障制度の3分野にまたがる問題を凝縮したものといえる。

(中略)

一般に日本社会では、「子どもを産むこと」は、「安定した家庭を築くこと」と同一視されている。一方、安定した家族に所属する子ども以外は、みな一様に「かわいそう」という言説に収斂されてしまう。その背景には、高度成長期に確立した、標準世帯家族像が存在している。

しかし、標準世帯は今や標準ではなく、世帯類型としては単身世帯が一番多い。いわば日本は「おひとりさま」だらけの社会なのだ。今この国で進行中の「超」少子化は、若年層が家庭を築くことの困難に起因すると言っても過言ではない。バブル崩壊以降の日本は、経済はデフレ基調だが、既存の「普通」「標準」は高騰し続けている。

この国は、「個人」には個性的な生き方を推奨しつつ、「家族」には「普通」の同化圧力をかけ続けている。このため、あえていえばシングルマザーは、「あってはならない」存在とされるのではないか。ゆえに、この国の社会環境のエアポケットに落ちやすい存在ともいえる。昨今盛んに喧伝される少子化対策にしても、シングルマザー問題は「例外的な人たちの例外的な事態」と考えられ、積極的支援策がとられているとはいいがたい。

(中略)

今日の社会では、あらゆる側面で自由競争が標榜される一方、実質的に女性が一人で子どもを産み育てる自由は乏しい。それは、この国の女性が本当の意味では「産む自由」を手にしてはいないことの証左ではないのか。

シングルマザーの立場はこうも弱いものかと改めて考えさせられます。「この国の女性が本当の意味では『産む自由』を手にしてはいない」という指摘は、男性の私でもグサリと胸に刺さりました。このことからも、貧困が著しく女性に偏りやすいことが想像できるのではないでしょうか。

「母子家庭」や「シングルマザー」という言葉の持つある種の冷たさは、著者の指摘するように「普通」や「標準」への同化圧力のせいかもしれません。ただでさえ横並び意識の強い日本人、特に家族のあり方というような伝統的な価値観から外れることのリスクは非常に大きいものがあるでしょう(この家族観の伝統にも著者は疑問を呈していますが)。また、「自分で離婚を選んだのだから仕方ない」「努力すれば生きていくだけのお金は稼げるはず」といった類の「自己責任論」が最近ますます肥大化しているのも、シングルマザーが「標準」から外れて隅に追いやられることを助長しています。

シングルマザーの貧困がこれほど問題となるのは、そこに子どもの貧困があり、子どもの未来に貧困を連鎖させてはならないから。著者の指摘のように「シングルマザーの貧困問題は、日本の社会問題の集積点」ならば、この問題解決を突破口にいろんな問題を改善し、子どもの未来を明るいものにしなければいけません。すべては子どもたちのために。シングルマザー問題を例外的な事態とせず、文字通り社会の問題として私たち一人ひとりが貧困問題に向き合う必要があります。

著者が切望するのは「本書が、少なくとも標準世帯以外の家族に対する『想像力の貧困』を脱する一助」となること。社会の見える問題、見えない問題に想像力を働かせ、「助けて」と言えない存在に思いを寄せる。そのためには私たちも貧困問題に歩み寄り、なにかしらの行動に移すことが理解を深めてくれます。

「おてらおやつクラブ」はまさに想像力を補う活動の一つ。母子家庭に対する専門的なノウハウを持たないお寺が、そのノウハウを持つ支援団体と協働することで、無理のない持続可能な支援をご提案しています。時に食べきれずにムダにしていたお供え物をなんとかしたいという目の前の問題からスタートした活動は、お寺ができる範囲で取り組める敷居の低さ、仏さまにお供えされた檀信徒のお気持ちのおすそわけ、という意味を加えて、おやつの輪を全国に広げています。まだまだご賛同いただけるお寺さまを募集していますので、ぜひお問い合わせ(oyatsu@higan.net)ならびに6月3日の説明会(お寺さまのみ)へのご参加をお待ちしております。

ぜひ本書を手に取って、貧困問題へ一歩踏み出してみませんか?


【6/3】おてらおやつクラブ説明会<お寺さま向け>を東京・光明寺で開催します。
http://otera-oyatsu.club/

おてらおやつクラブが主催する説明会で、以下のようなお寺さまを大募集します。
ぜひ説明会で不安や疑問点を解消してください。

・貧困問題や社会福祉活動に関心がある
・たくさん頂戴するお供え物をお分けする先を探している
・自分たちのお寺でも協力できるのか不安がある

一般の方は今回参加できませんが、まわりで興味のありそうなお寺さまがいれば、この説明会のことを知らせてあげてくださいね。当日のレポートは後日彼岸寺でご報告いたします。

(桂浄薫)

桂浄薫

1977年、奈良県天理市・善福寺の次男として誕生。ソニーを退職後、2007年に僧侶となる。2015年、善福寺第33世に晋山し、和文のお経をオススメ。2014年から、おてらおやつクラブ事務局長を務め、お寺の社会福祉活動にコミット。1男2女1猫の子育てに励む。趣味はランニングと奈良マラソン。音痴と滑舌が課題。